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セルの録音(1961年〜1965年)


○1961年1月15日ライヴ

シューマン:交響曲第3番「ライン」

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール)

セルらしく・速めのテンポでスッキリとした造形で、古典的に引き締まった演奏です。人によってはスッキリし過ぎでロマン性に乏しいと不満を感じる方もいそうですが・解釈としてとても納得できるものです。クリーヴランド管の響きは明るく健康的ですが・やや小振りな感じもあり、第2楽章など大河の趣はなく・サラサラと流量豊かな中河川という感じ。しかし、四つの楽章は連関が取れていて・交響曲としての構成感がしっかりしています。


〇1961年8月6日ライヴー1

ベートーヴェン:コリオラン序曲

ドレスデン国立管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

古典的に均整の取れた演奏ですが、やや客観性が強すぎるかも知れません。まだエンジンが温まっていないような印象を受けます。テンポ早めに引き締まった造形ですが、もう少し熱さを感じさせても良かったかなと思います。


○1961年8月6日ライヴ−2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

二キタ・マガロフ(ピアノ独奏)
ドレスデン国立管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

構成がしっかりした・実に安定した演奏です。セルの指揮はインテンポで冷静と言えるほどに折り目正しい姿勢を崩しません。ドレスデンのオケの響きは磨き上げられて・一点の曇りも感じさせないほどに晴れやかです。マガロフのピアノは端正でセルの個性に良く合っています。手堅くオーソドックスで、着実に音楽を作り上げていきます。スリリングな熱さは期待できませんが 、整い過ぎかもという不満は贅沢というものでしょう。このコンビの良さは内省的な第2楽章に良く現われています。


〇1961年8月6日ライヴー3

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ドレスデン国立管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

早めのテンポで引き締まった造形で音楽に勢いを感じさせますが、セルのことですから決して熱さにのめりこみことはありません。ドレスデン国立管は響きが透明で、重ったるさをまったく感じさせず、セルの音楽性と相まって、シャープで引き締まった演奏に仕上がっています。両端楽章がスッキリした構成美を感じさせて見事ですが、第2楽章の澄んだ流れも魅力的です。全体にインテンポで整然と進めますが、第4楽章最終音は長く引き延ばして、ちょっと熱いところを見せるのがちょっと面白いと思いました。


○1962年1月26日

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死、楽劇「タンホイザー」序曲、歌劇「さまよえるオランダ人」序曲

クリ―ヴランド管弦楽団
(クリ―ヴランド、セヴェランス・ホール、米CBSスタジオ録音)

セルのワーグナーに共通しているのは、ワーグナーの純音楽的構造をとても大事にしていることです。その代わり、オペラティックなドラマへの共感・興奮みたいなものにはあまり関心がなさそうに思えます。しかし、構成がしっかりしているので、描くべきものは音楽のなかに確かに描き出されています。コンサート形式での序曲単独の演奏ならば、この純音楽的アプローチは或る意味理想的な解釈かなと思います。響きは透明でリズムが正確なのでキチンとした印象がありますが、決して堅苦しいところはなく、旋律はよく歌われており、「マイスタージンガー」は骨格のしっかりした音楽はこの曲の本質をしっかり掴んでいると思いますし、「トリスタンとイゾルデ」でも官能性こそ乏しいかも知れませんが、澄み切った透明な抒情感が何とも言えず素晴らしく、音楽の流れが実に伸びやかなのです。 透明な色彩が明滅するが如しです。「タンホイザー」、「さまよえるオランダ人」も引き締まった密度の濃い演奏に仕上がっています。


○1963年1月11〜12日−1

ドビュッシー:交響詩「海」

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール、米CBS・スタジオ録音)

全体のテンポを早めに取って・旋律線を大事にしたとても聴きやすい演奏で、とてもセルらしい個性的な演奏だと思います。第2部「波の戯れ」では多少ラヴェル的な線とリズムの強さを感じなくもないですが、その語り口がとても明快で聴かせます。クリーヴランド管の響きも澄んでいて・曲の構造が明確に見えるようです。特に第3部「風と海との対話」はダイナミックな大きさと表現の繊細さを兼ね備えて、実に見事です。


○1963年1月11〜12日ー2

ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール、米CBS・スタジオ録音)

セルの体質はドビュッシーよりもラヴェルの方により似合うかも知れません。線の強さとリズムの斬れが必要なこの曲には、全体を明るい太陽の光に下に照らしたようなセルの音楽作りがよく生きます。「夜明け」での透明でラテン的な感性、「全員の踊り」でのダイナミックなオケの動きなど実に見事で聴かせます。


○1963年1月11〜12日ー3

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール、米CBS・スタジオ録音)

早めのテンポで・あまり感情過多に甘ったるくならないように、スッキリと旋律を歌わせています。淡い叙情性を感じさせ、古典的な趣があるところがセルらしくて好感が持てる演奏です。


