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リッカルド・ムーティ語録:イタリア・オペラ・アカデミー・4

ヴェルディ:歌劇「アッティラ」

リッカルド・ムーティによる東京春音楽祭・イタリア・オペラ・アカデミーは当初2019〜23年に3回(リゴレット・マクベス・仮面舞踏会)が行なわれて、一旦の区切りが付きました。その後2024年春に、急遽アカデミー4回目として・歌劇「アッティラ」を取り上げることが決まりました。開催時期は春から夏(9月)に変更となりました。吉之助は2024年の回も、ムーティによるイタリア・オペラ・アカデミーの作品解説とリハーサルの一部を聴講しました。メモを捨ててしまうのはとても惜しいので、サイトに記録として残しておくことにしました。ムーティの人柄が分かると同時に、作品理解の参考にもなろうかと思います。ムーティの言葉は同日の同時通訳をメモったものですが、もし不明な点があれば、それは吉之助の責任です。

  


〇2024年9月3日・中目黒・東京音楽大学内・TCMホール
ヴェルディ:歌劇「アッティラ」作品解説

・これはヴェルディの生前から起こっていたことですが、楽譜に書かれている指定を無視して・効果(エフェクト)を求める、このような偽の表現に対して、私(ムーティ)は60年間ずっと戦い続けてきました。

・ヴェルディはパレストリーナなどナポリ楽派から多くを学びました。ヴェルディは古典派を踏まえたロマン派です。

・プロローグとは、行動(アクション)が起こる前と云うことです。だからプロローグでは、音楽だけでドラマティックなシチュエーションを描いてみせなければなりません。演出家はここで(馬や戦車を出したり)いろんなことをしたがるだろうが、それは不要なことですね。

・音ひとつひとつを奏でるのではなく、フレーズにして下さい。

・ヴェルディは三つの音だけで、ドラマティックな感情を描くことができますね。

・ピアノはフォルテよりも、ずっと濃くなければなりません。

・ヴェルディでは、オーケストラが劇(ドラマ)の一部を担うのです。

・歌詞では名詞よりも形容詞の方が大事です。

・イタリア語では、常にレガートが重要です。

・(プロローグ第2場)嵐が止み・空が明るくなり・太陽が昇ってくるオーケストラのクライマックスは、ヴェルディがとても大事にしたシーンでした。この音楽は「ツァラトストラ」よりずっと以前のことです。


〇2024年9月5日・大手町・SMBCホール
ヴェルディ:歌劇「アッティラ」・オーケストラ・リハーサル・第2日

・聴衆が意味を理解できるようにフレーズを作ってください。音楽が常に動いていることを示してください。

・(指揮者に)振り方はひとつに決まっているわけではありません。6でもいろいろ振り方はある。

・フォルティシモは丸い音なのです。

・音楽用語のアンダンテは、イタリア語のアンダーレ(行く・進む)から来ています。

・(第1幕第2場)ヴェルディはここでクーポ(暗く)という言葉を使います。それは覆われた洞窟(暗くこだまする)のようなイメージです。

・指揮者は伴奏者であってはいけません。一緒に音楽を作るのです。

・(歌手に)言葉の意味を歌ってください。

・細かいことを言っているようだが、私(ムーティ)は音楽的な正確さにこだわっているのではなく、演劇的な根拠を求めているのです。

・ヴェルディが指定している休止には、演劇的な意味があるのです。こういう箇所を歌手たちが無視しているので、私(ムーティ)はこの60年間ずっとこれと戦ってきたのです。

・(指揮者に)オケの指定がフォルティシモであっても、そこに歌手がいることを忘れないように。

・ヴェルディのトレモロは早いのではない。もっと早いのです。それは何か危険な信号です。

・(指揮者に)左手の方が大事ですよ。左手で歌手やオケにストーリーを語るのです。

・装飾音がアクセントになってはいけません。


〇2024年9月6日・大手町・SMBCホール
ヴェルディ:歌劇「アッティラ」・オーケストラ・リハーサル・第3日

・フォルティシモと云ったって、凶暴なわけじゃない。それはイタリア文化に対する誹謗中傷だと受け取りますね。

・(指揮者に)あなたのマインドの延長が腕なのです。

・ヴェルディは凄く正確に描く作曲家なのですから。

・イタリア語のア(a)は、一番危険な・とても難しい母音です。

・(歌手に)無理にプッシュしない。自然に歌って。

・(指揮者に)メロディーばかり振らないでください。オケをサポートせねばならないところを指揮してあげてください。

・レチタティーヴォが軽んじられて・しばしばカットされたりするのは、1)指揮者がイタリア語の歌詞がわからないから、2)みんなアリアを聞きたがっているから。こうしてしまったのは、みんな私たち指揮者のせいなのです。

