マゼールの録音(2000年ー )
モーツアルト:交響曲第39番
バイエルン放送交響楽団
(東京、サントリー・ホール)弦の響きがふっくらとして柔らかく暖かく感じられます。ロマンティックな印象で・構えが大きくて・やや昔風のスタイルのモーツアルトなのですが、適度な甘さもあって・これもまた好ましく・懐かしく感じられます。テンポ設定が実に適切。ゆったりと安定感があって、音楽に浸る喜びを感じます。第1楽章序奏の不協和音も実に美しく感じられます。これでこそモーツアルトだと思います。第2楽章もふっくらとして実に美しい仕上がりです。第3〜4楽章はスケールが大きい骨太の演奏になっています。
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
バイエルン放送交響楽団
(東京、サントリー・ホール)マゼールの語り口の巧さが味わえます。各場面の描き分けが実に巧く、オケの能力を十二分に引き出しています。「戦場の英雄」でのダイナミックな表現。重量感があって、音楽の作りが大きくて・聴き応えがあります。しかし、この演奏で特に素晴らしいのは叙情的な表現です。「英雄の伴侶」での響きのニュアンスの美しさ、陶然とする柔らかい響きです。テンポを落として・じっくりと旋律を歌い上げていきます。ここでのヴァイオリン・ソロも実に味わい深く、この部分は出色の出来だと思いました。
シューベルト:交響曲第5番
バイエルン放送交響楽団
(ミュンヘン、ヘラクレス・ザール)冒頭第1楽章のテンポがちょっと早く感じられます。サッサと進むのでもう少しニュアンス豊かに旋律を歌って欲しい不満を感じます。しかし、曲が進むにつれて不満は消えてきて、引き締まった造型に子気味良い印象になってくるのはマゼールの解釈が一貫しているからでしょう。第3〜4楽章はリズムが決して重くなることなく、しっかりした構成を感じさせます。そこに交響曲作曲家としてのシューベルトの主張が見えてくるようです。
シューベルト:交響曲第8番「未完成」
バイエルン放送交響楽団
(ミュンヘン、ヘラクレス・ザール)ゆったりとした音楽の流れに安心して身を任せられる名演です。過度にロマンティックでもなく・しかしほどよいふくよかさを持ち、またスケール感も十分だけれども・決して表現が重ったるくなることがない・バランスが取れた良い演奏です。バイエルン放送響のやや暗めでしっとりと湿り気を帯びたような響きもよく似合います。第1楽章のスケール大きい表現も素晴らしいですが、ゆっくりとしたテンポで深い味わいの第2楽章がとても好ましく想いました。
マーラー:交響曲第4番
ハイジ・グランド・マーフィー(ソプラノ独唱)
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)テンポを心持ち遅めにして・濃厚なロマン性を感じさせる演奏に仕上げっています。ニューヨーク・フィルの響きは暗めの色彩で渋く、遅めのテンポで線が太く・タッチが暖かく感じられます。その意味ではメルヒェン交響曲的な解釈で聴きやすいですが、あまり問題意識はないとも言えます。第2楽章にはアイロニカルな響きは感じられません。中間楽章が重めの印象で、第3楽章もゆったりとした濃厚な落ち着いた流れがあります。
マーラー:交響曲第7番
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)全体として味付け濃厚でロマンティックなマーラーに仕上げっています。オケの響きが暗めで・リズムが重めに描線を太めにとっています。したがって音の重量感で勝負という感じもあり、両端楽章が抜群の重量感と緊張感のある出来になっています。特にフィナーレはニューヨーク・フィルの金管が炸裂という感じで・圧倒的な印象を残します。全体的にはテンポをあまり揺らさず・インテンポに近い感じであり、古典的な趣が強いように思われます。中間楽章も表現は重めなのですが・両端楽章でやり尽くしている分・バランスは控えめ。第2楽章のリズムはグロテスクで歪んだワルツのリズム処理が秀逸です。
ロッシーニ:歌劇「絹のはしご」序曲
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)冒頭は遅めのテンポで始まり、ロマンティックな感じですが、展開部は引き締まった造形で、小気味良いテンポのロッシーニが聴けます。マゼールらしいユーモアを感じさせます。
ヨハン・シュトラウスU:ワルツ「美しく青きドナウ」
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)冒頭から夢の国に誘うような柔らかい響きで、ロマンティックで濃厚なシュトラウスです。何度もニュー・イヤー・コンサートを振っているマゼールですから、ワルツのつぼは心得ていますし、三拍子のリズムが心地よく亜kん字られます。時折、マゼールらしいアコーギクが聴かれますが、それもあざとくなく楽しめます。
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲
ヨハネス・モーザー(チェロ独奏)
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)モーザーのチェロは、ゆったりしたテンポで、郷愁を誘うように旋律を歌い上げて、テクニックの斬れよりも歌心で聴かせるところに好感が持てます。マゼールのサポートは、ソリストを暖かく包み込む感じで、濃厚なロマン性を感じます。したがって、表情が刻々変化していく変奏曲のスリリングな面白さは後退した感じですが、それも良しです。
メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)これは好演だと思います。全体にテンポを心持ち遅めに取って、たっぷりとしたロマン性を感じさせます。成功のポイントは、輝かしい第1楽章を若干抑え気味にして、あまり強い印象にしなかったこと、次に中間楽章をゆったりしたテンポで膨らませて、全体のバランスが良くなったことだと思います。中間楽章は旋律を息深く取って、落ち着きのある音楽に仕上げています。これで両端楽章が生きてきたと思います。第1楽章も落ち着いたテンポで、しっとりした表情を出しています。
