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べームの録音 (1976年)


○1976年4月26日・27日

モーツアルト:ピアノ協奏曲第19番

マウリツィオ・ポリー二(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ポリー二のピアノの響きは渋くて・キラキラしたクリスタルな輝きはないけれど、旋律をよく歌って実に音楽が深いのには感心させられます。華やかさを追わず・じっくりと内容を磨きあげるその音楽作りは第2楽章にその良さが現われています。ベームの指揮はポリーニと相性がとても良いようです。ベームはしっかりとインテンポを取って・ゆっくりめのテンポで音楽を進めていきます。その音楽はピチピチした活気というものに乏しいのは確かですが、音楽がじつに深く呼吸しているのです。


○1976年4月28日〜30日−1

モーツアルト:交響曲第40番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

晩年のテンポの遅いベームですが、これを活気に乏しいと感じる人もいるかと思いますが、リズムはしっかり打たれており・もたれる感じはまったくありません。むしろこのテンポで旋律を息深くしっかり歌っており、しっとりとした味わいは不思議と余韻が残ります。第1楽章はかなり遅めに感じられますが、朴訥とした飾り気のなさを好ましく感じます。旋律自体が十分に甘いので、音楽の自然な味わいが感じられます。ウィーン・フィルの弦は柔らかで、独特の魅力を感じます。第2楽章は第1楽章との対比で逆に早めに感じられますが、このバランスも良いと思います。しっかりとした落ち着いた味わいがあるのです。テンポをしっかりと取った後半・第3・4楽章も良い出来です。聞き手を急き立てることをせず、足取りをしっかり取ってまったく揺るぎがないのです。同日録音の第41番と比べると、第40番の方が相性が良いようです。


○1976年4月28日〜30日−2

モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

スケール感を誇示するようなところはまったくなく、ごく自然に器の大きさを感じさせるという風の演奏です。テンポ遅めで活気に乏しいと感じる面もなくはないですが、飾り気のない自然な表情にべームの人柄がにじみ出るようです。リズムはしっかり打ち込まれており、音楽は息深く歌心を感じさせます。第1楽章は聴き手をぐいぐい引っ張るような勢いは乏しいですが、実に立派な音楽なのです。中間楽章は第1楽章との対比で若干早めに感じられますが、このバランスも良いと思います。第4楽章もテンポをしっかり取って、音楽がゆったりと感じられます。ウィーン・フィルの柔らかい響きが好ましく感じられます。


○1976年6月

ブラームス:アルト・ラプソディ

クリスタ・ルートヴィッヒ(アルト)
ウィーン楽友協会合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ルートヴィッヒの歌唱は深みがあって、ベームの遅いテンポにもよくついて行って・さすがです。ベームをしみじみとした叙情的表現を心掛けていて、特に第3曲はその落ち着いた深い表現が感動的です。


○1976年9月14日ライヴ

モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポをしっかり取って・安定感ある演奏で、音楽の息の深さが見事です。冒頭から「ジュピター」の荘厳なイメージで聴き手に迫るのではなく・まったく芝居っ気を感じさせない朴訥さを感じさせるのですが、音楽そのもので器の大きさを納得させてしまうような感じなのです。特に素晴らしいと思うのは、中間2楽章です。第2楽章は心持ち早めにして・淡々と進める幹事で・決して流麗ではないのですが、旋律が柔らかく歌われていて・心に染みる音楽です。第3楽章はゆっくりしたリズムですが・決してはやらない態度が独特の味わいを醸し出しています。第4楽章も決して聴き手を煽るところがなく、旋律の息が実に深いのです。晩年のべームの味わい深いモーツアルトです。


○1976年9月20日ライヴー1

モーツアルト:交響曲第29番

ケルン放送交響楽団
(ケルン、ケルン放送大ホール)

好演です。特に前半が素晴らしいと思います。かなり遅めのテンポをとっていますが、第1楽章はゆったりした表情が予想以上の効果を上げています。細やかな息遣いが聴こえてくるようで・旋律を慈しむように奏でられています。第2楽章は第1楽章のテンポとの対比で・ちょっと早めに感じられますが、これも余裕のある表情で・美しいと思います。ケル放響は硬質で引き締まった音ですが、ベームのスッキリした無駄のない造形にこれがぴったりです。それでいて旋律線がきつくなく・落ち着いたゆったりした音楽の流れが維持できているのは、ベームの指揮のリズムがしっかりとれていて・揺るぎがないことから来ているものだと思います。


○1976年9月20日ライヴ-2

ブラームス:交響曲第1番

ケルン放送交響楽団
(ケルン、ケルン放送大ホール)

べームとケルン放送響との相性は非常に良いように思われます。全体にインテンポで早めに進められ歯切れ良く、壮年期のべームを思わせるような若々しい演奏になっています。曲のフォルムに対する意識が行き届いており、オケはべームの要求によく応えています。やや重量感に不足する感じもありますが、弦セクションは透明感があって聞かせます。特に第2楽章は早めのテンポで流れるような美しさで、このオケの弦の魅力が生きています。


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