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五代目菊之助の白拍子花子

令和5年7月大阪松竹座:「京鹿子娘道成寺」

五代目尾上菊之助(白拍子花子)


菊之助の「娘道成寺」は、本興行としては令和元年(2019)5月歌舞伎座以来であると思います。(間に令和3年・2021・8月国立劇場・無観客での映像収録が挟まります。)菊之助は、現在45歳。今回(令和5年7月大阪松竹座)の舞台は、現時点で技芸・体力の総合からも「娘道成寺」のひとつのピークを示すものと見て宜しいかと思います。まさに気力充実、安定した踊りで、一瞬たりとも目が離せない面白さです。

菊之助の白拍子花子を見ていて、特に横顔ですかねえ、菊之助の祖父・七代目梅幸の面差しをふと思い出す瞬間がいくつかありました。菊之助の折り目正しい踊りが、そんなことを想わさせるのでしょう。梅幸の花子は、ほんのり明るく色づいて可愛らしい印象がしたものでした。一方、菊之助はそこの感触が微妙に異なっていて、どこか陰を背負ったような印象がします。暗いということでもないのだが、しっとり落ち着いた色調です。これは菊之助が清姫の鐘の恨みを強く意識していることに拠ると思います。つまりそれだけ菊之助の方が本行(能)寄りの感触だということです。そこに祖父との個性の違いを見せています。これはどちらが良い悪いとも言い難い。世代の違いにより古典(クラシック)への対し方が微妙に変わってくると云うことがあるかと思います。令和3年国立劇場での映像については「娘道成寺」が「かぶき」の道成寺であることの意味はどこにあるかと云う問題を主に書きましたけれど、生(なま)の舞台のライヴ感覚のなかで吉之助の印象も変わってくるのは、菊之助が筋が一本通ったものをそこに保持しているからに違いありません。

菊之助の「娘道成寺」の見ものは、後半の鞠唄以降であると思います。そこでは菊之助のなかの・明るさと暗さが微妙な均衡を保っています。明るい場面に暗い陰がふっと差す瞬間があったりして、菊之助の設計の巧さがよく分かります。翻ってこの後半部の面白さは、道行を含む前半部に於いて鐘の恨みを幾分暗めの感触でしっかり踊り込んでいるからこそ生きて来ると云うことなのです。したがって今回は鐘入りまでで・押し戻しは付きませんが、「この踊りであれば押し戻しはまったく余計だ」と納得させるバランス感覚の良さ、いい踊りを見せてもらったという満足感が味わえます。

(R5・7・14)


 


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