フランツ・ウェルザー=メストの録音
スッペ:喜歌劇「軽騎兵」序曲
クリーヴランド管弦楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)クリーヴランド管の響きが滑らかで輝かしく・リズムも軽やかで、喜歌劇の序曲というよりは・コンサート序曲の風ですが、楽しく聴かせます。
モーツアルト:ピアノ協奏曲第17番
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)
クリーヴランド管弦楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)アンスネスのピアノはクリスタルな響きで・タッチも軽やか、オケの響きも滑らかで・リズムも軽やか、テンポ設計も良し。上質の座席で音楽を聴く風で、それならば良い出来だと言いたいところですが、リズムの打ちが浅くて、音楽がサラサラ進んで・旋律が耳に付いて来ません。旋律を息深く歌わず、リズムの勢いだけを追っている感じで、響きは心地良いですが、聴いた後で何を聴いたか・全然印象に残りません。これはアンスネスの行き方にも問題なくはないように思いますが、ウェルザー・メストのサポートも、後プロのアリアの伴奏ではしっかり旋律の息を取っているだけに、どうして協奏曲ではこうなるのか、ちょっと理解に苦しむところがあります。
モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」より伯爵夫人のアリア
「愛の神様、慰めの手を差し伸べてください」(第2幕)
「スザンナはまだ来ない~甘さと歓びの美しい時は」(第3幕)ドロテア・レッシュマン(ソプラノ)
クリーヴランド管弦楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)レッシュマンの声がとても美しく、端正な歌唱のなかにも感情がみずみずしく表現されていています。オペラが巧いウェルザー・メストだけに、ここでのサポートは旋律の息もよく取っていてさすがに聴かせます。
ヨハン・シュトラウス:ワルツ「芸術家の生活」
アンネン・ポルカ
喜歌劇「こうもり」序曲
クリーヴランド管弦楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)オーストリア出身のウェルザー・メストだけにウィーン情緒溢れるシュトラウスかと思いきや、アメリカのオケではそれもならぬのか、どちらかと言えばオケの自発性に乗ったかのように聴こえます。「芸術家の生活」とアンネン・ポルカの2曲はフレーズに沿ってテンポの緩急をかなり付けており、作為的な感じで・ちょっと落ち着かない演奏です。アメリカ的にはこれでちょうど良いのでしょうか。まあヨハン・シュトラウスで目くじら立てることもないし、気楽に楽しめば良いわけですが、ワルツは旋律が進むにつれてリズムの回転 にはずみがついて・どんどん早くなるという風ですし、ポルカの方は劇的緩急です。そこへ行くと、ウェルザー・メストはやはり劇場人なのか「こうもり」序曲はコンサート風に割り切った感じはしますが、まっとうな解釈で安心して聴けます。
ハイドン:交響曲第98番
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール、プロムス公演)テンポをきっちり取って・折り目正しい印象で、ウェルザー・メストの解釈としては古典的なハイドン像を目指していると思います。リズム早めで、小気味が良い演奏です。第2楽章などさっぱりした印象です。しかし、若干旋律線が硬い感じもあって、両端楽章などにところどころメカニカルな感じがしてあって、もうちょっと旋律を歌って欲しい気がします。ザロモン・セットならもう少しロマンティックに行っても良いようにも思いますが、あるいはそういう考え方に対するアンチテーゼなのかも知れません。
シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール、プロムス公演)出だしはテンポをやや速めに取って・サラサラとした感じがして、まだエンジンが暖まっていないようでもあり・若干印象が軽めに思えますが、曲が進むにしたがって・テンポの打ちがしっかりして来ます。第2楽章以降は素晴らしいと思います。早めのテンポの・スッキリした造型ですが、リズムがしっかり打てているので、シューベルトの旋律が心に沁みる心地がします。特に中間2楽章が聴き物で、後味を引かない程良い甘さのロマン性が感じられて、ウィーン・フィルの滑らかな弦・木管の柔らかい響きが良く生きています。この清々しさは何にも代えがたいものです。ウェルザー・メストとウィーン・フィルとの相性の良さを感じさせます。これに続く第4楽章はことさらスケールの大きさを誇示するのではなく・小振りな感じもしますが、位置付けとして十分納得できるものです。