(戻る)

ヴァントの録音


○1995年3月29日ライヴー1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

もともとカルロス・クライバーが振る予定であった演奏会がキャンセルになったことにより・急遽ヴァントがベルリン・フィル初登場になったということです。このところ透明で軽い響きに変化してきた印象のあるベルリン・フィルが久しぶりに定重心の濃厚な音色を出している点が注目されます。ヴァントはリズムを明確にとって・旋律線を強調してタッチの太い好演を行っています。しかし、ベルリン・フィルの持つ色彩的な響きはヴァントの意図したものよりはグラマラスな音楽を作り出しているようにも思われます。テンポは心持ち早めに感じられます。旋律にあまり感情移入をしないせいか・古典的にまとまった印象があります。特に第1楽章が引き締まった深みのある演奏に仕上がりました。


○1995年3月29日ライヴー2

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ヴァントはリズムを明確に取って・旋律線を強調した線の太い演奏を心掛けています。ベルリン・フィルの響きも久しぶりに聴く低重心の暗めの響きで・いかにもドイツ的という感じがします。しかし、ベルリン・フィルの持つ豊穣な響きがヴァントの志向している骨太い音楽作りと必ずしもマッチしていない感じがします。テンポはやや早めで 、完全なインテンポではないですが、ズムが明確に取れているので、古典的に引き締まった整然とした印象が強くなります。さずがに手馴れたベテラン指揮者という感じです。テンポをあまり揺らさず安定感のある第1楽章がよい出来です。第2楽章も深みのある表現です。第3・第4楽章ではベルリン・フィルの機能性が十二分に発揮されてスケールの大きい表現に仕上がっています。


〇1996年1月12日ライヴ

ブルックナー:交響曲第5番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ここでのベルリン・フィルはアバドの時の透明な響きとは少し異なり、低重心の渋い響きを出しています。これは昔風のドイツのオケらしい響きで、聴いているとちょっと懐かしい気分になります。ヴァントのブルックナーのテンポは全体的にやや早めで、テンポを微妙に伸縮させていて、意外とスタイリッシュな感じがします。もう少し骨太いブルックナーの方がベルリン・フィルには似合う気もしますが、ただこの地味な交響曲をもたれず緊張感を保つのはなかなか難しいことで、多少の工夫は必要であると思います。両端楽章においては、ベルリン・フィルの金管の威力が十分に発揮されています。


○1996年4月7日・9日ライヴ

ブラームス:交響曲第1番

ベルリン・ドイツ交響楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポを早めに取り・造型もメリハリがついて、思いのほか若さに溢れた演奏です。聴き所はやはり両端楽章でしょう。力のこもった演奏です。第1楽章はかなり快速テンポで始まりますが 、展開部でテンポを落とすなど、極端な変化ではないですが、微妙にテンポを伸縮させています。やや低弦が弱いようで・響きがやや薄めに感じられること、テンポがちょっと早過ぎて・せきたてられる感じが少々あるのがちょっと難点かも知れません。音楽に勢いがあるのはいいのですが、もう少し肩の力を抜いた方が味わいが出るだろうと思います。


○1997年1月31日ライヴー1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

北ドイル放送交響楽団
(ハンブルク、ムジーク・ハレ、シューベルト生誕200年記念コンサート)

95年のベルリン・フィルとの演奏と解釈もテンポもほとんど変わりません。しかし、ベルリン・フィルの響きはグラマラスで・ヴァントの作り出す音楽とは資質の違いが若干あったようで・幾分よそ行きの雰囲気があったが、手兵を率いたこの演奏ではヴァントの意図がストレートに表現されていると思います。当年85歳ということですが、演奏は若々しく・力強い印象です。テンポも若干速めの感じですが、リズムを明確にとって・訥々と語り・独特の渋い味わいがあります。ヴァントは古典的な厳しい造形を作ろうとしており、渋い響きの北ドイツ響がその意図によく応えています。特に第1楽章は渋く厳しい表現であると思います。


○1997年1月31日ライヴー2

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

北ドイル放送交響楽団
(ハンブルク、ムジーク・ハレ、シューベルト生誕200年記念コンサート)

全体の印象は当日の「未完成」と同じなのですが、「ザ・グレート」は曲自体が大きくロマン性に傾いていることもあって、テンポの変化も自在さを増して・表現に幅が出てくるようです。それにしても表現が若々しく・引き締まった造形で、古典交響曲として均整の取れた印象です。ヴァントはここでもリズムを明確にとって・音楽が流麗に流れるのを拒否するようなところがあり、これが渋い印象を与えているようです。力強く・活力のある両端楽章が良い出来ですが、第2楽章の渋さもまた良いと思います。


○1998年1月30日・31日、2月1日

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、BMGクラシックス・スタジオ録音)

テンポを心持ち早めに取って・若々しい表現の演奏に仕上がっています。出来の良いのは第1がk章です。テンポを微妙に伸縮をつけて・表現を引き締めているのも巧いと思います。一気に駆け抜けて行くような勢いを感じます。全体に太い線が一本通っているのは良いのですが、強いて言えば音色がやや単調です。ブルックナーの色合いが刻々と微妙に変化していくような欲しいのですが。細部のちょっとしたところでの・ピアニシモもいまひとつの感じです。そのせいか第2・3楽章がちょっと重い感じに思えます。特に第3楽章はもう少し軽めのタッチの方が良かったように感じます。ベルリン・フィルの金管はよく鳴っていますが、鳴らし過ぎの感じがあり・少々うるさく感じます。ヴァント本来の持ち味よりもオケの響きが豊穣過ぎるような感じがします。


○1999年11月19日〜21日ライヴ

ブルックナー:交響曲第7番(ハース版)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、BMGクラシックス・ライヴ録音)

テンポの動きが少なく、インテンポに近い感じで・若干早めに淡々と進める感じです。このテンポ設計自体は悪くないと思いますし、オケもベルリン・フィルですから技術的にも申し分ありません。しかし、全体通して聴くと、どうも一本調子で印象に残る部分が少なく・ ちょっと魅力に乏しい演奏だと思います。朴訥一本で攻めまくっても・線が太いだけではどうにもならない感じです。ブルックナーの音楽になかにある響きの色合いの揺らぎ・移ろいを十分に表現できていない感じがします。リズムが前面に出る第3〜4楽章は金管がよく鳴っており聴かせます。


○2001年1月19日〜22日ライヴ

ブルックナー:交響曲第8番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、BMGクラシックス・ライヴ録音)

ヴァントとベルリン・フィルとのブルックナー・シリーズのなかで最も出来が良いものかと思います。ベルリン・フィルの金管が渋く重厚な輝きを見せます。テンポ設計もしっかりしていて・四つの楽章の連関が緊密です。テンポは決して早くありませんが、快適で淀みのないテンポで・音楽の足取りがしっかりしており、すべてのフレーズに説得力を感じます。曲の展開につれ・景色が変化してくのが実に快く感じられます。スケール感も申し分ありません。この辺がヴァントの手腕の確かさだと思います。


(戻る)