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)マゼールの語り口が絶妙で、色彩感とユーモア感たっぷりです。往年のトスカニーニ・NYPの名演を彷彿とさせる出来栄えです。
チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」からの抜粋
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)ゆったりとスケールを大きく取り・濃厚なロマン性を感じさせ、若干リズム重めの感はありますが、華麗なグランド・バレエの雰囲気を十分に描き切っています。 特に「情景」はヴァイオリン・ソロも含めて、情緒たっぷりです。
ラヴェル:ボレロ
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)リズムをしっかり取った演奏で形式感が守られているので安定して聴けますが、終結部でぐっとテンポを落として・これを破綻させるところがマゼールらしい仕掛けと言えるでしょう。
サン・サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
クライスラー:愛の悲しみ、愛の喜び
ラヴェル:ツィガーヌ
チャイコフスキー:ただ憧れを知る者のみ
ポンセ:エストレリータジョシュア・ベル(ヴァイオリン独奏) ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)アメリカの若手ベルのヴァイオリンはテクニックも十分で、低音に深みがああって、なかなか有望なヴァイオリニストです。特にベルの良い点は旋律を息深く・じっくりと歌いこむところにあり、特にロマン派の作品に相性が良さそうです。この演奏会でもクライスラー・チャイコフスキー・ポンセなどの小品では、ちょっと甘めに過ぎるかなと思えるほど・ロマンティックにゆったりしたテンポで旋律を歌います。表現がもうちょっとスッキリでも良いかと思うところはありますが、聴衆の お好みをよく心得ているようです。これだと斬れが必要なサン・サーンスやラヴェルだと表現がちょっと重ったるくなるのじゃないかと思うと、ここでは一転してリズム感あり・斬れのあるボウイングを聴かせ て、勢いのある見事な表現を聴かせます。表現の幅が広いようで、これはなかなか有望な若手であると思います。
ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール、2008−9年シーズン・オープニング)ニューヨーク・フィルの響きが渋く・若干リズムが重めで、線が太く・重量感のある演奏です。パーッと弾けるような色彩感とリズム感に乏しいのが不満で、オケの動的な興奮を呼び起こすまでには至っていません。
イベール:フルート協奏曲
ジェームズ・ゴールウェイ(フルート)
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール、2008−9年シーズン・オープニング)ゴールウェイのフルートが闊達・リズムが切れていて、表情が生き生きしていて実に見事です。オケは響きが渋く・リズムが重めで・フランス的な洒脱な感覚に乏しい不満がありますが、逆に自在にゴールウェイの軽やかなソロと対照的に聴こえるのが面白いところ。特に第1楽章ではマゼールの作り出す若干重めのバックのうえで・ゴールウェイのソロの軽やかさが際立ってくるようで、スリリングな面白さがあります。第2楽章の幻想的な雰囲気も見事。
チャイコフスキー:交響曲第4番
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール、2008〜9年シーズン・オープニング)ニューヨーク・フィルの響きが渋くて・リズムが重めであり、音楽の線が太い・オーソドックスな演奏に仕上がっています。哀愁のこもったロマンティックなチャイコフスキーのイメージに沿ったもので、中間2楽章にその特徴が出ているようです。第2楽章はテンポをゆったりと取って深い味わいを出しています。しかし、第1楽章では表現が重く・音楽の味付けが若干濃いめの感じで、いまひとつ音楽が盛り上がらない感じです。マゼールにしてはずいぶんと大人しい常識的な解釈に感じられ、もう少しシャープな表現を望みたい気がします。第4楽章は重量感あるオケの威力が生きています。
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲、モーツアルト:歌劇「皇帝ティートの慈悲」〜アリア「比類この上ない玉座の」、レハール:喜歌劇「メリー・ウイドウ」〜ヴィリアの歌、ロッシーニ:歌劇「泥棒カササギ」序曲、サン・サーンス:交響詩「死の舞踏」、ブラームス:ハンガリー舞曲第5番、オッフェンバック:喜歌劇「天国と地獄」〜カンカン踊り、オッフェンバック:歌劇「ホフマン物語」〜ホフマンの舟歌、ビゼー:「アルルの女」第2組曲〜ファランドール、ビゼー:歌劇「カルメン」〜第3幕への前奏曲・ハバネラ・セギディーリア、ファリャ:歌劇「はかなき人生」〜火祭りの踊り、ビセー:歌劇「カルメン」〜第4幕への前奏曲
スーザン・グラハム(メゾソプラノ)
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール、2009年ニューイヤーズ・イヴ・コンサート)ヴェルディの「運命の力」序曲はまだオケのエンジンが暖まっていないか・ややリズムが重めに感じられ腰の重い演奏ですが、ロッシーニの「泥棒カササギ」序曲はリズムに斬れがあって・表現が生き生きしてさすがの名演。サン・サンーンスの交響詩「死の舞踏」はアイロニカルな味わいも込めて・語り口も巧く、この曲を楽しませてくれます。 この2曲は聴きものだと思います。ブラームスのハンガリー舞曲・「カルメン」からの前奏曲はやや重めの感じですが、スケールが大きいマゼールらしい演奏。ゲストのメゾ・ソプラノ・スーザン・グラハムは前半のモーツアルトのアリアは荘重な出来。レハールのヴィリアの歌はテンポが遅そ過ぎで粘って イマいちですが、後半の「カルメン」からの2曲の歌唱は歯切れが良く・表情が生き生きして見違えるように良い出来です。この人のカルメンの舞台は期待できそうです。