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ガーディナーの録音 (1980年〜2000年)


○1991年11月ライヴ

べートーヴェン:交響曲第2番

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ロンドン、ブラックヒース・コンサート・ホール、独アルヒーフ・ライヴ録音)
 

テンポが早めですが、通常我々がこの曲に持っているイメージよりは重量感を感じさせる仕上がりになっています。解説書によれば、ベートーヴェンの交響曲での革命的な前進は通常は第3番で起こったと考えられていますが、むしろ第2番ではなかったかという考えに拠るものだということです。両端楽章はリズムがキビキビとして魅力的ですが、特に第1楽章導入部から主要部に至る変化の妙が素晴らしいと思います。第3楽章スケルツオでの生き生きとしたリズムも魅力的です。オケの高弦の力強さが素晴らしいと思います。


○1992年10月ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ロンドン、オール・セインツ教会、独アルヒーフ・ライヴ録音)

早いテンポで流れるように無理のない表現です。この交響曲を描写音楽的に捉えるのではなく・純音楽的に処理しようとしていますが、表情が自然で爽やかな演奏に仕上がりました。第1・2楽章が素晴らしい出来です。早いテンポですが、旋律の歌いまわしが実に流麗です。オケの響きが透明で・明るい太陽の光に燦燦と輝く田園風景を想わせます。第5楽章にも同じことが言えます。自然への気持ちが押し付けがましいところがなく・さりげない形で示されています。


○1992年10月ライヴ−2

ベートーヴェン:交響曲第9番

リューバ・オルゴトソーヴァ(ソプラノ)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(アルト)
アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)、ジル・カシュマイユ(バス)
モンテヴェルディ合唱団
オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ロンドン、オール・セインツ教会、独アルヒーフ・ライヴ録音)

この偉大な交響曲にまつわる文学的・浪漫的イメージを拭い去ろうと言う意図がよく分かります。60分を切るという演奏時間にもそれが現われているようです。第1楽章の弦のトレモロが原始霧のように曖昧に始まるのではなく・実に明解に純器楽的に聞き取れます。しかし、それにしてもこの交響曲の巨大さにこだわるわけでもないですが、取り落としたものも結構大きいようです。全体的に音楽がサラサラ流れるようで・スケール感が十分表出されず・軽い感じです。まさにそれを意図しているのだと言われそうですが、やっぱりそこが不満になります。第2楽章スケルツォもリズムの斬り込みが不足します。こうなると第3楽章の旋律が軽く流れていくのも気になります。第4楽章も・ベートーヴェンがこの楽章に至ってまったく違う次元に達したという衝撃が感じ取りにくいようです。この曲の演奏が浪漫的な解釈に傾くのはやはり仕方ないという気がします。歓喜の主題も軽く響きます。第4楽章で面白いのは行進曲の部分のリズムの扱いです。独唱陣・合唱団はともに優れています。


○1992年12月ライヴ-1

ベートーヴェン:交響曲第7番

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ロンドン、オール・ハロウズ・ゴスペルオーク、 独アルヒーフ・ライヴ録音)

テンポを颯爽と早めにとってリズムをキビキビと演奏すると思いきや・その反対で、テンポは普通よりむしろ遅めで、特に両端楽章でそれが顕著です。「舞踏への聖化」とも呼ばれたリズム主体の交響曲のイメージを覆そうとしているのでしょうか。しかし、全体にリズムが重めであるのと、低弦の響きが不足で・重量感がやや乏しいのが、この曲の感銘を浅くしているところがあるようです。第1楽章はリズムを鋭角的に斬り込むことで・音楽に躍動感が生まれてくると思いますが、ここではリズムが鈍くて・それが感じられません。テンポが遅いのが問題なのではなく、リズムが鈍いのが問題なのです。同じことが第4楽章についても言えます。第2楽章アレグレットも遅めの表現ですが、ガーディナーならもっと清新な表現が可能のように思いますが。


○1992年12月ライヴ−2

ベートーヴェン:交響曲第8番

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ロンドン、オール・ハロウズ・ゴスペルオーク、 独アルヒーフ・ライヴ録音)

