エリザベートの「うっせいわ」
暑い、暑いですねえ。吉之助は気温30℃を超えると頭が働かなくなるので、今回の雑談はYoutube映像の紹介でお茶を濁しますが、これはなかなかパンチのある映像です。この映像の作者の、かちひろこ(可知寛子)さんは本職のミュージカル女優だそうです。歌唱力はもちろん素晴らしいが、替え歌の歌詞がなかなかのものです。これ自宅での・手作り映像だそうですけど、上手いものですねえ。
原曲の「うっせいわ」というのは、Adoさんと云う・現在18歳の女性歌手の歌だそうです。そちらの方面に無関心な吉之助はこの映像で初めて知りました。昨年(2020)10月にリリースされて現在も大ヒット中の曲だそうです。なるほど現代の若者の気分はこう云う感じなのだろうなあと納得させられますが、そちらの原曲ではなく、かちひろこさんの替え歌の方を紹介するのは、19世紀のハプスブルク王家のエリザベート后妃(エリザベートが暗殺されたのは1898年)が置かれた緊迫した政治的状況と、華やかだけど慣習・仕来りに縛られた窮屈な宮廷生活、コロナ緊急事態で国民が自粛生活を強いられる傍らでオリンピックをやっていると云う・2021年のこの奇妙な状況とは、もちろん外見的には全然異なるようだけれども、「うっせい、うっせいわ」というイライラした気分で何となく連続している、多分現在の方がもっと複合的で・どうしようもなくなっているというところが、この映像を見るとよく実感できるからです。だからAdoさんの原曲のパロディでもなく、「エリザベート」のパロディでもなく、見事に綯い交ぜの面白さを見せているということです。吉之助風にいえば、裂け目がはっきりしてエッジが立っているということです。(別稿「四代目鶴屋南北と現代」をご参照ください。)
魅惑のかちひろこ:エリザベートの気持ちになって「うっせいわ/Ado」歌ってみた
本サイトは歌舞伎のサイトですから付け加えますと、この映像でエリザベートが歌っている気分というのは、これをそのまま「本朝廿四孝・十種香」の八重垣姫や、「桜姫東文章・岩淵庵室」の桜姫の気分に置き換えても良いものです。もちろん歌舞伎は古典ですから守るべき様式はしっかり守らねばなりませんが、古典的に納まり返っちゃうのではなく、その古典的な枠組みを破綻させるような熱いものを内面に持つことで、古典はヴィヴィッドなものに出来るのです。この映像には、そのようなヒントがあると思いますね。
(R3・8・4)