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E・クライバーの録音


○1929年2月3日ー1

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「芸術家の生活」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン)

クライバーが振るワルツは、人によってはクラウス以上と云われたそうです。ウィーン・フィルとの録音が1929年SP録音の3曲だけというのは意外でしたが、3曲とも飛び切りの名演です。「芸術家の生涯」でも冒頭から何とも言えぬ古き良きウィーンの香りが立ち込めます。すべての表現が控えめでありながら、細部までニュアンスに満ち満ちていて、ちょっとしたアクセントやテンポが愛おしく感じられます。オケはいくぶん小編成に感じますが、ウィーン・フィルの弦がとてもチャーミングです。


○1929年2月3日ー2

ヨハン・シュトラウス:ワルツ「親しい仲」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン)

喜歌劇「こうもり」の旋律を利用した曲なので、ハイライト的であまり面白いものではないですが、ワルツのさりげない味わいはやはり上手いものです。聴かせてやろうというような作為的なところはなくて、表現はどこまでも控えめなのです。別に比較するわけではないが、その点は才気煥発といったカルロスのワルツとはまるで好対照です。


○1929年2月3日ー3

ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「オーストリアの村つばめ」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン)

素朴なウィーン情緒と控えめな表現ながら細部までニュアンス豊かで、暖かく・どこか懐かしい郷愁を覚えさせる演奏です。特に木管のちょっと間をはずした素朴な語り口が実に巧いと思います。クライバーはテンポの緩急の見事さ、アクセントの付け方も朴訥な味わいが素晴らしい。とにかくうまく聴かせようと云う芝居っ気がしないところが実に良いのです。


○1929年2月3日ー4

モーツアルト:交響曲第38番「プラハ」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン)

端正でしっとり落ち着いた趣のモーツアルトです。ウィーン・フィルの柔らかい弦がとても魅力的です。第1楽章の序奏部のアダージョはゆっくりした重めのテンポで、たどたどしい感じさえするような象徴さ、それが一転してアレグロの活気ある明るい弦の色調に変化する対照の妙。第2楽章アンダンテは、心持ち早めのテンポをとりながら、旋律を淡々と歌家げます。第3楽章は活気あるなかにも折り目をしっかり保ち、テンポを守って決して音楽を勢いに任せるところがありません。こういうところでビンビン鞭を入れて突っ走るカルロスとは好対照です。オケの編成は小振りに思えますが、古典的な格調を備えた佳品に仕上がっています。


○1953年11月23日ライヴ

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ケルン放送交響楽団
(ケルン、西部ドイツ放送スタジオ1)

シャープな造形で・若々しい印象の演奏です。テンポはやや早めですが・リズムの刻みが明確で、音楽に推進力があります。旋律線がシャープで引き締まっており、曖昧模糊とした感じがまったくありません。第1楽章冒頭に若干テンポの揺れが感じられて・まだエンジンが掛かっていない感じがしますが、あとは一貫してイン・テンポです。ただし、その分スケールが小振りに締まった古典的な感じがあって、シューベルトのロマン性という側面はちょっと弱いようです。第2楽章ではその線のきつさが裏目に出て・ややリズムの刻みが耳につき・表情が硬い感じがあります。オケの出来は優秀で、高弦の力強さはクライバーの個性によく合っているようです。


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