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ブーレーズの録音 (〜1990年以前)


○1966年9月2日ライヴ−1

ドビュッシー:管弦楽の為の映像〜イベリア

BBC交響楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール)

分析的で音符を音響として物理的に解析しようとしているかの如き印象で、事実ただの意味のない音響にしか聴こえない箇所があります。リズムは斬れていますが、打ち込みが浅く感じられるのはテンポが速いせいでしょう。しかし、オケは整然として乱れを見せないのは見事です。オケの響きはすみずみまで見渡せるような透明な明るい響きです。第1曲「町の道と田舎の道」でのダイナミックがオケの動きは楽しめます。


○1966年9月2日ライヴー2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

ダニエル・バレンボイム(ピアノ独奏)
BBC交響楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール)

全体を早めのテンポにして・思い入れを入れず・楽譜を淡々と音にしてみましたという感じです。ブーレーズの伴奏は可もなく不可もなしというところで・あまり音楽に共感しているようには思えませんが、純音楽的表現に徹したということでしょうか。オケの個性もあるでしょうが、ドイツ的な重さはなく・透明で軽い響きで・音楽がサラサラと流れる感じです。むしろバレンボイムのピアノがモーツアルト的な軽さと明るさを持っていてとても魅力的です。タッチが軽く・音がクリスタルに粒が揃っていて、曲の個性にもよくマッチしています。


○1966年12月19日〜21日−1

ドビュッシー:交響詩「海」

ニュー・フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、バーキング・タウン・ホール、米CBS録音)

旋律線が硬くて・あまり雰囲気を感じさせてくれない演奏です。当時も「分析的な演奏」と評されていましたが、確かに描写的な感じがなく・音響の律動を聞く感じでイマジネーションを掻き立ててくれない演奏です。ムーディである必要はないと思いますが、やはり響きに艶と香気がないとドビュッシーとは言い難いような気がします。テンポは若干早めですが、全体的に平板な感じがするのも、そう言うところが来ているような気がします。


○1966年12月19日〜21日−2

ドビュッシー:「遊戯」

ニュー・フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、バーキング・タウン・ホール、米CBS録音)

ドビュッシーらしい繊細さと香気に乏しく、乾いた感触です。無機質的で・音の律動を聞く感じでイマジネーションを感じない演奏です。と言っても・それがまさにブーレーズの意図するところなのでしょうが、その意図がよく分らないのです。


○1968年12月ー1

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

ニュー・フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、EMIスタジオ、米CBS録音)

曲自体の旋律が十分甘いのですが、その甘味を殺した感じの演奏です。テンポは全体に早めで、旋律が直線的で雰囲気に乏しい・と言うよりは叙情的な要素を取り去ろうと言うのがブーレーズの意図なのでしょう。「分析的な演奏」と当時評されたのもよく分かります。


○1968年12月ー2

ドビュッシー:夜想曲

ジョン・オールディーズ合唱団
ニュー・フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、EMIスタジオ、米CBS録音)

「雲」は響きに香気が不足するのが不満に感じられます。描写的な要素を故意に排除したような感じがあります。「祭り」はリズム感を前面に押し出して・ダイナミックにして欲しい気がしますが、意識してオケの動きを抑えている感じもします。「シレーヌ」も音楽が硬くて・パサパサした感じです。そのなかで女声合唱がなかなか美しいのが救いです。


○1969年7月28日

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

クリーヴランド管弦楽団
(クリーヴランド、セヴェランス・ホール、米CBS・スタジオ録音)

リズムが実に精妙で、楽譜に記された音符をそのまま音化したような客観性がかんじられます。リズムはよく斬れており・ダイナミクスが大きく、クリーヴランド管の出来は素晴らしいと思いますが、全体の感触は整然として・冷たく静的でもあります。バレエ音楽の描写性というものには全然興味ないようで、音楽が持つ熱さ・バイタリティを描くことを最初から拒否しているような感じなのがとても興味深いと思います。その一方で、音楽そのものが持つ熱さやバイタリティ・粗野な荒々しさを音の律動だけで感知させようとしているようでもあり、熱さの観念のみの提示という感じなのです。そこがブーレーズらしい醒めたところなのでしょう。実にユニークで・ショッキングな演奏です。


○1971年5月11日

バレエ音楽「ぺトルーシュカ」(1911年版)

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、米CBS録音)

