ショルティの録音(1966年−1970年)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
シカゴ交響楽団
(シカゴ、イリノイ大学クラナート・センター、英デッカ・スタジオ録音)楽譜の音符をそのまま音化したような明晰な演奏です。シカゴ響の合奏能力の高さは言うまでもありませんが、管楽器・特に木管の響きが抜けてよく聴こえることで、この交響曲の虚無的な感じがよく出ているようです。また全体にちょっと乾いた感触ですが、これもウェットで熱いロマン的な捉え方をするよりも、この曲本来の感触にふさわしいものと思います。曲全体は早めのテンポで処理されていて、旋律はそっけないほどに直線的に歌われます。第3楽章のワルツのテンポもあっさりしていますが、それも十分納得がいきます。一方で、曲のダイナミクスは大きく、音とリズムがぶつかり・砕け散るような迫力があります。
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
シカゴ交響楽団
(シカゴ、メディナ・テンプル、英デッカ・スタジオ録音)マーラーの音楽のなかの聖と俗をまったく等分に、余計なものは付け加えず・何も取り去らず、スコアにあるものをそのまま音にしたかのようです。一見バラバラに見える音楽の要素をパズルのように組み合わせて・ひとつに音楽が組みあがっていくのを眼前に見るような感じがします。シカゴ響の素晴らしさは言うまでもありませんが、難しいパッセージを息を乱さず・汗もかかず弾きこなしてしまうので、一見すると音楽から距離を置いたような感じにも見えますが、音楽の密度は非常に高いものでうならされます。どの楽章も素晴らしいと思いますが、特に第1楽章や第4楽章の激しいリズムの交錯する複雑な構造物を見るようです。
マーラー:歌曲集「さすらう若人の歌」、歌曲集「子供の不思議な角笛」〜浮世の生活・ラインの伝説
イヴォンヌ・ミントン(メゾ・ソプラノ)
シカゴ交響楽団
(シカゴ、メディナ・テンプル、英デッカ・スタジオ録音)「さすらう若人の歌」はメランコリックで憂いのある暗い曲だと思いますが、ミントンの歌唱が明瞭なのは、ショルティの好みなのかも知れませんが、いささか曲とマッチしていないようです。 ミントンの声は明るめで良く伸びて、歌唱に曖昧なところがないのが特長と云えますがが、旋律の線が強すぎて・いまひとつニュアンスに乏しい。時々金切り声のような声を出すのも耳がキンキンして痛い感じ。第1曲「恋人の婚礼の時」、第4曲「恋人の青い目」などもっと旋律に情感をこめて沈滞してもらいたい。「子供の不思議な角笛」からの2曲も、「浮きの世の生活」はもう少し皮肉な味わいが欲しいと思うし、「ラインの伝説」ももう少しメルヒェンチックな透明感があってもよろしいかと思います。ショルティ指揮のオケは明瞭ながら、押さえるべきツボをしっかり押さえたサポートで悪くはありません。