ラトルの録音(2000年ー2004年)
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)ベルリン・フィルの厚みのある艶やかな響きのラヴェルは恰幅の良いワルツ幻想曲に仕上がっており、サスペンションの良く効いた高級車に乗っているような気分にさせられます。その良さも悪さもあるという感じもしますが、ラトルはワルツのリズム処理も巧くてリラックスして聴ける演奏だと思います。
ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)ラ・ヴァルスも同様なのですが・響きの濃厚な色合いの混ざり具合を聴かせるラヴェルで・ベルリン・フィルの個性が良く出た演奏であると言えますが、ラトルの主張があまり見えない演奏のように思います。もう少し透明な響きで・線を明確にしたラヴェルの方がラトルらしいのに・・という気がしますが。しかし、悪い演奏であるはずはなく、「朝」の濃厚でけだるい雰囲気、「全員の踊り」でのオケの重量感ある動きなどベルリン・フィルならではの聴き所がいっぱいです。
ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(ハース版)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)アルプスの上空を飛行機のうえから見下ろす如くで・爽やかな風を感じさせるようで疾走感があります。決してテンポは速いわけではないのですが、リズムがきちんと刻まれて・整然としているからでしょう。音楽はスッキリとして色合いよりは線を重視した演奏で、ドイツ的な濃厚さがない点は好みの分かれるところでしょう。良く言えば楽天的とも言える明るさがあ りますが、色の微妙な移ろいなどに乏しく・音色のパレットの持ち合わせが少ないなあと言う印象はあります。したがって第2楽章などは流れが持ち切れないところがあり、深い味わいという点でいまひとつ。この演奏ではやはりウィーン・フィルの輝かしい金管を生かした両端楽章が優れていて、ブルックナーのスケールの大きさを愉しませてくれます。
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」第1幕への前奏曲
フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オヴ・ミュージック)響きの色の混ざり具合で酔わせてくれない不満はドビュッシーと同じです。感触が乾いていて・情念のうねりは感じられません。テンポをインテンポに取って・旋律を息深く歌わないせいでしょう。響きの構造が透けて見える感じであり、そういう意味でも「醒めている」ということかと思います。
ブラームス:交響曲第2番
フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オヴ・ミュージック)響きが透明で明るく・低音をあまり強調しない軽めの響きであること自体は悪いことではないですが、ブラームスの音楽が重層的に聴こえてこないのはやはり物足りない感じです。リズムは明確ですが、高弦だけが強く響いて・主旋律が浮いて聴こえるのはブラームスとして良いとは思えません。音楽の骨格図表を見せられている感じがします。この不満を特に両端楽章に感じます。第2 楽章はバランス的にちょっと速めの感じがしますが、中間2楽章はその軽い味わいが曲想にマッチしているとも言えます。第4楽章の冒頭部の強弱を付け過ぎで作為的な感じなしとしません。
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オヴ・ミュージック)オケの響きは明るめで・爽やかな感触ですが、響きの色の混ざり具合を楽しませてくれないと言うか、あまりムーディな感じではありません。ドビュッシーの音楽の香気が乏しくて・淡々とした感触です。テンポは遅めで・旋律線を大事にするのは良いのですが、音の強弱の差が強めのせいかも知れません。遅めのテンポが持ちきれていない感じがちょっとあります。