トスカニーニの録音(1950年)
シューベルト:交響曲第8番「未完成」
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)早いテンポで進められる第1楽章はその推進力のなかに何かしら悲壮感のようなものを感じさせます。さらに第2主題では回想か慰めのような感情を引き起こします。歌心のあるトスカニーニだけに、簡潔ななかにも無限の情感を込めて歌いこんでいきます。対照的に第2楽章はゆったりとした表現で、シューベルトのロマン性を大らかに歌い上げています。スッキリとした純音楽的表現でドイツ的情緒には遠いのは事実ですが、この曲の近代的スタイルの演奏の代表であると言えましょう。
ケルビー二:レクイエム
ロバート・ショウ合唱団
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)息深く表情豊かな合唱は厳しいトレーニングの成果だと思いますが、力演だと思います。合唱を締め付けることなく、ゆったりと手綱を取って、朗々とした合唱を見事に引き出しているところが、トスカニー二の巧さであると思います。
モーツアルト:交響曲第40番
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)速いテンポで表情がキリリと引き締まった、とても美しい演奏です。全曲を通して、古典的な形式が厳粛な美しさを湛えています。特に第1楽章が冴えた表情で、心惹かれます。テンポは疾走するようですが、旋律がしなやかに歌われて、表情に硬さがまったく見られません。少し冷たさを帯びた哀しみが疾走するような感覚があります。後半の2楽章もリズム感が心地よく、表情が引き締まって、速めのテンポが実に小気味良く感じられます。
スメタナ:交響詩「モルダウ」
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)トスカニーニなら情景描写に背を向けて純音楽的表現に徹するかと思いきや、以外に情緒たっぷりの演奏を展開しています。テンポが心持ち早めなのと、農民の踊りのリズム処理に多少乾いた感じがあるとことにトスカニーニらしさが見えています。桶の出来が素晴らしく、特に水面に月の光が映える場面での澄み切った美しさは、NBC響の弦の優秀さをよく示しています。
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)トスカニーニの語り口の巧さが楽しめます。テンポがよくて、場面のめまぐるしい展開が小気味良く感じられます。オケの色彩感・リズムの斬れがよくて、小粋な味わいがあって・聴いた後の後味が何ともよろしいのです。
ヴェルディ:歌劇「ファルスタッフ」
ジュゼッペ・バルデンゴ(ファルスタッフ)、ハーヴァ・ネルリ(フォード夫人)、テレサ・シュティッヒ・ランダル(ナンネッタ)、クローエ・エルマン(クイックリー夫人)、ナン・メリマン(ページ夫人)、アントニオ・マダージ(フェントン)、フランク・パレルラ(フォード)
ロバート・ショウ合唱団
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)演奏会形式での上演ですが、トスカニーニのキャリアのなかでも思い出深い演目であるので、練習は入念であったと伝えられています。期待にたがわぬ引き締まった素晴らしい演奏に仕上がりました。NBC響は渾身の熱演です。リズムの打ちがしっかりしていること、カンタービレの強靭さなど、ヴェルディ演奏の手本とも云うべき仕上がりです。歌手陣も、トスカニーニと意図に見事に応えた歌唱を聴かせてくれます。
サン・サーンス:交響詩「死の舞踏」
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)ヴァイオリン・ソロに乾いたアイロニカルな味わいがあって、実に面白く聴かせます。トスカニーニは速めのテンポで、締まった表現で通しており、歌い回しも直線的で、ことさら面白く聴かせようとする気などさらさらないようですが、だからこそ曲自体の面白味が出るということでしょうか。NBC響がとても巧いと思います。
ドビュッシー:交響詩「海」
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)デッドな録音のせいもあるでしょうが、NBC響の響きは色彩感はありますが、やや油絵的で透明感に欠けるところがあり、ラヴェル的な線の強い表現になっています。したがって、ドビュッシー的香気には乏しいのですが、その一方で曖昧模糊としたドビュッシーよりも聴き易いということも云えそうです。トスカニーニの旋律の歌い回しはテンポが早く直線的なのですが、そのため却って抒情性がストレートに迫って来る感じがします。とてもトスカニーニ的な処理なのですが、全体が明晰さで見渡すようで、この曲の別の本質を見るようです。トスカニーニのの非凡さがよく分かります。
ドビュッシー:管弦楽のための映像〜「イベリア」
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)リズムの躍動感が素晴らしく、NBC響の重量感が迫力を増しています。オケの響きに色彩感はありますが、やや泥絵具的で透明感は欠けますが、ラヴェル的な線の強い表現がこの曲には似合ってると思います。歌い回しは直線的であり、トスカニーニの個性が結構強く出ているにも関わらず、それが曲の本質に迫っている印象で、なかなか聴かせます。