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五代目富十郎・十三回忌追善の「翔の会」

令和5年10月6日浅草公会堂:「矢の根」・「二人椀久」

初代中村鷹之資(曽我五郎時致)、六代目中村児太郎(曽我十郎祐成)、市川九団次(大薩摩主膳太夫)、市川猿弥(馬士畑右衛門)(以上「矢の根」)

初代中村鷹之資(碗屋久兵衛)、渡辺愛子(松山太夫)(以上「二人椀久」)

(中村鷹之資・自主公演・第8回・「翔の会」)


浅草公会堂での鷹之助の自主公演「翔の会」を見てきました。本年は平成23年(2011)1月3日に81歳で亡くなった五代目富十郎の13回忌となるそうです。富十郎はかつきりとした芸風・明瞭な口跡で吉之助も好きな役者のひとりでした。武智歌舞伎の薫陶を受けた人ですから、武智鉄二の弟子を自認する吉之助にとって親近感があると云うこともあります。今回の「翔の会」では追善の意を込めて富十郎の短いプライべート映像(カメラに向かって富十郎が昔の思い出をひとり語りする)が上映されて、キビキビした・ちょっと気忙しい感じもある富十郎の語り口を懐かしく思い出しました。

富十郎の長男・鷹之助は現在24歳で・最近めきめき頭角を現してきました。今回の「翔の会」は、歌舞伎十八番の「矢の根」の曽我五郎と、これは富十郎を知っている方にとって忘れられない舞踊「二人椀久」の椀屋久兵衛を妹の渡辺愛子の松山太夫と一緒に踊るという意欲的なプログラムです。

「矢の根」は(二代目松緑が五代目富十郎に伝授したそうですが)富十郎が現・四代目松緑に伝授し・今回は松緑がお返しする形で鷹之助に伝授したと云うことで、こういう形で伝承が連なっていくわけですね。鷹之助は動きがキビキビして角々の決めの形も美しく、テンポが良いので・芝居の感触が重ったるくならず・楽しく見ることが出来ました。荒事と云うのは童子の心で演じるものである通り、ここは若さの良いところが出たと思います。

台詞についてはちょっとだけ注文を付けたいと思います。さすが父・富十郎譲りの声で発声が明瞭・甲の声もよく出て・最初はホウと感心しますが、ちょっとガナり過ぎの感があって、だんだん耳に煩くなって来ます。荒事は声を張り上げて元気よく怒鳴るものではなく(そう云う風に思っている役者が多いようだけれど)、狂言の流れを汲む「しゃべり」の芸なのです。端正さが大事、そうでないと「様式」になりません。「矢の根」のことばかり考えず、その発声で「勧進帳」や「助六」とか「鳴神」の台詞までも処理できるか、他の役のことまで考えて欲しいですね。荒事の共通した様式を考えてみてください。(今月末には「鳥居前」の忠信を勤める予定であるはず。)勉強会なのだから、将来を見据えてそう云う試行錯誤をじっくりやって欲しいと思います。それと台詞を七と五で割ってしゃべるみたいな感覚が若干しますね。本来のリズムは、例えば

「ヒガ/シハ/オウ/シュウ/キタガ/ハマ」

で、二拍子ですけれど、

ガシハ/オウシュウ●/キタガハマ」

と言っているかに聞こえます。しっかり二拍子のリズムを踏んで・しゃべりの形を崩さず・急かないことです。(別稿をご覧ください。)

富十郎の「二人椀久」は、雀右衛門とのコンビで何度か見ました。実説の椀屋久兵衛と松山太夫の年齢は不詳のようですが、こういうお話はやはり久兵衛と松山コンビに若さのイメージがないとリアリティがない、と云うか面白くなりません。富十郎・雀右衛門はそこを芸の力で魅せましたが、鷹之助・愛子はそこを身体的な若さで魅せました。身体の若さそのものが放つメッセージというのはやはりあるものですね。

(R5・10・8)


 

 


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