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カラヤンの録音(1959年)

1959年2月5日:ウィーン国立歌劇場の舞踏会で指揮。


○1959年1月3日ー1

ヴェルディ:歌劇「椿姫」〜第3幕への前奏曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

細身で引き締まって・スッキリと叙情的な美しさで、弦の艶という点では後年67年ベルリン・フィルとの録音の方が上ですが、フィルハーモニア管の弦の硬質で冷たさを感じる響きが「哀切さ」という点で曲の雰囲気に合致しているようにも感じられます。オペラの間奏曲としてより、一幅の絵を見る思いです。


○1959年1月3日ー2

プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」間奏曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

フィルハーモニア管の弦は細身で引き締まっていて・これはこれで美しくて魅力的なのですが・ちょっと冷たく硬い感じがあって、後年67年ベルリン・フィルとの録音と比べてしまうと、情感のうねり・熱さという点で残念ながら一歩譲ります。オペラティックな感興には若干乏しい感じがします。


○1959年1月3日ー3

グラナドス:歌劇「ゴイェスカス」間奏曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

これはカラヤン唯一の録音。カラヤンはテンポをゆっくりと取って・オケの音色はややモノクロームですが、スペイン情緒をじっくりと味あわせます。


○1959年1月5日

オッフェンバック:歌劇「ホフマン物語」〜ホフマンの舟歌

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

速めのテンポにして・スッキリと叙情的な美しさを感じさせる演奏です。


○1959年1月5日・6日

シベリウス:交響詩「フィンランディア」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

カラヤンは「フィンランディア」をよく演奏しましたが、この演奏を聴くと・後年のカラヤンと基本的な解釈やテンポ設定に変化は見られないようです。前半の抑えた表現から爆発的なクライマックスへ持っていく表現力はさすがにカラヤンです。フィルハーモニア管は低音はやや不足で・若干響きが軽めの感じですが、高弦は引き締まって・力強く・造形のシャープさに若々しいカラヤンを感じさせます。


○1959年3月9日・10日

ベートーヴェン:交響曲第7番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ゾフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

ジョン・カルショウのプロデュースによる・音の分離の良いクリアな録音により、すべての楽器の音がはっきりと聴き取れて、楽譜の音符のすみずみまで澄み切ったように見渡せます。オケの全奏においても響きが濁らず、独特の軽さと透明感を持っています。このことはカラヤン美学と無関係であるはずはないのですが、同時期の独グラモフォンの芯のある重い響きを感じさせる録音とまた異なる魅力を感じさせます。カラヤンの解釈自体は後年(63年)のベルリン・フィルとの録音と大きな相違ないように思われます。リズムを主体に構築されたこの曲の性格を大事にして、リズムの推進力でオケを力強くドライブしていきます。特に第2楽章は流れるように優美な演奏で、さわやかな風のような印象が残ります。むしろこの演奏ではベルリン・フィルとウィーン・フィルとの個性が演奏の印象に微妙な差を与えているのです。ウィーン・フィルの場合に際立つのは、その高弦の柔らかさ・優美さと、その木管の吹きぬける風のようなさわやかさです。その一方で、低弦の重量感と高弦の鋼のような強靭さはベルリン・フィルのものです。ベルリン・フィルとの録音が求心的であるとすれば、ウィーン・フィルとの録音は外に向けてエネルギーが放射されていくような感じなのです。


○1959年3月23日、26日

ブラームス:交響曲第1番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ゾフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

ウィーン・フィルの透明で繊細な弦の響きと木管の抜け出たような美しい音色が魅力的で、重々しさがまったくない・さわやかなブラームスです。ベルリン・フィルとのコンビでは得られない響きで、まったく別次元の魅力があります。ベルリン・フィルとの後年の録音がフォルムを強く意識した・凝縮した表現を見せているとすれば、ここでのカラヤンは表現意欲を外に向けて開放して・聴き手を包み込むようなコンセプトなのです。これはカラヤンがオケの個性をよく生かしながら、音楽造りをしているということなのでしょう。しかし、どこかしらカラヤン晩年のブラームスの感触によく似た感じでもあります。全体としていくぶん遅めのテンポを取り、じっくりとした足取りで響きの具合を確かめながら歩みを進めていくような感じでもあります。しかし、粘る感じはまったくなくて、響きの透明感と繊細な叙情性を持たせて、空間的な広がりを感じさせるのです。このことは第4楽章では一層顕著で、ウィーン・フィルの弦の旋律の滑らかさ、木管の優美な響き、そしてリズムが鋭角的に強調されないのが特徴になっています。


○1959年3月23日・4月9日

R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

ウィりー・ボスコフスキー(ヴァイオリン独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ゾフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

本曲を世に知らしめた歴史的名演といえましょう。スケールが実に大きいのですが、その一方で女性的とも言えそうな繊細かつ叙情的な表現fが絶妙で・表現の幅が広く、まさにオーケストラ表現の極地という感じがします。冒頭部分のスペクタクルな表現ももちろんですが、「大いなる憧れについて」での切ないほどに官能的な表現はウィーン・フィルらしい甘さと繊細さがあって・実に魅力的です。また「舞踏の歌」もそのみずみずしさが素晴らしく、この中間部分にこそ・この演奏の真の魅力があります。後年のベルリン・フィルの演奏とは異なる・忘れがたいほどに魅力的な演奏であると思います。


