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ブリュッヘンの録音


○1990年12月ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

18世紀オーケストラ
(オランダ・ユトレヒト・フレデンブルク、蘭フィリップスによるライヴ録音)

冒頭の全奏はちょっと弱くてアレッと思わせますが、全体としてはテンポ早めでリズムを明確に取り・アクセントが強い演奏になっています。両端楽章はリズム感があって・推進力を感じます。第2楽章は優美さを強調するよりは・むしろ第1楽章と同じ行き方を取ったように思いますが、しかし、全曲が一本調子に陥らずに・四つの楽章が緊密に連携し、交響曲としてのまとまりを感じさせるのはさずがです。リズムがしっかり打ち込まれていて・音楽が前のめりになることがないのも良いと思います。この曲の純器楽的な側面を重視していると思いますが、音楽に勢いがあるせいか・描写されるイメージはかなり意志的です。高弦の強さ・低弦の重量感が響きを塊りのように聴き手にぶつけてくる感じです。


○1991年7月1〜3日ライヴ

ベートーヴェン:エグモント序曲

18世紀オーケストラ
(オランダ・ユトレヒト・フレデンブルク、蘭フィリップスによるライヴ録音)

冒頭に若干弱い感じはありますが、曲が進むにつれて熱気を帯びてきます。テンポを早めに取って・アクセントが強く・音楽に勢いがあります。テンポの変化はあまりなく・一気に駆け抜けるようで、全体に純器楽的なイメージで・劇音楽としてのメッセージ性は希薄のようです。したがって、若干軽い感じがなきにしもあらずです。


○1992年3月30日・31日ライヴ

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

18世紀オーケストラ
(オランダ・ユトレヒト・フレデンブルク、蘭フィリップスによるライヴ録音)

テンポ設定も無理なく・ゆったりとした雰囲気の好演です。しかし、解釈としては正攻法で、特に古楽器でなければというような所はあまりないようです。むしろアバドがヨーロッパ室内管を振った演奏の方が木管が抜けて聴こえるだけ新鮮な響きをしていたようです。こちらは暖かい響きですが・低弦が充実していて、普通のオケの響きとあまり変らないような感じです。しかし、このオケの高弦の力強さは魅力的です。テンポはおおむねゆっくりですが、第1楽章展開部でややテンポが軽くなる感じがあるのはちょっと残念です。第3・4楽章は低弦の響きがよく生きており、音楽の推進力があって素晴らしい と思います。


○1993年11月25日・26日ライヴ−1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

18世紀オーケストラ
(オランダ・ユトレヒト・フレデンブルク、蘭フィリップスによるライヴ録音)

オケの音色が豊かで重量感があり、引き締まった表情が魅力的です。第1楽章はテンポが早めに感じられますが、足取りをしっかりとって・じっくりと旋律を歌い上げており、中間部からはややテンポを落として表情が重めになりますが、堂々たるスケールの大きい表現です。濃厚なロマン性が立ち上ってくるようで、この交響曲の構想の巨大さが実感できるような気がします。これに比べると、第2楽章はやや味付けがアッサリした感じになって・若干の物足りなさがあるようです。


○1993年11月25日・26日ライヴー2

シューベルト:交響曲第6番

18世紀オーケストラ
(オランダ・ユトレヒト・フレデンブルク、蘭フィリップスによるライヴ録音)

全体にテンポを早めにとり・引き締まった表情の好演に仕上がっています。小振りで愛らしい曲の性格にもよりますが、ブリュッヘンの解釈も無理な力の入っていない自然さがあって・同日の「未完成」よりもオケの柄に合っているようです。第1楽章は序奏部はやや重めですが、展開部からは表情が伸びやかで愛らしい表現です。特に木管の表情が生き生きしています。第2楽章アンダンテはいかにもシューベルトらしい・郷愁を感じさせるような雰囲気が魅力的です。第3楽章スケルツォもこのオケのリズム感の良さがよく現れています。


○1995年12月16日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」

リン・ドーソン(S),ヤルト・ファン・ネス(A),
ゼーゲル・ファンデルスティン(T),ディヴッド・ウィルソン・ジョンソン(B)
18世紀オーケストラ
(東京、東京芸術劇場)

全体にラテン的な明晰さを感じさせ、力強く素晴らしい人間賛歌になっていると思います。オケは高水準ですが、特にリズム感の良さ・低弦の充実には感嘆させられます。テンポ早めで・リズムが明確で造形がしっかりしており、単に古楽器のための演奏ではなく・演奏がとても現代的に感じます。特に第1楽章は冒頭から意志を感じさせる見事なものです。フルトヴェングラーのような・霧のようななかから音楽が沸き上がる開始ではなく、逆に鋭い弦のトレモロのなかから音楽が立ち上がる、実に直截敵・現代的な表現なのです。第2楽章もリズムが明確で重量感のある演奏です。第3楽章は早いテンポで流れるような表現ですが、そこに叙情的な歌心があります。第4楽章も優れた劇的表現で、声楽が入るまでの流れも巧みです。ただ最終コーダの入りで思い入れというのか・テンポをグッと落とすのはちょっと野暮ったい気がします。


○2002年11月7日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第1番

18世紀オーケストラ
(東京、東京芸術劇場大ホール)

全曲を通じて・テンポ良く、生き生きとしてフレージングに魅了されます。木管の響きがよく抜けて・きれいに聞こえるので・爽やかな印象がします。四つの楽章のテンポ設計が良くて・構成がしっかりしています。特に第1楽章は表情を生き生きしていて、序奏部から展開部に入っていく動きなど絶妙です。純器楽的な表現のなかにも・ベート−ヴェンの音楽の革新性が自然に出ています。第4楽章も活気のある表現です。


○2002年11月7日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

18世紀オーケストラ
(東京、東京芸術劇場大ホール)

テンポ設定が個性的で、第2楽章のテンポが通常よりかなり早い。悲痛さ・沈痛さを強調するのではなく、純器楽的な淡々とした表現を目指したのだろうと思います。その分軽い印象になるのは否めませんが、興味深く感じられます。第3楽章まではリズムも斬れて・表現が生き生きしていますが、第4楽章はもたれます。リズムが一転して重くなって、表情が冴えません。この辺のブリュッヘンの意図がいまひとつ分かりません。第1楽章じゃ音楽に推進力があり、力強さがあって良い出来です。この線で押し切ってもらいたかったという気がします。


○2002年11月10日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第8番

18世紀オーケストラ
(東京、東京芸術劇場大ホール)

予想に反して・低音の聞いた厚い響きで・リズムが重い表現です。この交響曲に秘められた重さを表現する意図かも知れませんが、小編成オケの持ち味が生かされていないようにも思えます。特に中間楽章が線の太い表現で、これが全体の印象を重くしているようです。第4楽章はリズムを前面に出して堂々と曲を締めくくっています。


○2002年11月10日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

18世紀オーケストラ
(東京、東京芸術劇場大ホール)

この曲の形而上学的な重さを取り払って・純器楽的に処理しようとした印象で、冒頭など気抜けするほど軽い入り方です。アクセントを意識的に弱めにして・線が強くなるのを避けている感じがします。しかし、第1楽章はアッサリとした動きのなかにもリズムを主体としたキッチリした造形があって聞かせます。それだけ曲の構造がしっかりしているということかも。第2楽章以降はリズムが斬れてきて、表現がさえてきます。中間2楽章はテンポを早めに取って・造形が引き締まって、もたれる感じがまったく ありません。第4楽章は音楽に勢いがあって・力強く曲を締めます。


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