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ゲルギエフの録音 (1980−2000年)


○1993年4月−1

チャイコフスキー:大序曲「1812年」

サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
オランダ王立海軍軍楽隊隊員
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂、蘭フィリップス・スタジオ録音)

こうした曲は芝居っ気が必要だろうと思いますが、前半はあっさりとして、良く云えば純音楽的といえるのでしょうが、ここでぐっと緊張を高めておかないと、フィナーレの爆発が空騒ぎになると思うのですが。前半の表現が淡く滑らか過ぎて物足りなく感じられます。劇的設計において、もう少し工夫が必要に思われます。


○1993年4月−2

グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂、蘭フィリップス・スタジオ録音)

コンサートスタイルに徹した表現です。快速テンポで音楽の疾走感はありますが、リズムの打ちが浅くて、音楽がサラサラ進む感じがします。もう少しテンポを遅くしても、音楽に重量感が欲しいと思います。


○1993年4月−3

ハチャトリアン:バレエ音楽「ガイーヌ」〜剣の舞

サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂、蘭フィリップス・スタジオ録音)

テンポが早くて勢いがある演奏だと思いますが、リズムの打ちがやや浅く、あまり重量感を感じさせません。良く云えば、リズムは軽やかということになるでしょうが、これでは踊りは合わせ難いでしょう。印象が淡くても、強烈なエキゾチシズムを感じさせるには至っていないと思います。


○1993年4月−4

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」序曲

サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂、蘭フィリップス・スタジオ録音)

色彩感のある響きと軽やかなリズム処理で、滑らかな織物を見るが如くです。淡い光を見ているようで、表情は滑らかです。民族色を強調することをせず、純音楽的表現に徹した印象で、これはこれでひとつの行き方だと思います。


○1993年4月−5

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」〜だったん人の踊りとだったん人の娘たちの踊り

サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
サンクトペテルブルク・キーロフ劇場合唱団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂、蘭フィリップス・スタジオ録音)

合唱付きであるが、情景が浮かんで来ず、オペラティックな感じはしません。純音楽的表現に徹したということかと思います。それはそれでひとつの行き方ですが、テンポは速く、表現は軽やかですが、音楽がサラサラ流れるようです。もう少しテンポを遅くしても、リズムをしっかり打つ必要があると覆います。


○1993年4月−6

ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチーナ」〜前奏曲(モスクワ河の夜明け)

サンクトペテルブルク・キーロフ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂、蘭フィリップス・スタジオ録音)

オケの引き締まった透明な響きが、朝靄の冷たい空気を感じさせて、なかなか良い演奏です。


○1998年7月26日ライヴー1

ムソルグスキー(ショスタコービッチ編曲):歌曲集「死の歌と踊り」

ドミトリ・ホロストフスキー(バリトン独唱)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ホロストフスキーの張りのある・どちらかと言えば明るめのバリトンの声が、この曲をあまり深刻な重いものにしていない印象があります。ゲルギエフの伴奏もその線に沿った感じで、心持ちテンポを早めにして・オケに重い響きを要求せず、表情も極端な陰影を付けず・歌手を柔らかく包み込むような感じに思われます。


○1998年7月26日ライヴー2

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番

イェフィム・ブロンマン(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ブロンフマンのピアノは渋い硬質の響きでテクニックは十分。テンポの早いフレーズにおいて音の粒立った面白さを示します。ウィーン・フィルにとってはなじみの少ない曲だと思いますが・オケも熱演で、ウィーン・フィルの柔らかく暖かい弦がこの曲にロマンティックな情感を与えてきます。


○1998年7月26日ライヴー3

チャイコフスキー:交響曲第5番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ウィーン・フィルの美質を生かした・スケールの振幅の大きい表現です。全体にテンポは早めで・表情は生き生きしていますが、ここぞという決め所でテンポをぐいぐい早めて聴き手をあおるところに・この指揮者の若々しさと芝居っ気を感じます。しかし、じっくり音楽を聞かせる深味にはいまひとつで、第2楽章のようにテンポを遅めに取る場面になるとちょっともたれるようなところも感じます。面白いのは第3楽章でテンポを早めにとったサラリとした軽い感触がこの交響曲の転換点にふさわしいと思います。第4楽章はオケの機能性をフルに生かしてスケールの大きい出来です。フィナーレの劇的盛り上げにはオペラ指揮者としての手腕が現われているようです。


○2000年12月22日ー1

ムソルグスキー(ショスタコービッチ編曲):歌劇「ホヴァンシチーナ」〜前奏曲(モスクワ河の夜明け)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、蘭フィリップス・スタジオ録音)

冒頭の弦のピアニシモからゆっくりと音楽を盛り上げて、情景が刻々と変化する様をじっくり描き出しています。モスクワ河の冷たい荒涼とした風景が浮かび上がります。


○2000年12月22日ー2

ムソルグスキー(R・コルサコフ編曲):交響詩「はげ山の一夜」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、蘭フィリップス・スタジオ録音)

いかにもロシアのお国ものという感じで手に入った演奏です。ドラマティックに色彩的に音響のドラマの大見得で聴き手を驚かせるのではなく、むしろ早めのテンポであっさりと純音楽的に仕上げているところが、ゲルギエフの見識と云うべきでしょう。しかし、サラリとしたなかにも、実に細やかに表情を付けています。ウィーン・フィルの精度は大したものです。


○2000年12月22日ー3

ムソルグスキー(リャードフ編曲):歌劇「ソロチンスクの市」〜ゴパック

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、蘭フィリップス・スタジオ録音)

弦のリズミカルな動きが見事で聴かせる演奏です。ウィーン・フィルの精度は大したものです。


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