デュトワの録音(2001年〜2010年)
ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」
東京芸術大学・別府アルゲリッチ音楽祭特別オーケストラ
(別府ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール、別府アルゲリッチ音楽祭)学生オケと侮ってはいけません。技術はなかなかのもので、若さ溢れるスピード感のある演奏を聴かせます。リズムは多少前のめり・中間部などに深味が乏しいと言えなくはないが、それも曲のせいか気にならない。ダイナミックに色彩が飛び散るデュトワのドライヴが映えます。
ラヴェル:ピアノ協奏曲
東京芸術大学・別府アルゲリッチ音楽祭特別オーケストラ
(別府ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール、別府アルゲリッチ音楽祭)何と言ってもアルゲリッチのピアノ独奏が素晴らしい。ダイナミックで自由自在、デュトワの作り出す音楽の流れのなかでピチピチと跳ねまわる魚の如しです。リズムが前面に出る両端楽章が良いのはもちろんですが、瞑想的な第2楽章も実に深みがあります。ゆったりした流れのなかでキラキラ輝く澄んだ響きがとても美しいと思います。デュトワ指揮の管弦楽も反応がシャープで、アルゲリッチに十分渡り合った出来になりました。
ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」
東京芸術大学・別府アルゲリッチ音楽祭特別オーケストラ
(別府ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール、別府アルゲリッチ音楽祭)ラヴェルはなかなか力演でしたが、じっくり旋律を聴かせるムソルグスキーではやはりオケの若さが露呈した感があります。テンポの速い曲では目立ちませんが、遅い曲では音楽がじっくり持ちきれません。そのせいかデュトワが速めのテンポを取っているようですが、それでも旋律が歌い切れなくて硬さが目立ちます。「キエフの大門」でもテンポを十分遅く取り切れないので、スケール感がいまひとつです。
ビゼー:「アルルの女」第2組曲〜ファランドール
東京芸術大学・別府アルゲリッチ音楽祭特別オーケストラ
(別府ビーコンプラザ・フィルハーモニアホール、別府アルゲリッチ音楽祭)当日のアンコール曲目。リズム感よく、若さ溢れるダイナミックな演奏でコンサートを締めます。
ベルリオーズ:序曲「海賊」
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)デュトワはN響の暗めの渋い色調を生かして、オケからダイナミックな動きを引き出して活気のある見事な演奏に仕上げました。
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)ドビュッシーはデュトワのお得意ですから精妙の演奏になっていますが、N響はモントリオール響と違って暗めで濃厚な色調ですから自ずと感触は違ってきます。やや線は太い感じはあるものの・旋律はじっくりと息長く歌われ、N響の絵具を使ってしっとりと描き出した音絵巻はなかなか心地良いものがあります。
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
イム・ドン・ヒョク(ピアノ独奏)
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)イム・ドン・ヒョクは韓国の若手ピアニストですが、タッチの柔らかい音色でモーツアルト向きのように思われます。ラフマニノフならばクリスタルで粒立ったタッチが欲しいと思います。テクニック的には難はないですが、音楽の線が細く印象が薄い感じがします。デュトワは手堅いサポートですが、ソリストに合わせたか・どちらかと言えば抑えた表現に思われました。何だか全体的に真面目で硬く、濃厚なロマンティシズムが漂うわけには行きませんでした。
ルーセル:バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)N響の合奏能力を存分に発揮した演奏になりました。デュトワはリズム処理が巧みで、シャープな指揮で複雑なスコアを見事に整理しました。N響は色調が暗めで若干重い印象がありますが、N響の低弦が利いて重量感のあるオケの動きが楽しめて、フランスのオケとまた違った意味で興味深い仕上がりになりました。第1曲と終曲ではその重めのリズムが生きています。
ショスタコービッチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
庄司沙矢香(ヴァイオリン独奏)
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)庄司沙矢香は中音域がたっぷりとふくよかで・ロマン派の曲には似合いそうですが、ショスタコービッチであると音が暖かで柔らかい感じに聴こえます。逆に云えば、時代を経て曲の前衛性も角が取れてマイルドになって来たと言えそう。そのように聴けばなかなかの力演なのです。デュトワは庄司をしっかりサポートしてい、自由に泳がせて上手いものです。
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)デュトワがN響の重心が低い暗めの響きをよく生かし、ラテン系の明晰さとはひと味違うストラヴィンスキーに仕上けました。魔王の踊りやフィナーレはリズムが重めで・金管も渋いののですが、オケの動きはなかなか重量感あり。火の鳥の出現や子守歌の場面では響きの柔らかさと暖かさが生きています。N響の良さが生かされたのではないでしょうか。
モーツアルト:ピアノ協奏曲第23番
スティーヴン・ハフ(ピアノ独奏)
NHK交響楽団