第1楽章は冒頭からリズムがキビキビして活気があって、実に魅力的な表現です。オケの弦の活力と力強さが魅力的です。同じことは第4楽章にも言えますが、全体に表情がきつめの感じがします。第2楽章はややテンポが早過ぎで・音楽がサラサラ流れる感じなしとしません。


○1993年3月ライヴ-1

ベートーヴェン:交響曲第1番

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(オールドバラ近郊・スネイプ、モルティングス・コンサート・ホール、 独アルヒーフ・ライヴ録音)

全体に早めのテンポで、ややリズムの打ち方が軽く・音楽がサラサラ流れるのが気になりますが(同じ古楽器オケでもブリュッヘン指揮の18世紀オーケストラとはそこが違うような感じ)、リズムは斬れていて、旋律の歌い廻しに力強さが感じられます。響きが軽めに感じられるのは・古楽器オケの性格上仕方ないところですが、全体的にはトスカニーニの演奏に通じるような活気を感じます。特に第1楽章が溌剌として見事な出来です。ハイドンの系譜を受け継ぎながら・それを越えようとすす若きベートーヴェンの覇気が感じられます。第3楽章メヌエットではオケの響きの軽さがここでは良い方に作用していて、軽いしゃれた味わいになっています。


○1993年3月ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(オールドバラ近郊・スネイプ、モルティングス・コンサート・ホール、 独アルヒーフ・ライヴ録音)

テンポは全体的に早めで、アクセントは強くありません。低音はあまり強くなく、高音・特に木管がよく抜けて聴こえて透明で爽やかな響きであるのは、ガーディナーのベートーヴェン全集に共通した特徴です。むしろ、ここでは「英雄」交響曲にまつわる様々なイメージを取り去って・スッキリした感触に仕上げようとする純器楽的な姿が見えます。ある種の重苦しさ・押し付けがましさから開放されていることは確かですが、こうした演奏は従来型の演奏で作られた重いイメージがあるから成り立つということが逆説的に言えるような感じがします。小振りfr引き締まった造型は魅力的ですが、いつもこの交響曲から味わえる威厳・精神性からはちょっと遠いようです。特に第2楽章葬送行進曲は不満を感じますそういうことをこの演奏は目指していないのは分かりますが、やはりもの足りなさがあります。前半2楽章は音楽がサラサラ流れる感じで、テンポを持ち切れていない点に古楽器の不利があるかも知れません。第3楽章以降は比較的その不満は少ないようです。


○1993年3月ライヴー3

ベートーヴェン:交響曲第4番

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ロンドン、オール・ハロウズ・ゴスペルオーク、 独アルヒーフ・ライヴ録音)

第1楽章は序奏部はテンポを押さえて・展開部で爆発的にテンポを早めて走り出します。表情は即興的でどことなくC・クライバーの演奏にも似ていますが、せかせかした感じがないのが良いと思います。第2楽章はテンポが早めで薄味に感じられます。第3〜4楽章もテンポは快速で、アクセント・表情は強めです。力強さ・あるいは快活さが前面に出た演奏ですが、全体としては曲本来のイメージよりはやや線が強過ぎるのではないでしょうか。


○1994年1月

レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」

ボイエ・スコウフス(ダニロ・ダニロビッチ伯爵)/チェリル・スチューダー(ハンナ・グラヴァリ)
プリン・ターフェル(ミルコ・ツェータ男爵)/バーバラ・ボニー(ヴァランシエンヌ)
ライナー・トロースト(カミーユ・ド・ロジョン)/カール・マグヌス・フレドリクソン(カスカーダ子爵)
モンテヴェルディ合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ガーディナーとウィーン・フィルの初録音ですが、意外なことに「メリー・ウィドウ」です。歌手も国際色豊かですし、合唱もガーディナーの手兵であるモンテヴェルディ合唱団です。したがってウィーン色よりも、洗練された上品なインターナショナルな味わいを目指しているのでしょう。本来が芝居の要素を取り入れた大衆音楽劇ですから、これをクラシック音楽として高級に芸術的に響かせようとすると・何かを削ぎ落とすことになります。リズムは軽めに・旋律が流麗に流れるほどに音楽は甘くムード的になってしまいます。このことを気にしなければ軽快で楽しく美しい演奏であると言えます。ウィーン・フィルを小編成にして・軽いシュランメルン風の響きにしていることも、この演奏をあまりゴージャスに重ったるくしない点で効果があるようです。そのせいかガーディナーの取るテンポは全体に早めで・リズムの打ち方が軽く、音楽の味わいがサラリと淡い感じです。まさにそれがガーディナーの狙いなのですから目くじらたてるべきではないでしょうが、本来はもっと濃厚な味の音楽であると思います。歌手のドイツ語は早口で滑らかですが、子音がはっきりしないので・歌唱は流麗ですが旋律だけが耳について言葉が残らない感じです。歌手ではハンナを歌うスチューダーが魅力的な出来です。第1幕の登場の歌、第2幕のヴィリアの歌もたっぷりとした歌声が素晴らしいと思います。ダニロのスコウフスは悪くないですが、暗めで渋い感じが役のイメージとはちょっと異なるようです。ハンナよりかなり年上の人物に聴こえます。


