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ムーティの録音 (1980年〜89年)


○1982年6月25日〜26日

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲

ギドン・クレーメル(ヴァイオリン独奏)
フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

クレーメルの独奏は音色が豊かで・旋律が豊かに息づいており、北欧の冷たい空気が感じられて・第1楽章の中間部などとても素晴らしいと思います。第3楽章もリズム感が良く、ダイナミックで音色の遣い方が巧いと思います。しかし、第2楽章はテンポが遅くて・表情にもうひとつ冴えが乏しい感じがします。ムーティの伴奏は第3楽章ではリズムが乗りますが、全体的には意外と平凡で・クレーメルのソロとがっぷり四つに組む感じが欲しいところです。フィルハーモニア管の音色がカラリと明るいのもシベリウスにはちょっと合わない感じです。


〇1985年5月1日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック)

フィラデルフィア管の響きが豊穣なので、印象がややゴージャスに傾くところは仕方ないところですが、ムーティの目指すところは引き締まった造形にあることは、聴いていて良く分かります。抒情的な旋律を息深く歌わせているところにムーティの良さが出ていると思いますが、勢いがあって、オペラティックな感興においても申し分ない演奏です。


○1986年2月10日ー12日

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、楽友協会大ホール、EMIスタジオ録音)

テンポをゆったりととったスケールの大きい演奏であり、堂々としたいわゆる巨匠風の表現であることが注目されます。ここでのムーティはウィーン・フィルの個性を生かし、オケを力任せにコントロールすることなく・この曲の持つ大きさを自然のうちに表出させています。こういう所がムーティがウィーン・フィルに信頼される一端であるのでしょう。個性的な表現とは言えないと思いますが、正統的な表現として安心して聴ける演奏です。全体のテンポは心持ち遅めであるが、特に第1楽章はそのスケールの大きさが自然に表現されています。第3・4楽章もリズム感ある表現ですが、強引にオケを引っ張るようなところがないのには感心させられます。


○1986年9月19日ライヴ

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック)

リズムと色彩が飛び散るようで、ムーティの若々しい覇気を感じさせる演奏に仕上がっています。


○1987年2月14日ライヴ-1

ブルックナー:テ・デウム

パトリシア・ペイス(ソプラノ独唱)
ワルトラウト・マイヤー(アルト独唱)
フランク・ロパード(テノール独唱)
ジェームス・モリス(バス独唱)
ヴォルフガング・マイヤー(オルガン)
ストックホルム室内合唱団
ストックホルム放送合唱団
リアス室内合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポをゆったりと取って、ムーティらしい壮麗なスケールの大きい演奏に仕上がりました。ブルックナーの教会的雰囲気をよく出しています。独唱陣が充実しており、素晴らしい演奏です。


○1987年2月14日ライヴー2

モーツアルト:レクイエム

パトリシア・ペイス(ソプラノ独唱)
ワルトラウト・マイヤー(アルト独唱)
フランク・ロパード(テノール独唱)
ジェームス・モリス(バス独唱)
ヴォルフガング・マイヤー(オルガン)
ストックホルム室内合唱団
ストックホルム放送合唱団
リアス室内合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)1

録音のせいか合唱が前面に出てオケが押され気味に聴こえますが、そのくらい合唱の響きが豊かでカンタービレが効いているということは言えそうです。ムーティらしい力強さに溢れた表現ですが、若干力で押す傾向があって、もう少し弱音の繊細さを求めたい不満があります。死に向き合うモーツアルトの恐れが今一つ伝わってこない気がします。


○1987年5月31日ライヴー1

ロッシーニ:歌劇「ランスへの旅」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルが見違えるような、ロッシーニらしい明るく軽快な響きを出しています。ムーティは、早めのテンポ。弾けるようなリズム、爆発するようなアクセントで、斬れの良い造形を構築していいて、実に見事な演奏になりました。


○1987年5月31日ライヴ−2

ハイドン:チェロ協奏曲

アントニオ・メネセス(チェロ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

第1楽章はロココ調の優雅な旋律を速めのテンポで軽快に奏でます。もう少しゆったり歌って欲しい感じはしますが、これはこれで音楽が生き生きして悪くはありません。しかし、第3楽章はテンポは速い過ぎで・セカセカして音楽が小さくなっているような気がします。メネセスのチェロはテクニック十分で、明るい音色がこの曲によく似合います。


○1989年8月23日ライヴー1

ラヴェル:スペイン狂詩曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ムーティの巧みなリズム処理で、リズムが重めながら濃厚な色彩でスペイン情緒を描いており、油絵的な感触がして、とても興味深いラヴェルに仕上がっています。第1曲・夜への前奏曲は、湿ったけだるいムードがあるところが面白く感じます。ウィーン・フィルは力演だと思います。


○1989年8月23日ライヴー2

ラヴェル:ボレロ

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ウィーン・フィルはリズムは重め、色彩は濃厚であるのは当然ですが、特に木管の響きにどこか艶っぽいエロティシズムを感じさせるところが、何とも興味深く感じます。ウィーン・フィルの重低音がよく利いているのも、効果を挙げています。


 

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