○1963年8月4日ライヴー1

ベートーヴェン:エグモント序曲

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

チェコ・フィルの響きは荒削りではありますが、素朴で力強さを感じさせます。セルはリズムをしっかりと打ち込んで・オケを十分に歌わせています。派手さはないですが、しっかりとした構成感があって・充実した演奏に仕上がりました。特に終結部は熱さがあって聞かせます。


○1963年8月4日ライヴー2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番

ルドルフ・フィルクスニー(ピアノ独奏)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

セルの指揮で感心するのは足取りがしっかりしていることです。旋律が深く歌われていて、派手さはないですが・音楽が着実に進行します。チェコ・フィルの渋い響きはベートーヴェンらしく感じられます。フィルクスニーのピアノの渋い音色で・タッチがしっかりしているので、特に第2楽章ではしっとりとした音楽がよく生きています。セルとの相性はとても良くて、第3楽章ではオケとソロが一体となって呼吸する感覚があって素晴らしいと思います。


○1963年8月4日ライヴー3

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

チェコ・フィルのそぼくで力強い響きと・セルの構成力が相まって堅実な演奏に仕上がりました。リズムが決して前のめりになることがなく・しっかりと打ち込まれていて、音楽の骨格が太いのです。セルはオケの手綱をしっかりとって・冷静に音楽を進めており・音楽への没入が少ない感じで・これはセルらしいところですが、もうちょっと熱くても良いかなという感じもします。両端楽章はもう少しリズムの推進力を前に押し出して欲しいのです。しかし、四つの楽章の関連はしっかり密に取れていて・第2楽章もその抑制された音楽的表現が好ましいと思います。


○1964年6月19日ライヴ-1

R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」

ピエール・フル二エ(チェロ独奏)
ワラース・ブーン(ヴィオラ独奏)
アムステルダム・コンセルへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ)

語り口は淡々として手練手管を弄する風は全然ないのだが、展開する音楽風景の局面が見事に切り出されて、とても面白く聴けます。セルのユーモア感覚がよく分かります。オケのスッキリした響きがいかにもR.シュトラウスです。早めのテンポで一貫して流れが滞らないことと、ソロの自発性をよく生かしているからでしょう。フル二エのチェロも活き活きしていますが、ブーンのヴィオラが冴えています。チェロとヴィオラの掛け合いは実にユーモラスです。


○1964年6月19日ライヴー2

R.シュトラウス:四つの最後の歌

エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
アムステルダム・コンセルへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ)

シュワルツコップの歌唱は言葉を大事にするので、聴く人によっては煩く感じるかも知れないですが、リートにおける歌詞の深みと語り口の大事さを教えてくれることではこの人の右に出る歌手はいません。どの曲も深い感動を以て聴けますが、特に最後の「夕映え」は感動的です。セルのサポートは極上です。全体のテンポはやや速めにとって音楽は淀みなく流、淡々として透明な流れのなかでソロを立てる巧さは大したものです。第3曲「眠りに」でのゆったりした音楽の流れはとても美しいと思います。


○1964年10月24日

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール、米CBS・スタジオ録音)

各変奏の性格をきっちり描き分け、造形的には申し分ありません。整然として古典的な格調を感じさせる演奏ですが、こじんまりした感じもしなくはありません。しかし、セルの緻密な表現がこの小品では良い方向に作用していると思います。


○1965年1月15日・16日

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール、米CBS・スタジオ録音)

お国ものと言うと大体我々が想像するような民族色豊かなと言うよりも・あっさり素朴というのが多いですが、このセルの演奏もそうです。テンポをやや速めに淡々と進めて、こうした難曲を淡々と息の乱れもなく演奏すること自体が大変なことなのですが、この整然とした佇まいがこの演奏の凄さかも知れません。序奏や終曲でのダイナミックなオケの動きは素晴らしいですが、エレジーなどはあっさりした表現です。全体に古典的で落ち着いた印象で、刺激的なところがなく 、響きはマイルドで聴きやすい演奏です。


〇1965年8月2日ライヴー1

ベートーヴェン:エグモント序曲

ドレスデン国立管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

テンポ早く表現は引き締まって、古典的な均整を保った演奏ですが、やや客観性が強すぎて、若干醒めた感じがします。もう少し熱さを感じさせてほしいという不満を感じます。


〇1965年8月2日ライヴー2

ブルックナー:交響曲第3番「ワーグナー」

ドレスデン国立管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

インテンポで速めに淡々と進めるブルックナーですが、良い点はセルらしく、古典的にまとまって聴きやすいことです。ドレスデン国立管の響きは明るく透明で、淀むところがまったくありません。小川の水がサラサラと流れるようで、きちっと定規をあてたようなフォルムを呈しています。技術的にはまったく見事なものです。しかし、逆に云えば、そこがこの演奏の物足りない点でもあります。美しいのだけれど、人工的な自然なのです。ブルックナーの音楽のなかにある自然な揺らぎが、インテンポの整然とした流れのなかから見えてこない。揺らぎのなかの色合いの変化のなかにブルックナーの心情が現れていると思うのですが。


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