(東京、サントリー・ホール)デュトワのテンポは適切でオケにゆったりと旋律を歌わせて、N響も弦が暖かく柔らかく、心地良いモーツアルトに仕上がりました。ハフのピアノも暖かいタッチで、オケとも息が合っており、第1楽章はなかなかの好演になりました。論議を呼びそうなのは現代音楽風にリズムを鋭角に取ったハ フ自作のカデンツァですが、ソリストの大真面目な主張はそれなりのものかとさほどの違和感なく聴きました。第3楽章もテンポを急くことなく気品ある音楽です、
フランク:交響曲
スティーヴン・ハル(ピアノ独奏)
NHK交響楽団
(東京、サントリー・ホール)がっちりした構成感を押し出すのではなく、むしろオケを開放して自発性に任せたというところか。N響の体質がもともとドイツ向きということもあり、この行き方は良い方に作用しているようです。特に第1楽章はゆったりした余裕が感じられ、スケール感もある好奏です。
ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」
NHK交響楽団
(サンクト・ペテルブルク、サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニーホール)実に気合いの入って演奏で、リズムが斬れて・色彩が飛び散るような勢いのある演奏です。ちょっと勢いが付きすぎた感じも若干しますが、まあそれはそれとしてコンサート冒頭曲としてインパクトがある演奏でした。N響もなかなか響きが透明なところをみせます。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番
ミヒャイル・プレトニョフ(ピアノ独奏)
NHK交響楽団
(サンクト・ペテルブルク、サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニーホール)当日の演奏曲目のなかでは最も出来が良いと思います。やはり日本人には真面目なベートーヴェンが似合います。冒頭の響きからしてイメージがぴったりと収まる感じです。しっかりと構成が決まって、しかもそれが堅苦しくないのです。プレトニョフのピアノも硬質のタッチのなかに折り目正しさがあって、真面目で好感が持てます。N響との相性も良いようです。デュトワの指揮はインテンポで足取り確かな指揮で、もう少し音楽に柔らか味というか・余裕があれば言うことなしですが、特に第2楽章も折り目正しいなかにしっかりと深い音楽が息付いていて・素晴らしい出来になりました。
ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」
NHK交響楽団
(サンクト・ペテルブルク、サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニーホール)ご当地でのムソルグスキーですから気合いも入ったと思いますが、まず印象に残るのはデュトワのまるで定規で図ったように・ぴたりと隙のない音楽造りです。ラテン的な明晰さに裏打ちされた・しっかりとコントロールされた音楽という感じがすることです。N響はやや暗めの色合いながら透明感のある響きで、これはN響とデュトワの時代のひとつの到達点という気がしました。その一方で遊び心に乏しく・機能性が若干前面に出た感じもしなくありません。また動的なドラマの印象よりも・絵画的な静的な印象が強い感じです。したがって、ドラマティックな最後の2曲(ババ・ヤーガ、キエフの大門)ではむしろ小振りの印象がありますが、しかし、前半がなかなか良い出来なのです。ここではN響のソリスト価値の妙技が楽しめます。しっかりとした造型で、一音も揺るがせにしない真面目さが好感を持たせます。
ビゼー:組曲「アルルの女」〜ファランドール
ブラームス:ハンガリー舞曲第1番NHK交響楽団
(サンクト・ペテルブルク、サンクト・ペテルブルク・フィルハーモニーホール)当日のアンコール曲目です。「ファランドール」は当日のコンサートの成功を祝うかのようなリズムの斬れた・勢いのある演奏で聞かせます。ハンガリー舞曲はN響の明るめの響きが・むしろフランスのオケ的な軽さを以って響くのが実に面白く思われました。
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
NHK交響楽団
(東京、NHKホール)N響が厚く・渋みのある響きで、派手さを抑えたなかにも・しっかりした構成を感じさせて・なかなかの好演だと思います。冒頭部などちょっと重めの感じもしますが、確かに音楽の拡がりよりは・構成感に重きを置いた演奏で、その意味でどこまでも真面目な感じであり、例えば「英雄の伴侶」の美しい旋律でもどこまでも真面目で・もう少し遊び心が欲しい気もしますが、この真面目なところがN響の個性なのです。デュトワはオケの特性を生かした音楽作りをしていると思います。聴き終わって充実した満足感があります。
ラヴェル:優雅で感傷的なワルツ
NHK交響楽団
(東京、サントリー・ホール)NHK響は響きがやや暗めで、冒頭部ではリズムの腰がちょっと重くて、ラヴェルに不向きみたいに思いッ増したが、曲が進むにつれてあまり気にならなくなって、響きをぼかしてロマンティックにほんわかしたラヴェルも意外に悪くないと最後には思いました。オケの個性を考慮して、リズムの斬れを無理に押し付けずテンポを遅めに取ったところがデュトワの巧みなところかと思いました。
ショパン:ピアノ協奏曲第2番
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
ヴェルビエ音楽祭管弦楽団
(ヴェルビエ)まずキーシンのピアノが実に素晴らしい。タッチの粒が揃って響きが美しいこともさることながら、旋律の歌わせ方がとてもニュアンス豊かです。加えてデュトワのサポートがキーシンと息がぴったり合ってこれも素晴らしい。しっかりとしたテンポでソロがとても乗り易い伴奏であると思います。第2楽章など実にゆったりした深い音楽を作っていますし、第3楽章での 小気味よさも魅力的です。これはこの曲の優れた演奏のひとつかと思います。