フルトヴェングラーの録音(1949年)
メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)ウィーン・フィルの個性をよく生かしたメンデルスゾーンです。柔らかい弦は薄明かりの光のなかに揺らめくような雰囲気が素晴らしいと思います。そのなかで木管が明滅するように輝くのが実に美しく、透明感があります。後半部からの早いテンポの部分もオケの動きは軽やかで、魅力的な演奏です。
ワーグナー:ジークフリート牧歌
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)ウィーン・フィルの弦が柔らかく暖かく、特に前半部分は雰囲気豊かで美しく、心惹かれる演奏だと思います。旋律がゆったりと余裕を以て、慈しむように歌われています。しかし、中間部の盛り上がる場面でテンポが早くなり、響きが薄くなる点が残念です。
ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」〜夜明けとジークフリートのラインへの旅
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)前半の夜明けの場面が、とても美しい演奏です。テンポを遅めにとって、ウィーン・フィルの弦と木管が魅力的に絡み合い、ゆったりとけだるい情感を出しています。後半ラインへの旅への移行でテンポを速めますが、意外とリズムが淡々として壮大なスケール感に乏しく、尻つぼみの感があります。
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)スタジオ録音のせいか表現に抑制が効いています。全体の設計が見事で、各変奏の性格がよく描き分けられているいます。第5変奏のようにテンポが早く激しい部分でも激することがなく冷静に進めているので、整然とした印象があって古典的格調さえ感じさせます。ウィーン・フィルの響きは透明で、第7変奏はとりわけ美しいと思いました。
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)ゼンタを表す遅い抒情的な場面は遅く、早い部分は早くと、ふたつのテンポを交錯対照させようとする意欲的解釈ですが、後半部の処理にやや作為的なところがあって、遅い部分がややもたれた感じがします。テンポの早い部分は低音のリズムが聴き手を急き立てる迫力があり、この緊張感で通してくれたらなあと思います。しかし、前半部は聴きものです。冒頭部の重苦しい響きのなかに情念渦巻く低弦のうなりが魅力的です。聴くべきところがある演奏ではあります。
ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」〜「ワルキューレの騎行」
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)響きの薄い録音であることがワーグナーではマイナスに働いていると思います。演奏自体が律儀な感じがするほどのイン・テンポですが、そのせいかスケールがこじんまりした感じを受けます。フルトヴェングラーとしてはちょっと物足りないというのが正直なところです。
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」〜徒弟たちの踊り
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ムジーク・フェライン・ザール、EMIスタジオ録音)響きが美しく、テンポをちょっと遅めにとって、おっとりした雰囲気の演奏です。それだけに躍動感はなくて、短い部分曲だけにまとまった印象を聴き手に与えないのは致し方ないところです。それよりも前に、部分だけ単独で録音してみようという意図がよく分からないところがありますが、これがオペラ全曲のなかなら、やや生気が乏しいと言わざるを得ないようです。
シューマン:マンフレッド序曲
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ティタニア・パラスト)曲の構成に多少難があるせいもあると思いますが、冒頭はちょっと手探りの感じで・イメージが掴み切れていないような感じが多少します。しかし、展開部に入ると・テンポが速くなって俄然熱気を帯びてきます。この辺りがフルトヴェングラーらしいところです。ベルリン・フィルの音色が渋くて、この演奏の重量感をぐんと高めていますが、曲へのアプローチはやや表面的で・曲に対する共感はあまり感じられない気がします。
ブラームス:交響曲第3番
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ティタニア・パラスト)これはなかなかの名演だと思います。フルトヴェングラーのブラームスは情感にのめりこみ過ぎてしばしばフォルムを崩す傾向があるような気がしますが、この演奏ではやることすべてがブラームスのフォルムのなかにぴったりはまって、しかもやりたいことをすべてやり尽くした感じで・フォルムの枠の存在をまったく感じさせません。テンポの変化が曲想にあっており・表現の変化が実に自然なのです。リズムは深く打ち込まれて・旋律は十分に歌いこまれています。特に前半が見事です。第1楽章冒頭は派手に飛び出したくなるところですが、ここをテンポ遅めにして・抑え目に持ってきたのが成功しています。ここから第2楽章までリズムをしっかり押さえて・旋律が楷書に描かれた感じがします。ここではベルリン・フィルの低重心の響きが音楽にじっくりした味わいを与えています。第3楽章もとかく甘めになりそうなところを・ぐっと渋く押さえた表現です。第4楽章前半は力のこもった熱い表現ですが、それだけに後半の寂寥感が利いてきます。弱音で終わるフィナーレは実に落ち着いた余韻を感じさせます。