小沢征爾の録音(2010年〜 )
チャイコフスキー:弦楽セレナード〜第1楽章
サイトウ・キネン・オーケストラ
(松本、松本市文化会館)2010年1月に食道がんの手術を受けて・演奏活動を中断していた小沢征爾が復帰を果たした記念すべき演奏会の録音。当初はベルリオーズの幻想交響曲などプログラムをすべて振る予定であったが、手術後に体重が大きく減ったために持病の腰痛が悪化し長時間の指揮はできないということで、急遽チャイコフスキーの弦楽セレナードを第1楽章のみ振ることになったものです。当然ながら演奏は非常に気合いが入ったもので、テンポを遅めにとって、造型が厳しい、バッハのように荘重なチャイコフスキーに仕上がりました。編成がやや大きめで・歌い廻しが重ったるい感じで、正直言えばもうちょっと遊びが欲しいところもないではないですが、音楽に掛ける小沢の真摯さが切ないばかりに伝わってくるような気がします。
ハイドン:チェロ協奏曲第1番
宮川大(チェロ独奏)
水戸室内管弦楽団
(水戸、水戸芸術館コンサート・ホール)宮川大のチェロ独奏は音色も柔らかく、旋律を息深く歌って素晴らしい出来です。じっくりとした第2楽章のソロも良いですが、テンポが早めの第3楽章でもリズムを持てて旋律が歌えているのはテクニックがしっかりしているからでしょう。水戸室内管は音が粗く・歌い方にもっとデリカシーが欲しいところです。ソロをよく聴いて・寄りそうように合わせる余裕が持てていないようです。オケだけのパートなどここぞとばかり弾きまくるのは、小澤が抑えるべきなのですが。第3楽章はリズムが前面に出過ぎてセカセカした感じがします。取るとすればテンポが遅めの第2楽章でしょうか。
モーツアルト:交響曲第35番「ハフナー」
水戸室内管弦楽団
(水戸、水戸芸術館コンサート・ホール)
線が強くリズムが前面に出るところは、まあ小澤のモーツアルトはそんなところかと思いますが、水戸室内管は弦の響きが硬く、低弦が強い過ぎで第1楽章など音楽がゴツゴツして太い感じがします。全体的にテンポが早めで・リズムの刻みが強い。勢いがあると言えばそう言えるのかも知れませんが、オケが逸り過ぎの感があり 、音楽がまるで大編成オケの作りで、これではオケが小編成であることの意味があまり見えません。テンポが遅い第2楽章は安心して聴けますが、弦はもっと歌心が欲しいところ。第4楽章もまあ元気が良いとは言えますが、アクセントが強くて 、少々騒がしい感じがします。
サン・サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
アンネ・ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
サイトウ・キネン・オーケストラ
(東京、サントリー・ホール、ドイツ・グラモフォン創立120周年記念ガラ・コンサート)ムターの序奏冒頭部はまるですすり泣くような繊細かつ濃厚なジプシー・ヴァイオリンのようにポルタメント気味の歌い回しで、ハッとさせます。ところがロンド主部に入ると、サイトウ・キネンの音圧が強くリズムが前のめりに走るので、それに煽られる感じで曲が進むにつれムターのヴァイオリンが火が付いたように激しくなっていきます。曲の終わり近くではオケの表情が威圧的でテンポが早くなり、勢いに任せたような感じ。オケの煽りにまったく負けず互角についていくムターの技量には感嘆させられますが、前半の繊細な語り口からすれば、ロンド主部でも小振りでも濃厚な味わいを期待したいところです。終わってみれば前半と後半に一貫性がない印象で、大柄な出来となりました。小澤の久し振りの指揮ですからオケも熱くなったのかも知れませんが、オケのサポートには疑問が残ります。演奏の完成度から見ると出来はいまひとつと云うのが正直なところです。