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ハンス・クナーッパーツブッシュ


○1960年2月ー1

シューベルト:軍隊行進曲(ヴェニンガー編曲)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英デッカ・スタジオ録音)

ちょっと仕掛けてくるかと思ったら、予想に反して端正でまったくノーマルな演奏。 淡々とリズムを刻んでおり・手練手管を加えないところに、シューベルトの素朴で雅びな味わいがあって楽しめる演奏です。 ウィーン・フィルの響きは軽やかで透明。中間部にウィーンらしいほのぼのとした趣があります。


○1960年2月ー2

ウェーバー:舞踏への勧誘(ベルリオーズ編曲)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英デッカ・スタジオ録音)

序奏部は情感をたっぷり込めて・とてもロマンティックですが、テンポが遅過ぎで・やや重くもたれる感じがします。ワルツのリズムも重く、これはスケールが大きいというのとはちょっと違って・重い身体をもてあましている感じで、もう少し活気が欲しい ところです。オケの響きは色彩的で、部分的には魅力的な箇所もあるのですが。


○1960年2月ー3

ニコライ:喜歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英デッカ・スタジオ録音)

あまりオペラティックな感興がなく、愛嬌を見せずに・無愛想に曲に対しているのがクナッパーツブッシュらしいところかも知れませんが、淡々として重い表現なのがこの曲には向いていないように思われます。


○1960年2月ー4

チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」組曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英デッカ・スタジオ録音)

特に仕掛けをするでもなく・朴訥な表現で、実に素直に曲に対している印象です。 テンポの変化はほとんどなく、思った以上に端整な出来です。序曲・行進曲などにその良さが出て来ます。リズムがしっかり打たれていて、これならば演奏に合わせて踊り易いだろうと 思います。トレパークやあし笛の踊り・中国の踊りなど、どの曲もしっかりと性格が描き分けられて、さりげない表情が好ましく、クナッパーツブッシュの意外な側面を見る思いです。ウィーン・フィルの弦が実に艶やかで魅力的です。


○1962年11月−1

ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

テンポ早めに畳み掛けるような演奏が多いなかで、クナッパツブッシュの演奏はテンポ遅くゆったりとしてスケール大きく音楽がうねるようで、深く沈滞していく独特の趣があります。ミュンヘン・フィルは重厚な響きが素晴らしく、緊張感を持続させて、旋律を息深く歌っていて良い出来です。オペラ・ハウスでかかる序曲とすると肥大し過ぎかも知れませんが、コンサート・ピースとして本曲の思索的な要素をよく捉えていてまことに興味深いものがあります。


○1962年11月−2

ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

同月の「リエンツィ」序曲と同様なことが云えますが、テンポが遅くゆったりとスケール大きく、うねるような弦の動きは北海の暗い海の風景を思わせます。どちらかといえばコンサート・ピースに徹した演奏に思えますが、ミュンヘン・フィルの暗めの響きと相まって如何にもドイツ的なワーグナーという感じがします。


○1962年11月ー3

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

テンポの遅さが際立つ「リエンツィ」や「タンホイザー」序曲と比べると、本曲でのクナッパーツブッシュのテンポは、前半は意外と普通と云うか・ややテンポ早めで、ミュンヘン・フィルも心なしか弦が明るく透明に聴こえます。中盤のヴェヌスベルクの旋律でややテンポが落ちますが、むしろ官能的な興奮を抑制しているように感じられます。終盤はさらにテンポがぐっと落としてクナッパーツブッシュらしく壮大に締めます。どうして前半でこの遅めのテンポを取らなかったのか不思議に思いますが、このテンポ設計にクナッパツブッシュの解釈が表れているということでしょうか。


○1962年11月ー4

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜前奏曲と愛の死

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

クナッパーツブッシュのテンポは遅めのイメージがありますが、ここではだいぶ趣が異なります。本曲でクナッパーツブッシュが取るテンポは意外に早めで、音楽が高揚していくとテンポが更に心持ち早くなる感じです。 造型が端正ですっきりした印象でなかなかの好演だと思いますが、むしろ官能的なうねりを意識して抑制した感じさえします。ミュンヘン・フィルの弦の響きもここでは透明で明るく、澄んだ抒情的な出来となっています。


○1962年11月ー5

ワーグナー:ジークフリート牧歌

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

テンポは中庸と云うべきか、サラりとした感触であまり思い入れを入れない印象で、あまりロマンティックな感じではなく純音楽的な表現で、その意味では何もしないで流れに任せた演奏かも知れません。


○1962年11月ー6

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

これもテンポは中庸と云うべきか、クナッパーツブッシュとしてはやや早めにスッキリした印象に感じられます。ミュンヘン・フィルの弦が透明で涼しい響きを聴かせており、旋律は息深く歌われて、清浄な雰囲気が醸し出されています。


○1962年11月ー7

ワーグナー:舞台神聖祭典劇「パルシファル」前奏曲

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ウェストミンスター・スタジオ録音)

ミュンヘン・フィルの弦が透明な響きで、旋律は緊張感を維持して息深く歌われており、敬虔な雰囲気に仕上がっています。


○1963年1月

ブルックナー:交響曲第8番 (改訂版)

ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ババリア・スタジオ、ウェストミンスター・スタジオ録音)

大好評であった1月24日の演奏会の直後に録音されたもの。現在はあまり演奏されない改訂版ですが、音色が多少原色的で金管がちょっと刺激的に感じられますが、あるいは版のせいなのかも知れません。演奏は曲の本質を大づかみに捉えた骨太い演奏というべきでしょうか。テンポは遅くはなく、思ったより早めの印象で、細部にこだわらず、サッサと進めて行く印象。その朴訥な・飾らないところが、クナッパーツブッシュのブルックナーを褒める人の好きなところなのでしょう。全体としては版のせいもあるかも知れませんが、響きの色合いの変化が弱いところがあり、その点で やや単調な感じもします。この点はブルックナーでは大事なところで、もう少しニュアンス豊かにして欲しい不満がありますが、聴き手に媚びない感じがあるので、田舎のブルックナーという感じが好きな人にはこれが良いのかもしれません。第2楽章スケルツオは素朴な力強さがあります。第4楽章は多少ワーグナー的な響きですが、スケールは大きく仕上がっています。


○1963年11月15日ライヴ

ブラームス:悲劇的序曲

シュトゥットガルト放送交響楽団
(シュトゥットガルト)

テンポは遅めで旋律をじっくりと歌い込む印象ですが、オケにこの遅いテンポで息を溜めて持ち切る技量がないようで響きが薄くなって、スケールの大きさは確保できていません。がっちりとした構成感はあって素朴な味わいがあり、指揮者のやりたいことは理解できますが、冒頭部や第1主題 にはこの不満がかなりあります。曲が持つ厳粛な雰囲気を緊張感を以て聴き手に実感させるには至っていないと思います。第2主題では滋味ある素朴な味わいがあると思います。


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