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十三代目団十郎襲名興行2月目の「助六」

令和4年12月・歌舞伎座:「助六由縁江戸桜」

十三代目市川団十郎(十一代目市川海老蔵改め)(花川戸助六)、五代目坂東玉三郎(三浦屋揚巻)、初代坂東弥十郎(鬚の意休)、六代目中村勘九郎(白酒売新兵衛)、四代目市川左団次(くわんぺら門兵衛)、二代目市川猿弥(朝顔仙平)、二代目坂東巳之助福山かつぎ)、四代目市川猿之助(通人里暁)、五代目尾上菊之助(三浦屋白玉)、十代目松本幸四郎(口上)他

(十三代目市川団十郎白猿襲名披露)


今回(令和4年12月・歌舞伎座)・十三代目団十郎襲名披露・2月目の「助六」は、前月(11月)と顔ぶれを替えての上演です。前月の襲名披露演目(「勧進帳」・「助六」)について、団十郎の長年の課題である台詞の発声について改善の兆しが見えたと書きましたが、断言するのはまだ早い。と云うのは、ずっと期待してきたのに・ガッカリした経験が何度もあったからです。ぬか喜びはしたくありません。それを言うのは、もう少しいくつかの演目で確認をした後の・1年か2年ほど先のことにしたいと思います。しかし、襲名披露2月目の舞台を見た感じでは、少なくとも改善の取っ掛かりを掴んだ感じがしますね。昼の部の「押し戻し」、夜の部の「口上」も含めて、前月よりも・2月目の方が声の通りが良くなったと思います。発声の無理がないから、抑揚の悪い癖もあまり目立ちません。喉で声をコントロールしようと急くことなく、腹の底から声を出せば良いと云うことです。今月の役は相手役と掛け合いする場面が少ないせいもありますが、今月はそれが確かに出来ていたようです。この方向で改善努力を続けて行けば、先行きが期待できるでしょう。出来れば、歌舞伎十八番ではない演目を見たいものです。

2月目の助六は、かつての粗削りなギラギラした感じが奥に引き、先月よりもさらに落ち着いたこなれた感じになって・良い出来であったと思います。しかも成田屋らしい大らかさがあります。助六はこれでなくちゃあ嬉しくありません。特に見物は河東節に乗せた出端の踊りで、角々の決めのポーズの形も良かったが、しっとりとした風情が見えたところに団十郎の芸の進境が見えた気がします。

ところで今回の「助六」の注目は、新・団十郎のことはもちろんですが、玉三郎の・久しぶりの揚巻ということがあったと思います。当初2020年に予定された13代目襲名披露の「助六」(結果としてコロナのために中止)では玉三郎が揚巻で出る話はなかったわけで、恐らく今回も玉三郎は揚巻を演じるつもりはなかったと察せられます。それが12年ぶりの揚巻ということになったのは、玉様ファンの吉之助もびっくりでしたが、多分興行的な要請があったのでしょうねえ。揚巻の衣装は40キロを超える重量があるということで、体力的にもキツい役です。四代目雀右衛門が83歳で揚巻を演じた超例外はありますが、六代目歌右衛門が最後に揚巻を演じたのも68歳のことでした。玉三郎(現在72歳)も今回は相当な決意で臨んだと思います。

と云うことで今回の玉三郎の揚巻ですが、全体的な印象としては12年前(平成22年・2010・4月歌舞伎座・旧歌舞伎座さよなら公演)の揚巻とあまり大きな変化はないようです。悪態のツラネに女性のヴィヴィッドな感性を鮮やかに描き出しています。助六に対する熱い思いも、意休に対する意地(怒りと云うよりも意地でしょうねえ)もよく表出できています。と云うことは玉三郎60歳の印象を維持しているわけだから・そのこと自体が驚異と云えるわけですが、ただし、ここは吉之助が四十数年来の玉様ファンであるということでお許しをいただきたいですが、実は吉之助としては、玉三郎の揚巻にこの12年の歳月なりの芸の変容・進化が見たかったのです。(特に台詞において)より一層のフォルムへの研ぎ澄ましが欲しかったと思います。残念ながら、そこに若干の不満を覚えるところがありました。吉之助としては、もう少し息を詰めて言葉を後ろへ引っ張る感じにして欲しかったのです。これは必ずしもテンポを遅くするということではないのですが、台詞にもう少し粘りが欲しい気がしました。そこの感触がどことなくあっさりしていたように感じました(そこが良いと云う方も当然いらっしゃるでしょう)が、そこに揚巻は現在の玉三郎にとってやっぱり相当な重労働なのだと察せられた気がしましたね。まあこう感じたのは吉之助の過剰期待のせいもあったと思いますが、実は先日(10月名古屋御園座)での八重垣姫にも同様なことを感じたことでもあるので、ちょっと気になってはいるのです。

弥十郎の意休は抜擢だと思いますが、よく頑張っています。身体が大きいので見栄えがしますが、台詞の調子の強さはもう少し抑えた方が良いかも知れませんねえ。敵役然とした強さという単純なこととはちょっと違って、性格的な悪・要するに助六とは根本的にウマが合わないと云う意味での悪でしょうかねえ。茫洋とした悪の大きさが欲しいところです。勘九郎の白酒売は、団十郎の助六とちょうどいいコンビになっていたと思います。

(付記)12月歌舞伎座の「助六」の揚巻はダブルキャストで、5日〜15日が玉三郎、16日〜25日を七之助が勤めました。

(R4・12・16)



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