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べームの録音 (1978年)


○1978年5月

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

マウりツィオ・ポリーニ(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、ウィーン芸術週間オープニング)

テンポは遅いというほどでもありませんが、リズムがしっかりと打たれているので表現がふやけた感じがまったくありません。安定感あるベームの指揮が、この曲を骨格の太い構成感のある演奏に仕上げています。第1楽章も重量感ある仕上がりですが、ベームの良さは息の深い第2楽章によく現われています。ゆったりとした深みのある表現は、晩年のベームの至芸だと言えます。第3楽章もまったくテンポを急くことのない・しっかりした足取りが好ましいと思います。ポリーニのピアノは打鍵が強く・音楽がしっかりして聴き応えがします。特に第1楽章はベームとの息も合って・気合いの入った仕上がりになりましたが、もしかしたらもう少し早めのテンポの方がポリーニ本来の音楽性を生かせるかなという気もしました。


○1978年6月22日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第7番

ケルン放送交響楽団
(ケルン、ギルツェ二ヒ・ホール)

べームとケルン放送響の組み合わせは我々には馴染みが薄いが、両者はよく共演したようで・相性は大変にいいと思います。オケの質も非常に優れています。晩年のべームは全体にテンポが遅くなる傾向がありましたが、インテンポの姿勢は生涯変わらなかったようです。しかしこの演奏ではわずかですがテンポが遅くなったり早くなったりするのが意外でありました。早い部分での印象が強く残るせいか・77年のベルリン・フィルとの演奏よりも表現が若々しいような気がします。あるいはオケの音色が明るめなのも関係しているかも知れません。特に第1楽章では重低音のリズムの刻みを強調し音楽に推進力を与えていくところが壮年期のべームを思わせます。ただこの演奏ではテンポが一貫しないのが残念です。第2楽章はやや早めのテンポでさわやかな印象を残します。第4楽章はやや遅めで腰の重い表現でフィナーレとしては若干の物足りなさがあります。


○1978年11月

シューマン:交響曲第4番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

かなり遅いテンポで通し、リズムを重く取って・スコアを拾い読みしているような印象があります。特に第2〜3楽章ではテンポの遅さにオケが付いていけずに・もたれた感じがなきにしもあらず。全体のバランスから見ても・この中間楽章はもう少し早いテンポを取った方が良いように思えます。しかし、第1楽章は遅いテンポをものともしない重量感のある出色の出来です。遅いテンポのなかから情感がうねるようで、ロマン性が強く説得力のある演奏になっています。第4楽章はテンポがかなり揺れます。早めのテンポで始まりますが、中間部でぐっと遅くなり・コーダでまた早くなります。解釈として一貫性に欠けるかんじがします。ウィーン・フィルは弦のふくよかな音色が魅力で、ホールの適度な残響をよく捉えた録音は雰囲気豊かです。


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