ハイティンクの録音(2010年〜 )
ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番
ヨーロッパ室内管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)オペラティックなストーリー性はほとんど感じられず、ひたすら純音楽的な解釈に徹したところはひとつの見識というところかも知れませんが、その良さもあり・物足りなさもあります。客観的に醒めた感じがするところは好悪分かれるところかも知れませんが、こじんまりした感じですが、バランス的にはまとまっている感じです。
ベートーヴェン:交響曲第4番
ヨーロッパ室内管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)ヨーロッパ室内管の響きの軽さと透明感を巧く使って、テンポを速めに取って・新鮮な感覚のベートーヴェンに仕上がりました。両端楽章のリズムの小気味良さがあって、弦も疾走感があってまずまずの出来だと思います。ただし、第2楽章はテンポがサラサラ早過ぎでアッサリ感が強く・物足りない感じがします。この第2楽章がもう少しバランス的に重ければと思いますが、小振りな造型が曲に似合っていると感じられます
ベートーヴェン:交響曲第7番
ヨーロッパ室内管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)解釈としてはこの日の全プロを通じて・大編成のぶ厚いロマンティックな響きを排除して・清新で細身の純音楽的な解釈を目指していると思いますが、第7番ではインパクトが不足だと感じられるのは、やはりベートーヴェンのこの曲がロマン派の方に踏み込んでいる要素があるからかも知れません。純音楽的なアプローチ自体はそれで良いのですが、リズムの斬り込みが浅い。特に両端楽章で物足りなさを感じます。速めのテンポが上ずって、旋律があまり印象に残らない感じです。オケの響きの軽さもこうなると気になってきます。ここでも第2楽章がサラサラ速く物足りなくバランス感を欠いています。第7番を軽い響きで処理するならば、なおさらリズムの斬り込みが大事になると思います。
ベートーヴェン:エグモント序曲
ヨーロッパ室内管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)小振りで引き締まった造型で、ハイティンクも最初は純器楽的な処理に抑えようという気配が感じられますが、曲が曲だけにだんだん熱さが出て来て、最後は盛り上がって終わります。やっぱりベートーヴェンは熱さが欲しいと思います。
ベートーヴェン:三重協奏曲
ルノー・カプソン(ヴァイオリン)、ゴーティエ・カプソン(チェロ)、フランク・プラエイ(ピアノ)
ヨーロッパ室内管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)これは好演。全体にヴァイオリンの旋律の伸びが良く、終始リードする気配。これにチェロが応じるという展開。ヴァイオリンとチェロの掛け合いがカプソン兄弟の息が良くあって・実に面白く、特に第1楽章が熱気があって聴き応えがあります。プラエイのピアノは悪いわけじゃないが、やや押され気味。ヨーロッパ室内管の伴奏も引き締まった造型とリズム感の良さが若いソリストたちの作る音楽にぴったり合って、第3楽章も小気味良い出来に仕上がりました。
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」
ヨーロッパ室内管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)
モーツアルト:交響曲第40番
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂)リズムの刻みを律儀なほどしっかり取って、音楽の息が深いと思います。どちらかと云えばロマン的性格の強そうな両端楽章でハイティンクの行き方がよくマッチするようです。両端楽章はでテンポが心持ち遅めに感じられます。コンセルトへボウ管の高弦が澄んだ透明な響きで、旋律を深く歌っていて、落ち着きがあって、とても良い出来です。造形がどこか厳粛で静かな美しさを感じさせて、両端楽章は素晴らしい出来に仕上がりました。古典的な格調を感じさせます。一方、中間の2楽章では、同じ行き方でもややリズムが前面に出過ぎた印象になるのは、楽章の性格との兼ね合いにも拠るのでしょうか。第2楽章はテンポもバランス上やや早めに感じられ、ここではリズムの刻みがやや窮屈に感じられて旋律の美しさをゆったり楽しめない感じがします。もう少しテンポが遅い方が良いのではないでしょうか。第3楽章もややリズムが前面に出過ぎのように思われます。
ブラームス:交響曲第4番
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂)リズムの刻みをしっかり取って、コンセルトへボウ管の高弦の透明な響きが澄み切った明晰なロマン性を感じさせて、どこか厳かな格調を感じさせるブラームスとなっています。いわゆるブラームスの浪漫的な熱さや濃厚さはここにはあまりない感じですが、代わりにどこか涼しさと静けさを感じさせる古典的な出来です。行き方としては前プロのモーツアルトと同じなのですが、ブラームスの場合は音楽自体が激しさを内に秘めているので、これを中和するようなハイティンクの行き方が良い方向に作用しているようです。第1楽章はやや遅めのテンポでじっくりとした足取りが、緊張感を湛えてなかなかの出来だと思います。第2楽章もゆったりした透明な音楽の流れが美しく感じられます。後半は少し熱さが増して来た感じがします。第3楽章もなかなか良いですが、第4楽章・パッサカリアがゆったりしたテンポで落ち着いた構えのなかに曲自体の大きさが自然と迫って来ます。 終結部はテンポをさらに落として悠揚迫らざる趣で締めます。一般受けする派手さはないかも知れませんが、ハイティンクの円熟を感じさせる演奏だと云えます。