○1994年3月ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(バルセロナ、プラウ・デ・ラ・ムジカ、 独アルヒーフ・ライヴ録音)

均整の取れた・しかも音楽の推進力、生命力に満ちた名演だと思います。早いテンポで造型の引き締まった点でトスカニーニにも比すことが出来ます。トスカニーニの演奏も・この交響曲から文学的虚飾を取り去る純音楽的表現であったと思いますが、この演奏は古楽器オケということで・響きが透明で軽く・木管が抜けて聴こえるので、さらにその印象が強いようです。トスカニーニの演奏の重い強靭さとは違った意味で、音楽のしなりと軽味を感じさせます。テンポが早いにも関わらず・リズムの打ち込みが完全で、セカセカしたところがなく・旋律がよく歌われています。特に両端楽章は早いテンポのなかに・演奏に推進力があって、緊張感を以って一気に聴かせます。第4楽章は輝かしく、溌剌とした喜びに溢れています。第2楽章もその爽やかな音楽の流れが魅力的です。


○1995年3月

シャブリエ:狂詩曲「スペイン」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

リズムが良く切れていて、音楽にピチピチとして生気があります。名前を伏せて録音を聞かせたら、これがウィーン・フィルだと思う人はいないのではないでしょうか。ウィーン・フィルからこのリズムを引き出せただけでも大したものですが、響きも色彩的でとても魅力的な演奏であると思います。


○1996年10月25日ライヴー1

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

ロイヤル・コンセルへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ音堂)

コンセルトへボウ管の弦の響きが豊穣で実に美しく、メルヒェン的な雰囲気に持ちています。冒頭部はテンポ遅めにふくよかでムードたっぷり、展開部から表情生き生きとして軽快で、とても魅力的な演奏です。


○1996年10月25日ライヴー2

ベルリオーズ:カンタータ「クレオパトラの死」

アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ独唱)
ロイヤル・コンセルへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ音堂)

オッターの歌唱は力強く、この曲のモノ・ドラマ的な迫力を見事に表現して見事なものです。ガーディナーのサポートも上手く、感動的な演奏に仕上がりました。


○1996年10月25日ライヴー3

メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」

アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ独唱)
デボラ・ヨーク(ソプラノ独唱)
オランダ・オペラ合唱団
ロイヤル・コンセルへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ音堂)

ガーディナーの語り口の巧さが楽しめます。コンセルトへボウ管の弦の響きが豊穣で、特に弦のふくよかさ・艶やかさが素晴らしく、ロマンティックなふん浮きが立ち込めます。序曲はリズムが斬れて、表情に活気があって、とても楽しい演奏です。スケルツオは意識的にリズムを重めにとっているようで、ちょっとぼってりと濃厚な、余裕のある表情が印象的です。結婚行進曲は響きが豊かで、華やかで素晴らしい。女声陣はマイクがオン気味のようですが、好感の持てる歌唱です。


○1997年1月25日ライヴー1

アリアーガ・イ・バルソーラ:歌劇「幸福な奴隷」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

バルソーラは1800年に生まれ・1820年に夭折したスペインの音楽家で、この序曲は中間部がロッシーニにも似た軽やかさを持っています。ガーディナーは曲の特徴をよく捉え、弦のリズムに軽みを持たせて・洒脱な味わいを引き出しています。


