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カラヤンの録音(1976年1〜6月)


○1976年5月5日・7日

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

造形的にこれ以上は考えられないくらい理想的なフォルム。カラヤン/ベルリン・フィルの「悲愴」の録音は数多いですが、この録音がひとつの到達点であるなと思えます。すべての響きが美しく磨き抜かれていますが、カラヤンはその響きに耽溺しているのではなく・実に理性的にそれをコントロールしており、手綱はしっかりと締められています。その手管を感じさせないところがカラヤンであると思います。第1楽章のダイナミクスは実に大きく、繊細かつ大胆、第3楽章の行進曲はベルリン・フィルの機能性全開と言ったところ。各楽章のバランスが実によいと感じられます。


○1976年5月10日

モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

「ジュピター」はカラヤンの体質によく合った曲であり・実際39番と並んで演奏会でもよく取り上げていると思いますが、ライヴでの演奏ではもう少し線が太めで・芯がある響きで、リズムで音楽を進めていく感じがあるように思えます。この演奏が静かで落ち着いた古典的な佇まいを感じさせるのは、スタジオ録音であることも大きな要因としてあるようです。特に響きのブレンドの具合が関係しているようですし、その点での評価は分かれるところかと思います。悪く言うならばライヴ性に乏しく・活気に欠けるという評価も出てきそうですが、しかし、この落ち着いた整然とした美しさはやはりカラヤン芸術の何かしら高いものを示しているようで・ちょっと気に掛かるのです。


○1976年5月25日、1977年2月17日

モーツアルト:交響曲第40番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

第1楽章は流麗そのもの。第2楽章はしっとりとして落ち着いた流れが美しく、第3〜4楽章はしっかりとリズムを打って・音楽が決して浮き足立ちません。テンポ設定も良く、四つの楽章のバランスは良く取れています。弦は艶やかで・旋律を滑らかに心地よく歌います。近代オーケストラのモーツアルトとして理想的なフォルムを見せています。ただし「額縁にぴったり納まった・予定調和の美」という悪口も聞こえてきそうな気もします。しかし、開き直れば・これこそカラヤンの狙っているものという気がします。


 

 

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