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アバドの録音 (1993年)


○1993年2月3日ライヴ−1

ブラームス:悲劇的序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

弦の響きがとても美しく・音楽の造りが滑らかで、ブラームスの音楽の持つ抒情的要素を強調した演奏になっています。特に第2主題はため息をつくほどに美しいと思います。逆に第1主題は強固な意志を感じさせるようなものが弱くて、この曲が持つ構成力は弱くなった感じで全体にちょっと冗長なところがあるのも否めません。


○1993年2月3日ライヴー2

ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲

マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
ボリス・ベルガメンシコフ(ヴィオラ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルの特性を生かした透明度の高い・抒情性の高い演奏です。その意味ではカラヤン時代の踏襲のようにも感じられますが、音の厚みがあまり感じられず・フォルムに対する締め付けが弱いように思われます。これがインパクトの不足に感じられるような気がします。美しい演奏ですが、もう少し強固な意志を感じさせるものが欲しいのです。第2楽章は緊張感がちょっと弱いようです。ソリストのふたりもそのような線で選ばれているようで、どちらかと言えば線が細く・情感細やかな感じです。その一方で第3楽章などはもう少し豪放な感じがあっても良いのではないかと思わせます。


○1993年2月3日ライヴー3

ブラームス:交響曲第3番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

この演奏はアバドとベルリン・フィルの美質がよく生かされた名演です。無理な力が入らず・ゆったりと豊かに流れる旋律は歌心十分です。全体のテンポもゆったりしていますが、スケールが大きく・伸びやかな印象があります。特に中間の第2・第3楽章には叙情的な美しさが満ち溢れています。アバドはベルリン・フィルの自発性をよく生かし、カラヤン時代のベルリン・フィルの個性を踏襲しながらも、透明感のある叙情的で・個性的なブラームスを作り上げています。


○1993年3月28日ライヴー1

ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチーナ」より前奏曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザルツブルク祝祭大劇場)

演奏は悪くないのですが、テンポが少し早めのせいか、感触がサラリとした感じで、少々軽い印象です。響きは美しく音楽は滑らかですが、滑らかに聴こえるほど印象が淡くなる感じです。もちろんアバドのことだから意図したことでしょうが、もう少しリズムを重く処理すれば民衆の苦悩の重いものが表現できそうな気がしますが、どこか写真を見るように風景を客観的に眺めたような印象がするのが、やや不満 に感じます。


○1993年3月28日ライヴー2

チャイコフスキー:交響曲第5番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザルツブルク祝祭大劇場)

当日のムソルグスキーと同じことが云えそうですが、テンポをやや速めに取った分、スタイルはキリッと締まってスリムになりましたが、情感描写がやや軽めになった印象があります。ただしムソルグスキーよりはチャイコフスキーの方が、アバドの音楽作りに相性が良いようです。ベルリン・フィルの響きは美しく滑らかで、旋律の細部を十分ニュアンス豊かに歌い上げています。もちろん交響曲としての構成感もしっかりしています。 前半2楽章の出来が密度が高くて良いと感じますが、特に素晴らしいのは第2楽章で、この楽章はテンポを遅く取って金管をたっぷり歌わせており見事な出来です。第3楽章も変型のワルツの面白さを良く出して、この楽章の意味を明確ししています。第4楽章でのオケの動きはダイナミックですが、早めのテンポでサラリとした感触です。


○1993年9月6日ライヴ

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

アバドはこのところロシア音楽を積極的にプログラムに持ち込んでいますが、この曲は前任者カラヤンの得意曲であっただけにどうしても比較したくなるところです。全体にカラヤンより速めのテンポを取った演奏ですが、第1楽章にはどこかカラヤンを思わせるような繊細な美しい響きが聴かれます。第3楽章は他の指揮者と比べてもかなり遅いテンポです。意識的にリズムを重く取っているように思われますが、ここでのオケの重量感は素晴らしく、この楽章が終わった時に聴衆から思わず拍手が沸きあがるほどです。しかし、これがアバドの特徴かも知れませんが・ベルリン・フィルを使ってもったいないと思うのは、このオケの最大の魅力であるピア二ッシモを効果的に使い切れていないと思えることです。そのために表現のダイナミクスが小さくなっていると感じられます。良くまとまった演奏なのですが、やや優等生的と言うか・もう少し突き抜けたものがこの曲には欲しいような気がします。


○1993年9月22日ライヴ-1

R・シュトラウス:交響詩「死と変容」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

カラヤン/ベルリン・フィルの得意曲でもあったこの曲を、アバドは音楽の流れをベルリン・フィルの自発性に委ね、実に自然に音楽を流しています。ここで聞くベルリン・フィルの弦の滑らかさ・艶やかさはまさにカラヤン時代のそれを思い出させます。アバドはこれを生かして、この曲の叙情的部分を強調した演奏になっている。大変にロマンティックで美しい演奏です。


○1993年9月22日ライヴ−2

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルのちょっと暗めでしっとりとした湿り気を帯びた音色が、原曲のイメージを大切にしたという感じで・この曲にぴったり合って聴き応えがあります。「古城」・「カタコンブ」など暗めの音色がロシアの民俗画の油絵を思わせる感触で・どこか哀愁を帯びて聴こえます。「バーバヤーガの小屋」・「キエフの大門」はリズムはやや重めですが、低弦の効いたベルリン・フィルの重量感のある動きが十二分に発揮されています。


○1993年12月14日ライヴ−1

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

マレイ・ぺライヤ(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ペライヤとの共演で・互いに触発された魅力的な表現です。表情に冴えがあって、特に第1楽章がしっかりした音作りで充実した出来だと思います。ベルリン・フィルの響きも重過ぎてもたれることなく、しかし決して軽くならず、しっとりと深みのある響きです。


○1993年12月14日ライヴ−2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

マレイ・ぺライヤ(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

同日と第4番と同様に、これも表情が冴えわたった・聴き応えのする演奏です。アバドのテンポはやや早めですが、リズムがしっかりと打ち込まれていること。音の立ち上がりが鋭く、旋律の輪郭がくっきりと描かれています。ぺライアのピアノ独奏も重いドイツ風の音楽作りではないのですが、音が粒立っており、しっかりした骨組みの音楽なのです。このコンビは非常に相性が良いように感じられます。全楽章を通じて魅力的ですが、特に第2楽章の清らかで深みのある表現は素晴らしいと思います。第3楽章もしっかりした足取りで、聞き手を急き立てることなく・充実した演奏を繰り広げています。


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