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リッカルド・シャイー   Riccardo Chailly


○1982年12月5日ライヴ

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

マルタ・アルゲリッチ(ピアノ独奏)
ベルリン放送交響楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

やはり何と言ってもアルゲリッチの独奏が聴きもので、強靭な打鍵・リズムの斬れが強烈で、ピアノの打楽器的な性格が前面に出ています。良く言えば線の太い演奏ということ になるかも知れません。ラフマニノフの本質を確かに捉えていると思いますし、ライヴ的な興奮に満ちていますが、もう少し繊細さがあっても良いかなと思うところがあります。音楽がガンガン前に行く力は確かに凄いのですが、もう少しリズムに緩急を付けていけば・歌い廻しにしなりが出てくると思います。第1楽章など力で押しまくる一本調子の 感が若干あって、メカニカルな印象が強く、聴いていてちょっと疲れます。 押すだけでなく、引くところも必要ではないでしょうか。シャイーの演奏はアルゲリッチによく付けていますが、全体にソロに煽られ気味な感じに聴こえます。第3楽章はリズムに急く感じがあって、終結部は音楽が ちょっと粗い感じがします。


〇1985年2月18日ライヴ

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番

マルタ・アルゲリッチ(ピアノ独奏)
ベルリン放送交響楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

シャイー指揮ベルリン放送響は、テンポをしっかり取って手堅い伴奏をしています。その枠のなかでアルゲリッチが自在に動き回って、新鮮なベートーヴェンに仕上がりました。両者の良さは両端楽章に表れていると思いますが、早めのテンポのなかでアルゲリッチのピアノの響きがとてもみずみずしく、魅力的です。とは言え、アルゲリッチは過度に自己主張をするでもなく、いつもより控えめな感じさえしますが、それでベートーヴェンのフォルムはしっかり守られたという印象です。それはシャイーのサポートがしっかりしているからだと思います。


○1985年4月1日ライヴ

バルトーク:ピアノ協奏曲第2番

ウラディミール・アシュケナージ(ピアノ独奏)
ベルリン放送交響楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

アシュケナージのピアノの響きが重厚で渋く、タッチが聴き手の心に重く打ち込まれるように感じられます。特に両端楽章は聴き応えがします。聴き手を急き立てる早いテンポのなかに、真摯でシリアスな雰囲気が伝わってきます。シャイーの伴奏もアシュケナージとぴったり合って、骨太い古典的な印象の演奏に仕上がりました。


○1989年2月10日ライヴ

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

フレッシュな若さが満ちていて、ライヴ感覚がある活気のある演奏に仕上がりました。終演後の観客もかなり反応しています。特に第3〜4楽章はリズムが斬れて・弾けるようで、音楽に推進力があります。音楽にアクセントをつけて・旋律をくっきりと浮かび上がらせています。ベルリン・フィルの合奏力ならばかなり煽っても乱れを見せないことも計算に入れているのでしょう。ベルリン・フィルはやや暗めの音色、芯の締まった響きで聴かせます。ただ元気の良いのはいいですが、聴き終わると・勢いにまかせた一本調子なところがあるのは確かです。例えば第2楽章ラルゴのじっくりした旋律あるいは第1楽章の第2主題などはやや深みに欠けます。若さにまかせて・一気に描いた健康色豊かな「新世界」というところです。


○2002年11月18日ライヴ

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ独奏)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

ボリーニのピアノはさすがに風格があります。音のひとつひとつが力強く、堂々として確信に満ちています。リズムがしっかりと打ち込まれて・骨格が太く・抜群の安定感なのです。ポリー二の厚みのある響きと、ちょっと軽い味わいのオケの響きがよくマッチして 、アバドとの共演とはまた違った面白さを感じました。火花が散るという感じとはちょっと違いますが、シャイーとも実に息が合って、聴き応えのある演奏に仕上がりました。シャイーは勢いのある音楽造りで、特に第1楽章が素晴らしいと思います。オケの響きは透明で艶やか。特に弦の柔らかさは実に魅力的です。早めのテンポで・颯爽としてフレッシュな表現です。このオケの響きにのってポリー二のピアノが自由自在に動き回ります。第2楽章はゆったりとして透明感のある流れを感じさせ、第3楽章はポリー二はうなり声さえあげて興に乗った演奏を展開します。


○2006月9月−1

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

ジャ二ーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン独奏)
ゲヴァントハウス管弦楽団
(ライプチッヒ、ゲヴァントハウス、英デッカ・スタジオ録音)

