ワルターの録音(1959年)
ベートーヴェン:交響曲第1番
コロンビア交響楽団
(ハリウッド、アメリカン・レジオン・ホール、米CBS・スタジオ録音)コロンビア響は頑張っていますが・響きにもう少し潤いがあればと思うところがあるのは確か。しかし、ワルターはベートーヴェンの若書きのスコアから古典的格調のある音楽を作り出しています。暖かい微笑を浮かべるような・大家の芸なのです。その余裕と落ち着きのあるテンポ設計が格別です。第1楽章は生き生きした表情を堪能させますが、ゆったりしたテンポの第2楽章がこれまた素晴らしいと思います。第3・4楽章のしっかりとリズムを討ち昆で、表情に余裕が感じられる音楽も魅力的です。
モーツアルト:交響曲第40番
コロンビア交響楽団
(ハリウッド、アメリカン・レジオン・ホール、米CBS・スタジオ録音)全体にテンポをゆっくりと取って・まったく急くところがありません。淡々とした足取りのなかに音楽自体の持つ情感が立ち上ってくる感じです。オケの高弦は実によく歌っています。第1楽章はその自然な表情が魅力的です。リズム感がよく表情が引き締まった後半の2楽章は特に素晴らしいと思います。「モーツアルトはワルター」という定評を実感させます。
シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」
コロンビア交響楽団
(ハリウッド、アメリカン・レジオン・ホール、米CBS・スタジオ録音)さすがに巨匠の芸と言うべきか・ゆったりとした構えのなかに器の大きさを自然に感じさせます。第1がk周防冒頭部は非常にテンポが遅く・重苦しい霧のなかにある印象が展開部に入って、さわやかに晴れ渡ります。無理な力を入れることなく・自然な表情でスケール感を表出しています。リズムがよく打ち込まれて旋律は十分に息長く歌い込まれています。第2楽章も実にしみじみした味わいのある音楽になっています。第3・4楽章もオケのダイナミックな動きを生かしつつ、威圧的な表情になることなく・スケール感の大きい演奏になっています。
ワーグナー:舞台神聖祭典劇「パルシファル」〜前奏曲と聖金曜日の音楽
コロンビア交響楽団
(ハリウッド、アメリカン・レジオン・ホール、米CBS・スタジオ録音)テンポがゆっくりとして・響きの練り具合を確かめるように旋律がじっくりと歌われ、荘厳な宗教的な雰囲気をよく表現しています。コロンビア響は弦が柔らかく・金管は深みのある音色で、晩年のワルターの個性がよく出た感動的な名演だと思います。
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」〜第4楽章
エミリア・クンダリ(ソプラノ独唱)、ネル・ランキン(メゾソプラノ独唱)
アルバート・ダ・コスタ(テノール独唱)、ウィリアム・ウィルダーマン(バリトン独唱)
ウェストミンスター合唱団
コロンビア交響楽団
(ニューヨーク、CBSスタジオ録音)53年のニューヨーク・フィルとの録音と比べると、リズムを明確に取って力強さを前面に出した基本的な解釈に大きな変化は見られませんが、トスカニー二的な印象から離れて、自分なりのスタイルに消化されたものとなってきたように感じられます。わずかにテンポが遅くなり、旋律が余裕を以て歌われているので、一段とスケールが大きくなり、ヒューマンな味わいが濃くなっています。録音が独唱・合唱をややオンに取り過ぎの感じがします。歌詞が明確に伝わりメッセージ性が強くなっているようですが、オケとのバランスが悪く不自然な印象です。独唱はテノールのコスタがなかなか良いですが、ソプラノのクンダリは声を張り上げ過ぎの感じがあります。
ブルックナー:交響曲第9番
コロンビア交響楽団
(ハリウッド、アメリカン・レジオン・ホール、米CBS・スタジオ録音)さすがにワルターはブルックナーのツボをよく心得ています。テンポを作為的に取らず、音楽の流れを大事にする行き方です。ブルックナーの音楽の持つ器の大きさが自然に泡られて、とても水準の高いブルックナーだと思います。これでオケに微妙な音合いの変化が出せれば言うことはないのですが、コロンビア響は弦に若干柔らかさが不足のところがあり、第3楽章などはもう少しニュアンスが欲しいと感じるところがあります。そこが残念はありますが、しかし、線がスッキリと明解なことには良い面もあって、例えば第2楽章スケルツオのようにリズムが前面に出る場面においては、逆にオケの個性がマッチしてくるという面白さがあります。
モーツアルト:交響曲第38番「プラハ」
コロンビア交響楽団
(ハリウッド、アメリカン・レジオン・ホール、米CBS・スタジオ録音)これは素敵な演奏です。小編成オケと思われますが、響きがスッキリとして透明で美しいと思います。特に高弦が実に気持ちよく旋律を歌っています。リズムが快適で、表情が自然で柔和なのです。テンポ設定が実によく、音楽が生き生きとして・心地よく流れのなかに浸れます。これでこそモーツアルトという感じがします。第1楽章序奏から響きが重くなく・軽やかさを以って展開部に流れ込んでいく・その流れの妙。一転して第2楽章はゆったりした流れのなかに安らぎが感じられます。第3楽章が表情が実に自然で軽やかで、これまた良い。ワルターの至芸と言うべきでしょう。