○1997年1月25日ライヴー2

モーツアルト:ピアノ協奏曲第9番「ジュノーム」

マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

ピリスのピアノは粒の揃った・透明な音色で、タッチが珠を転がすように軽やかで、モーツアルトにふさわしいと思います。 控えめな表現ながら・音楽がとても端正で上品なのです。ガーディナーの伴奏も素晴らしく・ウィーン・フィルのふっくらとした響きがピアノを大きく包み込むようで、良い演奏に仕上がりました。特に印象的なのは第3楽章で・冒頭の軽やかさと言い・中間部のゆったりした味わいと言い・極上の音楽を味わう心地でした。響きを聴く限りウィーン・フィルの編成はやや大きめのようで、そのせいか第2楽章はやや表現が重い感じがします。


○1997年1月25日ライヴー3

シューベルト:交響曲第6番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

ウィーン・フィルの編成はやや大きめのようで、その分第4楽章などでスケールが大きい表現になっているように感じられます。しかし、ウィーン・フィルの弦は柔らかくふっくらと暖かく、リズムを軽めに取っていることで・表現が重くなることを防いでいます。第1楽章では木管の軽やかな表現が印象的です。第2楽章は速めのテンポであっさりした語り口です。第3楽章も生き生きした表現ですが、ここではちょっとオケの重さが勝ったようです。


○1997年5月−1

シューマン:交響曲第4番(1841年初版稿)

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

室内オケの響きの軽やかさ・透明感、リズム感覚の鋭敏さが、初版稿の若々しさを際立たせています。造形が引き締まって無駄がなく、音楽がぴちぴち跳ねるように活きが良い。第1楽章は冒頭から早めのテンポで疾走する快活さで魅了します。第2楽章はロマン性では改訂版の方が好きですが、このさらりとした味わいもまた捨てがたいものがあるなと思います。第4楽章も斬れの良いリズムが魅力的です。


○1997年5月−2

シューマン:交響曲第4番(1851年改訂稿)

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

改訂稿では編成を大きめにしているが、それでも通常オケよりは響きは軽やかでリズムは斬れます。ガーディナーのテンポ設定は初版稿の時と基本的には変わっておらず、全体に早めのテンポで造形は引き締まっていますが、自ずと表現はスケールが大きくなって濃厚なロマンティシズムが立ち昇ってきます。何よりもリズムが切れて音楽に推進力があることがこの演奏を魅力的なものにしています。両端楽章はスケールが大きくて魅力的ですが、第4楽章はリズムがやや軽めに感じられるところがああるのは曲調との兼ね合いか。


○1997年5月ー3

シューマン:交響曲第1番「春」

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

古楽器オケの透明で軽やかな響きと、早めのテンポの活き活きした表情が実に魅力的な演奏です。全体を早めのテンポを基調に駆け抜けて行くような快活さ。特に第1楽章は序奏から展開部への音楽の勢いの良さ、表情の軽やかさが格別で、生命の息吹きが一気に吹き出して来るような新鮮さがあります。後半の第3・4楽章でも、通常編成オケではとても望めないハッとさせられる煌めきを感じさせるところがあります。


○1997年5月ー4

シューマン:序曲、スケルツォとフィナーレ

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

全体を早めのテンポで通していますが、第1曲・序曲のリズムが軽やかな、活き活きとした表現は古楽器オケの魅力をよく生かしています。第2曲・スケルツオのリズムの軽やかさ、表情の細やかさが明るい響きのなかで照らし出されるようで、とても魅力的です。第3曲・フィナーレもリズムがよく斬れています。


○1997年10月

シューマン:交響曲第2番

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

古楽器オケらしい響きの軽やかさとリズムの斬れはとても興味深いのですが、第1楽章・第3楽章など、曲の持つ濃厚なロマンティシズムはもう少し分厚い響きを求めているようにも思えます。しかし、第3楽章などゆったりと糸を引くような濃厚さはない代わりに爽やかで透明な印象があって、そこにこの曲の別の面が見えてくるということかと思います。テンポを早めに取って快活に進めていることも、構成にやや冗漫なところがあるこの曲にはプラスに働いているようです。特にガーディナーの良さが出ているのは、リズム感があり音楽に推進力が感じられる第4楽章でしょう。