テンポを速めに取って・シャープに小回りを利かせた表現という感じでしょうか。ヤンセンの中高音の艶やかさがよく生かしたフレッシュな演奏に仕上がっています。その意味では第1楽章中間部や第2楽章の静かな清らかさな流れにヤンセンの良さがよく出ていると思います。音色的にはもう少し低音域が欲しいと思うところもありますが、シャイーはオケの響きを重くせず透明感を持たせることでヤンセンの長所を良く引き出しています。ブルッフの協奏曲のサポートでも言えることですが、流れが快適なのでソリストは載り易いと思います。細身でいかにもスラリとした長身の美人という感じの第3楽章は、ヤンセンのイメージにぴったりというところです。


○2006月9月−2

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲

ジャ二ーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン独奏)
ゲヴァントハウス管弦楽団
(ライプチッヒ、ゲヴァントハウス、英デッカ・スタジオ録音)

ヤンセンの音色は中高音は伸びがあって綺麗ですが、低音のふくよかさに若干乏しいところがあるのでロマン性濃厚とは言いかねるところがありますが、そこのところテンポを速めに・表現を細身にシャープに聴かせて 、フレッシュな味わいに仕上げて、なかなか良い演奏だと思います。スケールの大きさより、ヤンセンの活き々々とした表現を聴くべきでしょう。両端楽章で少々小振りながら斬れの良いところを聴かせます。第2楽章アダージョの清らかな表現も魅力的です。シャイーは表現を大柄にせず、ヤンセンの長所を良くく引き立てたサポートをしています。


○2006月9月−3

ブルッフ:ヴィオラと管弦楽のためのロマンツェ

ジャ二ーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン独奏)
ゲヴァントハウス管弦楽団
(ライプチッヒ、ゲヴァントハウス、英デッカ・スタジオ録音)

ヤンセンは中高音の美しい響きを生かして、息長く旋律を歌わせて、清らかで美しい音楽の流れを作り出しています。シャイーのサポートも見事なものです。


○2017年12月7日ライヴ

ジョルダーノ:歌劇「アンドレア・シェニエ」

ユシフ・エイヴァゾフ(アンドレア・シェニエ)、ルカ・サルシ(カルロ・ジェラール)、
アンナ・ネトレプコ(マッダレーナ)、アンナリーザ・ストロッパ(ベルシ)
ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
(ミラノ、ミラノ・スカラ座、2017/18年度シーズン開幕公演、マリオ・マルトーネ演出、
アントニーノ・ヴォットー没後50年記念)

エイヴァゾフは声質はちょっと暗めですが、力強い歌唱でシェニエの直情的なところをよく表現して、第1幕のアリア「ある日青空を眺めて」もなかなか良かったです。ネトレプコのマッダレーナは貫録十分の歌唱で、第3幕のアリア「亡くなった母を」も なかなか良く、第4幕でのシェニエのとの二重唱も圧倒的に聴かせます。サルシのジェラールも手堅い歌唱を聴かせました。シャイーの指揮はさすがに手慣れたサポートで、歌手の良いところを上手く引き出しています。微妙にテンポを変化させて音楽の微妙なニュアンスを面白く聴かせました。マルトーネの演出は全体に伝統的なところを保持しつつ、特に第1幕で貴族の退廃を諷刺したところに冴えた処理を見せました。


〇2018年12月7日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「アッティラ」

イルダール・アブドラザコフ(アッティラ)、ジョルジュ・ベテアン(エツィオ)、サイオア・エルナンデス(オダベッラ)、ファビオ・サルトーリ(フォレスト)、フランシスコ・ピッタリ(ウルディーノ)、ジャンルカ・プラット(ローマ教皇レオ一世)他
リッカルド・シャイー指揮
ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
(ミラノ、ミラノ・スカラ座、2018/19年度シーズン開幕公演、ダヴィデ・リーヴェルモル演出)

このオペラは男声中心に出来ていますが、それだけに限られた女声パートの印象が強烈に耳に残るようです。エルナンデスは声の輝かしさと力強が素晴らしく、オダベッラのアッティラへの復讐の念の強さを見事に表現しました。対するオダベッラを巡る二人の男性、アブドラザコフのアッティラ、サルトーリのフォレストの歌唱も素晴らしく、見事なトライアングルが形成されました。シャイー指揮のスカラ座管はヴェルディ初期の力強い旋律とリズムを見事に表現しました。


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