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カラヤンの録音(1961年)


○1961年2月16日・17日-1

リスト:交響詩「マゼッパ」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

ベルリン・フィルの金管が凄まじい威力を発揮します。それにカラヤンのリズム処理が素晴らしく、全体に躍動感がみなぎっています。カラヤンはこうしたハンガリー系の曲はうまいですが、テンポを早めに取って・スカッとした斬れの良い演奏だと思います。


○1961年2月16日・17日ー2

リスト:ハンガリー狂詩曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

リズムの緩急をつけて・ハンガリーの民族音楽の雰囲気をよく描き出した演奏です。スケールの大きい演奏ですが、軽めの表現にも不足がありません。


○1961年4月15日ライヴ

ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン公演におけるアンコール)

残響の長いホールのせいか響きに気を使った感じがあって、前半はその響きの優美さとまろやかさが印象的です。テンポも心持ちゆるやかで、多少の幅を持たせた感じであり、普段のカラヤンよりも構えが大きい作りになっているようです。全奏をグーッと引っ張って興奮をあおるような劇的なところがあって、そのせいもあって終演後の観客はかなり反応しています。


○1961年4月25日〜28日−1

ドリーヴ:バレエ音楽「コッペリア」組曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

バレエ音楽であることを意識してか・全体的にリズムの打ちが強めであること、旋律線が明確であることが特徴かと思いますが、なんとも生気があって、飛び跳ねるような推進力のある演奏です。バレエの舞台が眼前に見えてくるような演奏です。マズルカでのリズム感の良さと活気のある表現。スワニルダのワルツの優雅で糸を引くような旋律の歌いまわしなど魅力たっぷりです。


○1961年4月25日〜28日ー2

ショパン/ダグラス編曲:バレエ音楽「レ・シルフィード」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

夜想曲やマズルカでのニュアンス豊かな歌い回しなど、ショパンの美しい旋律を息長くとらえて・色彩的でまことに美しい演奏です。しかし、オケを華麗に鳴らしてスケール大きく演奏するのではなく、むしろリズムをしっかり取った端正な音楽作りで、決して情緒的に流れることがありません。華麗なる大円舞曲でも実にサイズがほど良いのです。実際のバレエの舞台でもこの演奏ならば踊り易いだろうと思います。


○1961年9月5日〜22日-1

ブラームス:交響曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

颯爽としたテンポで全曲を通して、みずみずしい情感を湛えた演奏です。ウィーン・フィルの美しい木管がスッキリと抜けて聴こえる透明感ある響きも魅力的です。ドイツ的な重苦しいブラームスではなく、明るい光に満たされたようなブラームスなのです。ウィーン・フィルとの第1番ではテンポをゆったりと取っていましたが、この第3番ではテンポを速めに取って表情を締めています。ウィーン・フィルの金管の強奏が表情に冴えを与えています。第2楽章はウィーン・フィルの弦を生かして叙情的な流れが美しいと思います。有名な第3楽章は早めのテンポで流麗ななかにも・切ない美しさがあって実に魅力的です。弦の弱音の生かし方がさずがカラヤンだと思います。これは数あるこの楽章のなかでも最も美しい演奏のひとつだと思います。第4楽章もリズムが斬れていて・表情が生き生きしています。終結部のウィーン・フィルのゆらめくような弦の動きが実に美しいと思います。


○1961年9月5日〜22日ー2

チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエンザール、英デッカ・スタジオ録音)

カラヤンはウィーン・フィルの甘い柔らかな音色を生かして、とても愛らしい演奏に仕上げています。「序曲」の出だしからして聴き手をメルヘンの世界に誘う軽やかで透明な響きが魅力的です。全体を早めのテンポで通して簡潔かつツボを押さえた表現だと思います。「行進曲」や「トレパーク」ではウィーン・フィルの合奏力が生かされていますが、それでいて決して表現が重くならないのです。ウィーン・フィルの弦が実に柔らかくて素敵ですが、木管が実にニュアンス豊かでほれぼれとさせられます。「花のワルツ」はスケール大きく華麗な演奏です。


○1961年9月5日〜22日ー3

グリーク:「ペール・ギュント」付帯音楽

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエンザール、英デッカ・スタジオ録音)

第1・第2組曲からのピックアップ。ウィーン・フィルの濁りのない透明な響きと色彩感が魅力的です。こうした曲でのカラヤンの劇的表現力は今更言うまでもないですが、「朝」のその清々しさ、「アニトラの踊り」のリズム感の良さと妖艶な美しさ、「ソルヴェイグの歌」での絶妙のピアニシモによるしみじみとした情感など感嘆させられます。


○1961年9月5日〜22日ー4

ホルスト:組曲「惑星」

ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエンザール、英デッカ・スタジオ録音)

この曲の魅力を世間に知らしめた歴史的名演です。まず印象に残るのはウィーン・フィルの響きの透明さと軽やかさです。フォルティッシモでも響きが混濁することなく・水彩画の如き独特の軽さがあり、実に後味が良いのです。いかにもイギリス音楽らしい洗練された感覚が感じられます。「火星」や「木星」のリズム感覚には後年(81年)のベルリン・フィルの重量感とはまた違った味わいがあります。「水星」の響きの軽やかさ、「海王星」の響きの清玲さも魅力的です。


○1961年9月29日〜10月8日−1

ブラームス:悲劇的序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

ゆっくりした息の長いテンポを取りながら、ウィーン・フィルの滑らかな響きを十二分に引き出した演奏です。ウィーン・フィルの木管の透明な響きはとりわけ魅力的で、ここでは金管でさえもまろやかに響くようです。だから、第2主題はふくよかで実に美しく響きます。第1主題も鋭角的なリズムを強調するのではなく、ゆったりと息を大きくとらえたもので、曲を聴き終わって茫洋としたスケールの大きさを感じさせます。ベルリン・フィルとの演奏とはまったく違った魅力のある演奏になっています。


○1961年9月29日〜29日、1963年9月

ドヴォルザーク:交響曲第8番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、英デッカ録音)

純音楽的と言える表現ですが、詩的絵画的とも言えるような・みずみずしい情感を湛えた名演です。第1楽章冒頭からさっそうとしたテンポで、音楽がパノラマを見るように軽快に展開してきます。表情の細部まで生き生きとして、実に流麗で活気のある語り口です。中間楽章がとりわけ流麗で美しいと思います。スラブ舞曲風の第3楽章も流麗なウィーン・フィルの弦を生かして実にさわやかな印象です。これはカルショー・プロデュースのウィーン・フィルとの一連の録音のなかでも特筆すべき魅力的な演奏だと思います。


○1961年12月27日・28日

ベートーヴェン:交響曲第1番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

がっしりした構成力が感じられる・線の太いベートーヴェンです。ベルリン・フィルの弦の響きが重厚で渋くて、若書きのベートーヴェンと言うよりも・後期のイメージ に近いようにも思いますが、交響曲らしい密度とフォルムがあって・納得できる演奏です。 第1楽章はテンポがしっかり取れて・安定感がある良い出来で、テンポ速めの引き締まった造型が若々しさを感じさせて・カラヤンの個性がよく出ていると思います。後半第3〜4楽章もリズムの斬れた表現が素晴らしいですが、ここで第2楽章の抑えたさりげない表現が生きてくるのです。


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