ライナーの録音
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番
ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ独奏)
RCAビクター交響楽団
(ニューヨーク?、RCAスタジオ録音)録音のせいか・ソロが前面に出すぎで、オケの印象が弱いようです。そのためにホロヴィッツの技巧的な面が強く耳に残る感じです。オケがピアノを大きく包み込まないと、この曲の場合にはピアノの技巧が勝ち過ぎる気がします。ホロヴィッツのピアノは打鍵の強さと言い・硬質でクリスタルな響きと言い、ピアノが本質的に打楽器であることを実感させてエキサイティングです。ピアノは感嘆極まりないですが、オケが弱いので・協奏曲としての印象はいまひとつ。そのなかではテンポ速めの第3楽章はなかなか良いと思います。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ独奏)
RCAビクター交響楽団
(ニューヨーク?、RCAスタジオ録音)快速テンポでリズムの斬れがとても良い演奏で、そのキビキビした語り口が実に小気味良く感じられます。オケの弦は細身ですが・引き締まった音で・シャープな造型を作ります。ドイツ的な重厚さではなく・スタイリッシュな感覚に満ちているのもホロヴィッツのソロによく似合っています。ホロヴィッツはテクニック抜群で、その力強い硬質でクリスタルな響きで、目が覚めるような出来です。ライナーとがっぷり四つに組んで・両者の技量が火花を散らすような第1楽章が聴き物ですが、 清冽な第2楽章も印象に残ります。
○1954年12月6日
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール、米RCA・スタジオ録音)R.シュトラウスはライナー・シカゴ響の十八番で、音楽に勢いがあって・さすがに密度の高い見事な演奏です。特にテンポの早い部分においては・疾走するようなダイナミックなオケの動きが生きています。しかし、全体的にテンポが早めで・テンポの遅い部分の寂寥感との対照はいまひとつ際立ってこない。若干スマート過ぎる感じがしなくもありません。
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」〜第1幕・第3幕への前奏曲
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール、米RCA・スタジオ録音)旋律線が明確なワーグナーです。第1幕への前奏曲は、オケの響きが豊穣で堂々たる構えです。テンポをしっかり取って鳴るべき音符はみんな鳴っている感じですが、シカゴ響自慢の金管が炸裂で元気が良過ぎて、いささか煩い感じがします。第3幕への前奏曲では、息の長い弦楽の流れを作ってなかなか聞かせます。
ラヴェル:ラ・ヴァルス
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール)これは名演です。鮮烈極まりないラヴェルと云うか、曖昧模糊としたところがまったくなく、すべてが明晰な光に照らし出されたラヴェルです。シカゴ響の響きは、その華やかな色彩の解像度が素晴らしく、音楽が実に鮮明。その光の揺らめきの表現のダイナミクスが実に大きくて感嘆させられます。ともすればロマンティックな方向に行き勝ちなこの曲のなかではユニークな演奏だと思います。終盤ではテンポを大きく揺らしてスケール大きく締めます。
ブラームス:交響曲第2番
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)ライナーとニューヨーク・フィルという珍しい組み合わせですが、ニューヨーク・フィルから重厚な響きを引き足しています。ブラームスらしい暗めでしっとりしたヨーロッパ・サウンドで、まことにオーソドックスな演奏に仕上がっています。第4楽章に斬れ味鋭いリズム処理が聴こえますが、全体的にはリズムは重めで、意外なほど手堅い印象です。テンポ設定がしっかりして、四つの楽章が緊密に構成されていること。旋律は流麗というよりは、行く深く歌われて、第3楽章などむしろ地味で渋い印象すらします。ライナーのヨーロッパに根ざした伝統みたいなものを想わせます。
ベートーヴェン:交響曲第1番
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール、米RCA・スタジオ録音)これは立派なベートーヴェンです。実はテンポ早めでシェープされた造形の演奏を予想していましたが、まったくオーソドックス過ぎるほとオーソドックスな名演で感心しました。響きもしっとりと重厚で、ヨーロッパの良き伝統をを感じさせます。ケバケバしいところはまったくありません。とりわけ感心するのは、心持ち遅めに感じる・しっかりとした足取りのそのテンポ設計で、四つの楽章のバランスが見事に取れています。音楽に急くところがなく、旋律の謡いまわしにも落ち着きと風格を感じさせます。どの楽章も見事なものですが、量感たぷりで風格ある両端楽章が特に素晴らしいと思います。