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シノーポリの録音(1990年ー1999年)


○1990年8月ライヴー1

R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」

フィルハーモニア管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

速いテンポで・疾走するような勢いのある演奏で、造形も引き締まって・素晴らしい演奏に仕上がりました。フィルハーモニア管は透明でシャープな弦が魅力的です。ドイツのオケのシュトラウスとはひと味違って、明晰で・明るい太陽の光の下にあるような若々しいドンファンなのです。速い部分も素晴らしいですが、テンポの遅い叙情的な表現も見事で、バランスが良くて・安心して聴けます。


○1990年8月ライヴー2

R.シュトラウス:四つの最後の歌

ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
フィルハーモニア管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

何と言っても聴きものはノーマンの歌唱。朗々と響き渡る声はその艶といい・量感といい・実に魅力的です。時にワーグナー的な威力に任せたようなところがなきにしもあらずで・弱音をもう少し使って欲しいところもありますが、逆に言えば・それだけ線が太い歌唱です。たっぷりとした歌いまわしはこの曲の醍醐味を味あわせてくれます。ノーマンの歌唱に押され気味ですが、シノーポリの伴奏も好演。第3曲「眠りに」ではゆったりとしたテンポのなかにロマンティシムズが沈滞していく感覚があり、第4曲「夕べに」での永遠を想わせる静かなフィナーレも印象的です。


○1991年4月8日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「オテロ」

ウラディミール・アトラトフ(オテロ)、イワン・コンスロフ(イヤーゴ)
ユリア・ヴァラディ(デズデモーナ)、他
ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団・合唱団
(ベルリン、ベルリン・ドイツ・オペラ)

シノーポリの指揮はやや早めのテンポでリズムの斬れが良い。その分スケールはややこじんまりとして・いまひとつの感があり、サラリとした感触ですが、描くべきところはソツなく描いて簡潔な表現だと思います。歌手はヴァラディのデズデモーナが情感こもった繊細な歌唱でなかなか聴かせます。アトラトフのオテロも高音が力強く、これもなかなか良いオテロであると思います。


○1993年1月

シューマン:交響曲第4番

ドレスデン国立管弦楽団
(ドレスデン、聖ルカ教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

ドレスデンのオケの響きは芯のある、硬質な輝きを帯びた魅力的な音色です。透明感がある響きなので、ラテン的な感性のシノーポリとは相性が良さそうです。交響曲第4番は4つの楽章が切れ目なく演奏されますが、シューマンのピアノ作品のように組曲的な感覚で処理するのも面白いかと思いますが、シノーポリの行き方はそんな感じで、第1楽章は心持ち重めの表現のように思いますが、これはなかなか良い出来です。曲が進むにつれてテンポが早く、音楽が軽やかになって行くような印象です。第4楽章も躍動感はあるけれども、感触は軽い感じです。そのせいか全曲を聞きとおした時に後味が爽やかな感じです。スッキリした感触なのは良いのですが、第2楽章などは感触がさらりとし過ぎの感じもします。


○1995年4月ライヴ

リスト:ファウスト交響曲

ヴィンソン・コール(テノール)
ドレスデン国立歌劇場合唱団
ドレスデン国立管弦楽団
(ドレスデン、ゼンパー・オーパー、独グラモフォン・ライヴ録音)

同じ旋律の繰り返しが多くて・構成的に冗長なところがある曲だと思いますが、シノーポリはテンポを速めに取って・ダイナミックかつスタイリッシュにまとめて・聴きやすい演奏になっていると思います。ドレスデン・シュターツカペレの高弦の響きは引き締まって・力強くかつ透明で見事ですが、リストの曲にはちょっと清潔過ぎる感じもあります。響きとしてはもう少しドロドロした方が曲に合っている感じかと思います、第1楽章「ファウスト」はなかなか壮大な音楽ですが、シノーポリは速いテンポで締まった造形ですが、こんなにスッキリ聴こえてしまって良いのかという疑問も若干あり。響きが明るい分毒気が薄くなってしまったのかも知れません。第3楽章「メフィストフェレス」も同様の印象。


○1995年5月−1

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

ドレスデン国立管弦楽団
(ドレスデン、聖ルカ教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

テンポを心持ち早めに取って・颯爽とした演奏で、クライマックスに向かって一気に描き上げたような勢いがあって、オペラティックな感興があってシノーポリの個性が良く出ています。オケの響きが透明で、高弦が引き締まって力強く、造型がシャープで聴き応えのする演奏であると思います。


○1995年5月ー2

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

ドレスデン国立管弦楽団
(ドレスデン、聖ルカ教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

序奏部のテンポがとてもゆっくりしていて・旋律を慈しむように歌って、実にロマンティックであるのにはちょっと驚かされました。しかし、展開部に入ると一転してテンポが速くなりますが・やや表情がサラリとし過ぎる感じで、全体としては軽い印象で・いまひとつインパクトが弱い感じです。


○1995年5月ー3

R.シュトラウス:楽劇「サロメ」〜サロメの7つのヴェールの踊り

ドレスデン国立管弦楽団
(ドレスデン、聖ルカ教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

オケの響きは透明かつ色彩的で、旋律は磨き抜かれたように滑らかに歌われて素晴らしいのですが、シノーポリの取るテンポがちょっと速いのと、リズムの打ちが軽い感じです。そのためにあまりに音楽が滑らかに流れ過ぎて・官能性に乏しい印象です。多少テンポは遅くなっても、もう少し歌い方に粘りが欲しいと感じます。


○1995年6月8日ライヴ

シェーンベルク:浄められた夜

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン・コンツェルトハウス大ホール、ウィーン芸術週間)

ウィーン・フィルの弦の作り出す美しい響きで耳当たりがよくて・サラリとした感覚で聴けますが、まさにその点が物足りないと思えます。曲に内包される聖と俗、美と醜という相反した要素を内部解決してしまっている印象です。スッキリと整理されて理解し易い反面、楽天的に過ぎるという感じがするのです。美しいもののなかに・フッと覗く暗黒の深淵というのがこの曲の持ち味で、そこに調性への不安も出てくるわけですが、ウィーン・フィルの柔らかく弦の響きはロマンティックで心地良いですが、この曲の一面しか表現できていないようです。


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