○1959年3月27日・28日-1

モーツアルト:交響曲第40番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ゾフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

旋律の歌い回しに無理な力がどこにも入っていない・自然な演奏です。メロディーはレガートが掛かって引っ掛かることがなく優美に流れる、ロココ調のモーツアルトという感じです。ウィーン・フィルの弦の柔らかさ、そして木管の優美さが実に生きています。しかし、ちょっと甘ったるい感じがなしとはしません。 第1楽章はテンポ設定が難しいところですがテンポはやや遅めで、この曲に彩られた哀しみをさりげなく表現していて成功していると思います。第1楽章が優れているのでこのテンポを活かすとすれば、第2楽章・第4楽章 のテンポをもう少し早く・表現にもっとメルハリを効かせればもっと全曲が締まったようにも思われます。各楽章はそれだけ聞けばテンポも歌い回しも十分納得できる美しい表現なのですが、通して聞いてみると全体が同じトーンで貫かれていてやや単調に聞こえる気がします。


○1959年3月27日・28日ー2

ハイドン:交響曲第104番「ロンドン」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ゾフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

カラヤンに相性の良い曲だと思います。テンポは全体にやや速め、ウィーン・フィルの響きが透明で・音楽が滑らかに流れて・リズムが決して重くならないのが良いと思います。ロココ調の雅やかさを感じさせる・小粋で素敵なハイドンだと思います。両端楽章などスケールもなかなか大きいのですが、軽やかさもあって・そのバランスがとても良いのです。特に第2楽章は落ち着いた流れのなかにじっくりと深い音楽を聞かせています。


○1959年7月2日ライヴー1

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲

ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロサンジェルス、ハリウッド・ボウル)

ややテンポはやめでがっしりした構成を感じさせます。カラヤンの解釈はいつもと変わりないのですが、ロサンジェルス・フィルの響きが明るめなせいか・全体に軽い印象になっているようです。しかし、このオケの高弦は優秀で・叙情的な局面においてはスッキリした描線を描いていて・なかなか良いと思います。


○1959年7月2日ライヴー2

アイヴズ:答えのない質問

ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロサンジェルス、ハリウッド・ボウル)

カラヤンが振った唯一のアメリカ音楽の記録です。この曲をワーグナーとモーツアルトの間にはさんだ選曲も面白いと思います。序奏的な投げかけで終わる短い曲で・前衛的な曲ですが、カラヤンは新ウィーン楽派のような捉え方で処理しているようです。ここではロサンジェルス・フィルの高弦のピアニシモが印象的で、緊張感のある響きが聴かれます。


○1959年7月2日ライヴー3

モーツアルト:交響曲第35番「ハフナー」

ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロサンジェルス、ハリウッド・ボウル)

この時期のカラヤンらしい・スタイリッシュで近代的な感覚に溢れたモーツアルトです。線が太く・造形のかっきりしたところが特徴です。オケはリズム感が良く、両端楽章ではリズムの推進力を感じさせますが、第3楽章メヌエットはちょっと旋律線が堅い感じがします。第2楽章は早めに流れるなかにもあっさりした美しさがあって印象に残ります。


○1959年7月2日ライヴー4

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

ロサンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロサンジェルス、ハリウッド・ボウル)

カラヤンの得意曲でもありましし、ロサンジェルス・フィルもカラヤンの棒に必死で食いついており・熱気のある演奏になりました。響きで聴き手を包み込むというより・響きが塊になって聴き手にぶつかって来るという感じです。まだオケが曲に慣れていないような感じも若干あり、もう少し響きに艶が欲しいと思わせるとろこがありますし、細部の仕上がりにおいて粗い感じなのは否めませんが、この時期のカラヤンのテンポ早めにして簡潔で・引き締まった曲作りは、この演奏でもよく現れています。


○1959年9月4日−1

ブラームス:ハンガリー舞曲集
(第5番・第6番・第17番・第3番・第1番・第20番・第19番・第18番)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

早めのテンポで颯爽としてスタイリッシュな演奏です。キビキビした表情で余計な重々しさを感じさせず、純音楽的表現に徹しています。ベルリン・フィルの引き締まった弦と低弦の重量感が魅力的です。リズムの早い部分と遅い部分が交錯するのがハンガリー舞曲の面白さですが、特に早い部分でベルリン・フィルのうまさが際立ち、ハンガリー情緒が自然に湧き上がってきます。リズムの打ち込みが明確で、早い部分でもリズムが前のめりになりません。第5番・第6番のスタイリッシュな表現も見事ですが、第17番・第3番・第18番がハンガリー情緒たっぷりで魅力的です。


○1959年9月4日ー2

ドヴォルザーク:スラブ舞曲集
(第1番・第10番・第3番・第16番・第7番)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

全体のスタイルはブラームスと同様ですが、ドヴォルザークの方がより情緒的でメランコリックな要素が求められます。純音楽的で直線的なカラヤンの表現からドヴォルザークの旋律それ自体の魅力が自然とにじみ出る感じです。第1番冒頭のダイナミックなオケの動き、第10番の艶やかな弦と旋律の歌いまわしのうまさ、第16番のゆったりしたテンポの揺れような歌いまわしなど実に魅力的です。

 


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