・レチタティーヴォのなかにストーリーがあるのです。

・(指揮者に)自分のテンポにこだわらないで。歌手が歌いやすいテンポに持っていかねばならないこともあります。例えばドラマティック・ソプラノは、あまり早いテンポを取ると、上手く歌えない。

・(プロローグでの兵士の合唱)マーチみたいにコミカルにやらないように。十六分音符を少し長めに取ってください。イタリアでもこういう風にやりがちです。あなた方が悪いのではない。「慣習」が悪いのです。兵士たちもアッティラを恐れているのです。

・(合唱に)ヴェルディはこう言っている。「合唱はグループではなく、個々の人格を持った人たちの集まりである」。だからそのようなカラーで以て歌って下さい。


〇2024年9月8日・池袋・東京音楽大学内・100周年記念ホール
ヴェルディ:歌劇「アッティラ」・オーケストラ・リハーサル・第4日

・同じ音をただ繰り返せば良いのではない。同じ音を繰り返しても、そこには常に変化があるのです。

・(指揮者に)歌手をちゃんと見て指揮をしてくださいね。歌手がよく声が出るようにサポートしてあげてください。

・(オケに)フォルティシモでも合唱が聞こえなくなるような、大きな音を出してはいけません。

・イタリア語はそもそもレガートな言語です。当たり前のことだからヴェルディは楽譜に書いていないだけのことで、だからヴェルディの音楽の基本もレガートなのです。

・簡単に見えるようなことでも、その本質をじっくり考えてみなければなりません。

・指揮者は歌手と共に音楽していると感じるようにしてあげてください。

・(指揮者に)演奏者は鏡の前で練習することもできますが、指揮は指揮台の上でしか練習することが出来ない。指揮者はオケのみんなの前で失敗して・恥をかきながら学んでいくしかないのです。あなたの失敗はみんなお見通しです。その時は素直に間違えましたと云えば良いのです。

・(第2幕第2場・祝宴の場)ハッピーな場面なのだが、何か悲劇が起ころうとしている。そのことをカラーで示してください。

・(オケに)合唱には楽器とは異なる表現の仕方がある。だからオーケストラは可能な限り合唱に合わせるように。



〇2024年9月10日・池袋・東京音楽大学内・100周年記念ホール
〜ヴェルディ:歌劇「アッティラ」・オーケストラ・リハーサル・第6日

・(指揮者に)指揮者の身振り(表現)が、言葉と(テキストと)合うようにしてください。

・(合唱に)常にラインをつなげて。自由に。

・(第3幕・三重唱)表面的にならないように。同じメロディの上で、三人がそれぞれ異なる感情を歌っています。それをひとつのものにして、みんなで演劇を作るのです。

・(歌手に)歌詞の意味が大事です。メロディだけに従わないでください。

・イタリアオペラに慣れていない若い指揮者は、音符を読んでも、楽譜に書いてある指示を読んでいないことが多い。

・今の指揮者は俳優みたいになっていますね。でも今のお客さんはそういうのが好きなんですよね。

・歌劇「アッティラ」の要素は二つあって、一つはアッティラの物語と云うことですが、もう一つはヴェルディにはイタリアをひとつにする(統一する)という目標があったと云うことです。だから本作は革命的な作品なのです。このことをよく考えてみてくださいね。

・モーツアルトがミラノに行った時、ミラノ公国はオーストリアの支配下にあったので、モーツアルトはパスポート無しで行けました。ヴェルディがミラノに行った時には、彼はブッセートの生まれであったからパスポートが要ったのです。同じイタリア人であるのにですよ。

・(指揮者に)指揮する時にプレーヤーの目を見てください。内に入っていくのです。

 

(追記)2019年の「リゴレット」、2020年の「マクベス」、2023年「仮面舞踏会」でのムーティ語録もご覧ください。

(R6・9・24)


 



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