バレンボイムの録音 (2011年ー2020年)
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
ベルリン国立管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、東日本大震災ユニセフ救援基金コンサート)同年3月11日に起こった東日本大震災のユニセフ救援基金コンサート。前半がバレンボイム指揮ベルリン国立管弦楽団、後半がラトル指揮ベルリン・フィルというプログラム。バレンボイムの「悲愴」はなかなかの名演。特に前半がストイックな厳しい表現で、第1楽章は若干早めのテンポをしっかり取って、旋律の歌い廻しは表面上は簡素ながら・そのなかに深い悲しみを秘めた表現で聴かせます。続く第2楽章はロマンティックな重い表現に傾けず、軽めの味わいに仕上げたところが、後半への布石として効いています。ここでは音量を抑えた弱音の表現が印象に残ります。第3楽章はダイナミックで動的な表現を聴かせますが、なおも直線的で感情を胸にのなかに押さえ込んだような厳しい表現です。ここまでバレンボイムはここまでは比較的インテンポで取っていましたが、第4楽章に至って一転してテンポを意欲的に動かして音量の強弱を大きくつけて感情を大きく揺すぶります。そこまで押さえ込まれていた感情が一気に噴出すような印象を受けます。聴き応えのある演奏でした。
ヴェルデイ:歌劇「マクベス」
プラシド・ドミンゴ(マクベス)、アンナ・ネトレプコ(マクベス夫人)、ヨン・グァンチョル(バンクォー)、ファビオ・サルトーリ(マクダフ)他
ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ハリー・クプファー演出)ドミンゴのマクベスは、明るい声質に最初は多少の違和感があるけれども、マクベスの繊細な一面を、息の深い繊細な歌唱は見事で表現して見せました。対するネトレプコのマクベス夫人も充実の歌唱。張りのある力強い歌唱で聴かせます。バレンボイムの指揮は骨太い作りで、ベルリン国立歌劇場管のリズムが重め・音色が暗めなのをよく生かして、重厚でクラシックな感触のヴェルディに仕上がっています。第2次大戦中のドイツのような重苦しいクプファーの演出もバレンボイムの演奏の色調に重なり合うところがあります。
モーツアルト:ピアノ協奏曲第27番
ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)新型コロナの蔓延で世界中のオペラハウス・コンサートホールが休場となり、ウィーン・フィルの演奏会も3月中旬以来休止していましたが、6月5日にバレンボイム指揮の演奏会で、感染防止対策を施したうえで聴衆を100名に限定して再開に漕ぎつけました。7日は同じプログラムによる演奏会になります。久しぶりの演奏ということもあるんか、第1曲目のモーツアルトは第1楽章ではオケとピアノのバランスが悪く、ウィーン・フィルの高弦がやや威圧的に響く感じがします。バレンボイムのピアノもちょっと指の動きが鈍いように感じますが、第2楽章辺りからは次第にこ慣れてくる感じです。バレンボイムはしっかりとリズムを刻んで、いぶし銀のような渋いタッチのピアノを聞かせます。華やかさよりも内面重視で、第2楽章は心に響くところがあります。また第3楽章もリズムが逸ることなく、しっかりした足取りが好ましく、ウィーン・フィルも後半では響きが次第に柔らかく練れた印象に変わってきます。
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)低音を効かせて重厚な響きで、如何にもウィーン・フィルらしいオーソドックスなベートーヴェンです。リズムが逸らず、落着きと云うか、愚直なほど遅めの足取りを守って曲を進め、曲自体が持つ構成力が活きてきます。そこに意志の強さを感じさせます。しかし聞き終わった印象では、じっくりとした足取りに骨太い一貫性を感じるものの、最終楽章での高揚が不足しているようにも思われて、そこが評価を分けるところかも知れません。立派な構えの演奏なのだけれども、いささか落着き過ぎの感じで、もう少し心情の熱さが欲しいという気がするのです。