○1997年10月−2

シューマン:交響曲第3番「ライン」

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

第3番の演奏も、第2番と同じく、曲が本来求めている響きはもう少し分厚い響きかなと思えますが、古楽器オケの軽やかで透明な響きは、特に両端楽章で生きています。早めのテンポが音楽に生気を与えていて、通常編成オケでは望めない魅力的な引き締まった表情を作り出しています。しかし、第3楽章はガーディナーを以てしても曲の構成の弱さをカバーしきれなかった感があります。


○1997年9月17日ライヴ−1

モーツアルト:協奏交響曲

エマニュエル・パユ(フルート)、アルブレヒト・マイヤー(オーボエ)
シュテファン・シュヴァイゲルト(オーボエ)、シュテファン・ドーア(ホルン)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

冒頭からベルリン・フィルの柔らかな響きに魅了されます。特に弦セクションが素晴らしい。聴いてホッとする気分に誘われるモーツアルトです。まず第1楽章のテンポの良さ、しっかりとリズムが打ちきれていて旋律が息深く歌われて、音楽に深みがあります。アクセントを強くせず、表情がマイルドで柔らかく、響きに芳醇な深みを感じます。四つの管楽器も生き生きとした表情が魅力的。特にパユのフルートは表現に自由さが溢れていて、音楽に生気があります。第2楽章はちょっとテンポが遅めの感じがなくもないですが、第3楽章はそのゆったりした足取りが魅力的です。


○1997年9月17日ライヴ−2

ベルリオーズ:幻想交響曲

エマニュエル・パユ(フルート)、アルブレヒト・マイヤー(オーボエ)
シュテファン・シュヴァイゲルト(オーボエ)、シュテファン・ドーア(ホルン)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ガーディナーは オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク と、古楽器での「幻想」を録音していますが、今回の、ベルリン・フィルとの演奏では、そのような古楽器演奏の成果を取り入れたとか云うことではなく、まったく別視点でフル編成オケでの「幻想」の魅力を追求したということではないかと思います。まず交響曲全体の恒星をしっかりと見据えた演奏だということを感じます。ガーディナーの手の内に入った得意曲だということがよく分かる、余裕さえ感じさせる演奏なのです。響きは同日のモーツアルトでの、柔らかで温かい響きをはちょっと異なった印象で、ベルリン・フィルの暗めの色彩をよく生かし、豊穣なあなかにも芯のある強い響きであり、ベルリン・フィルの機能性をよく弾き出しています。この点は、第4〜5楽章のよく生かされているようです。ベルリン・フィルの低音がよく効いて、この曲のグロテスクな味わいがよく出ています。第1楽章も良いですが、感心させられたのは第2楽章の舞踏会で、ワルツを艶やかに流れるように唄うのではなく、意外なほどアッサリした感触なのですが、これがこの場面の儚さ・虚無感を浮き彫りにした印象であり、そこに第1楽章・「夢・情熱」との関連を実に面白く聴かせます。全体にベルリン・フィルの色彩感を生かしながら、重々しいところはまったくなく、これまで聴いた「幻想」のなかでも抜き出て印象的な名演だと思います。


○1997年10月ー3

シューマン:交響曲ト短調「ツヴィッカウ」

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

シューマンの若書きの2楽章だけの未完成交響曲。作品としてはまだ青臭い感じがしないでもないですが、第1楽章での古楽器オケの快速テンポのもと、若々しい弾けるようなリズム感が魅力的です。


○1997年10月−4

シューマン:4本のホルンとオーケストラのためのコンツェルトシュティック

オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク
(ワトフォード、ザ・コロシアム・メインホール、 独アルヒーフ録音)

朗々としたホルンの深い響きがドイツの黒い森のなかで響くような郷愁を感じさせます。全体を早めのテンポでキビキビと進めますが、第1曲「生き生きと」や第3曲「フィナーレ」での活気のある表情が魅力的です。


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