とても見事な演奏です。ニューヨーク・フィルの響きが軽やかで・リズムの斬れが良く、響きがとても色彩的で、バレエの情景描写にこだわらず、客観性を感じさせる演奏に仕上がっています。リズムが正確に取れており・インテンポに近い感じで、曲の構造が実によく分かり、自然と古典的な印象が強くなります。したがって、細やかな情景描写ということに重きを置けば、リズムをもっと揺らして面白くできるのではないかと感じる場面もなくはないのですが、ブーレーズの場合にはこの客観的な姿勢がポイントであるし・それが徹底しているから素晴らしいのです。


○1973年1月8日

ラヴェル:優雅で感傷的なワルツ

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、米コロンビア・スタジオ録音)

ニューヨーク・フィルのちょっと濃厚で重量感のある響きが、ラテン的明晰さを持つフランス風のラヴェルとは、ひと味違う面白さです。ブーレーズのリズム処理は巧みで、特に冒頭部のリズム処理が素晴らしい。また中間部ではニューヨーク・フィルの濃厚な響きが生きていて、これも面白く感じます。


〇1975年1月20日

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、マンハッタン・センター、米CBSスタジオ録音)

ブーレーズのスコアの読みが素晴らしい。冒頭から華麗な音絵巻が展開しますが、描写が精妙で、リズム処理が抜群に上手く、音楽の輪郭が明確に浮き上がってきます。冒頭・導入部の無気味な雰囲気がよく出ていますし、魔王の踊りなどもリズムがダイナミックに斬れて目が覚めるようです。ニューヨーク・フィルは色彩感あふれて、緊張感みなぎる素晴らしい出来です。


○1978年

ワーグナー:ジークフリート牧歌(オリジナル室内楽版)

ニューヨーク・フィル楽団員
(ニューヨーク、米CBS録音)

録音が楽器をオンに録り過ぎで・音がキンキンする感じです。弦の響きがザラついて・硬い音色で、旋律の歌い方が十分であるとは思えません。細やかな情感に不足し、乾いた感触で・温かみに欠けます。ロマンティックな感触に乏しいのもまあ意図的なのでしょうが、聴いていてあまり楽しめない演奏です。


○1980年6月・7月ライヴー1

ワーグナー:楽劇「ラインの黄金」

ドナルド・マッキンタイア(ヴォータン)、ヘルマン・ベヒト(アルベリッヒ)、ハインツ・ツェドニック(ローゲ)、ヘルムート・バンプフ(ミーメ)、ハンナ・シュヴァルツ(フリッカ)、マッティ・サルミネン(ファーゾルト)、フリッツ・ヒューブナー(ファフナー)他

バイロイト祝祭管弦楽団
(バイロイト、バイロイト祝祭管弦楽団、パトリス・シェロー演出)

シェロー演出において比重が掛かっているのはヴォ―タンよりも、狂言回しとしてのローゲとアルべリッヒに思われます。この二役に芸達者のツェドニックとベヒトを配し、全体の印象は軽妙かつ皮肉な感じに仕立てられています。ブーレーズの指揮もその線で、ドイツ的な重厚さを排して透明感と軽さを表に出しています。相対的にマッキンタイアのヴァ―タンの比重が軽い感じがしますが、歌唱は悪くないです。


○1980年6月・7月ライヴー2

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」

ペーター・ホフマン(ジークムント)、マッティ・サルミネン(フンディンク)、ドナルド・マッキンタイア(ヴォータン)、ジャニーヌ・アルトマイア(ジークリンデ)、グィネス・ジョーンズ(ブリュンヒルデ)、ハンナ・シュヴァルツ(フリッカ)他

バイロイト祝祭管弦楽団
(バイロイト、バイロイト祝祭管弦楽団、パトリス・シェロー演出)

シェローの演出は「指輪」の演劇的な側面を強調した解釈だと言えそうです。「ワルキューレ」ではそれが一層くっきりしたものとなっており、神話というよりも、ホームドラマ的な人間劇にまで成り下がると云うコンセプトがとても興味深いところです。したがって歌手配役も演技重視の印象で、ジークムントのホフマン以外はどちらかと云えば声の威力を振り回さないタイプ、言い換えれば若干小粒なキャストが意識的に組まれている感じです。歌唱は一応の水準にあるものの、おおっと唸るような歌唱を聴かせる歌手はいない感じ。比較的良いのはホフマンと、サルミネンのフンディンクか。ジョーンズのブリュンヒルデは声の力強さで物足りなさもありますが、演出的には繊細さの要素を重視なのでしょう。マッキンタイアのヴォ―タンもスケール感で物足りないと思いますが、演出はそういうものを求めていないと思います。ブーレーズの指揮も熱くならずに冷静に、良い意味において事務的にこなしている感じと云えましょうか。


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