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サー・トーマス・ビーチャムの録音 


○1956年

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」〜だったん人の踊り

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団
(ロンドン、英EMI・スタジオ録音)

悪い意味ではなく・英国人らしくソフィスティケートされた演奏で、色彩感と異国情緒に溢れた素敵な演奏です。リズムもよく斬れています。合唱が管弦楽だけの場合よりも演奏に立体感を与えているということも言えそうです。


○1956年9月17日・21日

劇音楽「アルルの女」第1組曲

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団
(ロンドン、英EMI・スタジオ録音)

オケの音色は渋めで、スケールは決して大きくありませんが、表情に独特な細やかさがあって、その落ち着いた佇まいが魅力的です。言い替えると、とても上品な演奏なのです。前奏曲後半やメヌエットの落ち着いたテンポで、しっとりした味わいも悪くないものです。カリヨンなどさらにダイナミックな表現が出来ると思いますが、不思議と心惹かれるものがあります。


○1957年−1

サン・サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」からの2曲
           ダゴンの巫女たちの踊り、バッカナール

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団
(ロンドン、英EMI・スタジオ録音)
 

ロイヤル・フィルは音色はやや渋めで、スケールはあまり大きくはないですが、オリエンタルなムードをよく表出しており、表情に独特の柔らかみを感じます。バッカナールはさらにオケの機動力を発揮させて切れ味良く仕上げることが可能だと思いますが、こういう抒情性の優った演奏も悪くはないなあという気にさせられます。


○1957年ー2

グノー:歌劇「ファウスト」第5幕〜バレエ音楽

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団
(ロンドン、英EMI・スタジオ録音)

こじんまりとした演奏ですが、表情が何とも細やかで小粋です。それはリズムがよく打ち切れていて、旋律が息深く歌われているからだと思います。特にロイヤル・フィルの弦が魅力的です。ヌビア人の踊り、トロイの娘たちの踊りはやや早めのテンポを取って軽めのタッチで歌い上げています。どこか懐かしい思いを掻き立てられるようで、安心して楽しめる演奏だと思います。


○1957年ー3

シャブリエ:歌劇「グヴァンドリーヌ」序曲

フランス国立放送管弦楽団
(パリ、スタジオ録音)

ビーチャムの個性とマッチして、早めのテンポでダイナミックに歌い上げています。フランスのオケですから響きは色彩的で、張りのある弦セクションがなかなかの好演です。


○1958年

ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」から2曲
               鬼火のメヌエット・妖精の踊り

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団
(ロンドン、英EMI・スタジオ録音)

スケールはこじんまりとしていますが、小粋な演奏で、不思議に心惹かれます。ロイヤル・フィルの響きはやや渋めのせいもありますが、細部の表情のさりげない味わいに、ビーチャムの個性が良く出ています。テンポを遅めにとってロマンティックな演奏に仕上がっており、何だか懐かしいものを聴いているような気分にさせられます。


○1959年

ビゼー:交響曲第1番

フランス国立放送管弦楽団
(パリ、スタジオ録音)

ビーチャムとフランスのオケの個性がマッチして、ビゼーの若書きに相応しい清々しさに満ち溢れています。フランス国立放送管は響きの色彩感が素晴らしく、弦セクションの張りのある音色とリズム感も魅力的です。ビーチャムは速めのテンポで通しますが、特に前半の出来が良く、第1楽章の冴えのある表現に耳を奪われます。微妙なところに歌い回しの巧さが光ります。第2楽章の抒情性のある澄んだ表現も魅力的です。


○1959年11月8日ライヴ−1

メンデルスゾーン:序曲「美しきメルジーネの物語」

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)

メンデルスゾーンらしいメルヒェン的な雰囲気に満ち溢れた小品をビーチャムが小粋にまとめています。響きが透明で・リズムが軽やかであり、流麗な音楽作りです。特にロイヤル・フィルの弦が美しく、音の流れがキラキラと輝くようです。


○1959年11月8日ライヴ−2

アディソン:バレエ組曲「白紙委任状」

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)

四つの音楽から成るバレエ組曲。響きの軽さと鋭さが交錯する第1曲はオケの動きが実に精妙で、リズム処理が巧みです。第3曲は軽妙さがあって・ユーモアたっぷりの演奏。ロイヤル・フィルの出来は優秀で、ビーチャムの遊び心と小粋なセンスを感じさせて、非常に愉しい演奏です。


○1959年11月8日ライヴ−3

ベートーヴェン:交響曲第7番

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)

テンポ早めでスッキリした造形ですが、全体の構成はしっかりしています。ロイヤル・フィルの響きは明るく・軽めの響きなので、カラリとして明るい・リズム主体の純器楽的表現ですが・こういう演奏も悪くありません。第1楽章は中間部からテンポを上げて・リズムが飛び跳ねるように元気が良い演奏です。若干軽い感じはしますが、ビーチャムの人柄もあるのか・嫌味な感じはしません。第2楽章は早めのテンポで・流麗な出来。第4楽章はクライバー並みの快速で・曲が進むにつれて・音楽に勢いがついてきて、聴衆の大いに沸かせます。ロイヤル・フィルはこの快速でも造形に乱れを見せないのですから・なかなか優秀です。


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