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八代目新之助初舞台の粂寺弾正〜「毛抜」

令和4年12月・歌舞伎座:「毛抜」

八代目市川新之助(堀越勸玄)粂寺弾正)、五代目中村雀右衛門(腰元巻絹)、四代目中村梅玉(小野春道)、三代目市川右団次(八剣玄蕃)、八代目中村芝翫(小原万兵衛)、二代目中村錦之助(秦民部)、六代目中村児太郎(秦秀太郎)、四代目中村歌昇(八剣数馬)他

(八代目市川新之助初舞台)


今回(令和4年12月・歌舞伎座)の「毛抜」については、新・新之助初舞台(9歳)の演目として如何なものかという批判は出て当然だと思いますし、吉之助も正直なところ「まあ御愛嬌だと思って見ましょうか」と云う感じで最初舞台を見ていたのですが、(もちろんそうでなくっちゃなりませんが)新之助は真剣そのもので演じていたのには驚きもし・感心もしました。粂寺弾正を演じたいと云うのは本人が言い出したそうですが、その気持ちに偽りないことは、舞台を見ればよく分かりました。観客席が新之助を見守る雰囲気になっていたのは、これは自然なことです。新之助が長い台詞をしゃべるのを息を詰めて聞き、言い終わると・ホッとした感じで、その度に盛大な拍手が沸き起こりました。ガンバレ・ガンバレという雰囲気でありましたが、新之助には心配は無用なようでした。観客のハラハラをよそに新之助は淀むところなく台詞を言い終えて、舞台振りは堂々たるものでありました。もちろん「9歳の役者の芝居」としては・・と云うことですが、出来を真正面から論じるわけに行かないにしても、しかし、新之助は家の芸に精一杯取り組んで、これから役者の道を歩んでいく気概を見せました。演技が伸びやかで素直なことは、何にも代えがたいことです。ここは新之助初舞台を真摯にサポートした共演の役者さんたちにも賛辞を贈らなければなりません。吉之助が将来彼が十四代目を襲名する舞台を見ることは無理ですが、若い歌舞伎ファンの方はこの新之助の舞台をよく目に焼き付けておくことです。「私は十四代目の初舞台を見たんだよ」と将来きっと自慢出来ると思います。

荒事に必要なのは「童子の心」だと言いますが、純粋無垢な気持ちで取り組んだ新之助の粂寺弾正には、そういう口伝を思い出させるところがあったようです。「ソウソウ「毛抜」って云うのは・こういう他愛ない大らかな芝居なんだよ、難しい理屈なんかないんだよ」というところを思い出させてくれました。重ったるくなく、軽い感じで出来たところは、なかなかのものでした。もちろん9歳の新之助(童子)であるからこそ出せたものだと思います。そう云うものは成長の過程で次第に失われてしまうのが世の常でありますが、願わくば、この純粋無垢な気持ちを忘れず、これに芸容の大きさを加えて行って欲しいと思いますね。

ところで新之助の台詞は淀みなく、総体として立派なものでしたけど、ここからは新之助の台詞指導をなさった方に申し上げたいですが、相手役の台詞を受けて返す時の台詞の頭が、高めに浮く傾向が若干見えるようです。例えば、秀太郎に対する「これはそこもとが民部殿のご舎弟・・」、巻絹に対する「これはお心に掛けられ忝いことでござる・・」の、「これは」は、「こ」から高く入るのではなく、「こ」を下げて・二音目の「れ」を上げる。二字目起こしが台詞回しの大原則なのですから、ここは癖に固まらないうちに早急に直して欲しい。ここが出来てない役者さんは少なくありませんからね。

(R4・12・11)



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