アバドの録音 (1983年)
ショパン:ピアノ協奏曲第2番
イーヴォ・ポゴレリチ(ピアノ独奏)
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)ポゴレリチのピアノはリズム感もあり、タッチの粒も揃ってなかなか聴かせますが、第2楽章など内省的でテンポの遅い場面で極端にピアノの音量が消え入るように小さくなります。オケも独奏に合せて音量を抑えますが、これはアバドの解釈ではなく 、明らかにポゴレリチのリードでしょう。旋律の歌い方がムーディになるというわけでもなく、恐らくダイナミクスの大きさを出そうとする意図のようですが、これが曲を構成的に弱くしている感じがあり、解釈として作為的な気がします。ポゴレリチの良さは第3楽章のリズム処理によく出ていると思います。
ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)幻想交響曲の前プロですが、ベルリオーズの音楽の延長線上で・西洋音楽の行き着いたものというイメージで聴けば、アバドの意図が分るように思われました。
ベルリオーズ:幻想交響曲
ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)ロンドン響は透明で明るい響きが魅力的です。旋律線がシャープで、曲のフォルムが素直に見通せるような感じです。全体的にのめり込みが少なく客観性を保った行き方がよく似合っています。第1楽章など重量感に欠けて・凄みというかグロテスクさに乏しいきらいもなくはないですが、リズムを軽やかに処理して 、音楽に若々しさと勢いがあるので好感が持てます。第2楽章も感触はべトつかずあっさりしていますが、さわやかな表現です。第4〜5楽章はオケの色彩感とリズムの斬れがいいので 、面白く聴かせます。
ムソルグスキー/ラヴェル編曲:組曲「展覧会の絵」
ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)テンポを速めに取って斬れがある若々しい表現です。ロンドン響はリズム感が良く、響きが透明で・色彩的です。暗めのロシア的な色調ではなく、ラヴェルのフランス的な洒落た感性を感じさせて素敵です。各曲の個性をよく描き分けていますが、テンポの速い曲において表現が生きており、しっとりとした曲は割とサラリとした印象です。ただ全体に駆け足で絵を見て廻っているような感じも しますが、次から次へと場面が展開していく面白さとも言えそうです。ババ・ヤーガではオケのダイナミックな動きが楽しませますが、キエフの大門はややアッサリした感じ。
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
ウラディミール・アシュケナージ(ピアノ独奏)
ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)珍しい顔合わせですが、両者の長所が良く出た魅力的な演奏に仕上がりました。アシュケナージのピアノの響きは渋い音色を放ち、テンポをしっかり保って線の太い演奏になっています。特に第2楽章はじっくりした音楽を聞かせます。対するアバドはさすが見事なサポートを聞かせます。ロンドン響は線が細めで量感に不足するところはありますが、そこを逆手に取って力強く引き締まった造形で押してきます。両端楽章では両者がっぷり四つに組んだ熱い演奏を展開します。
ドヴォルザーク:交響曲第8番
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ソニークラシカル・ライヴ録音)リズムの刻みを深く取った陰影がある演奏で、安心して聴けます。ベルリン・フィルの響きは色彩感があって、低音は充実し過ぎなくらいで、誠にゴージャス。テンポ設計も適切で、骨組みの太い構成感があり、交響曲らしい立派な構えです。第4楽章のオケの動きなど実にダイナミックで上手いものです。ただ立派過ぎると不満を言うのも何ですが、この曲が本来求めるものよりはやや重い感じがします。例えば第2楽章がそうです。ドヴォルザークの歌謡性というのは、スラヴの民族性とか素朴さとか云わなくても、もう少し軽い繊細のタッチの方が生き生きした感じがする気がします。歌い廻しが粘っているということでは決してないですが、アバドの表現だと芸術的ですが、もう少しときめきが欲しいわけです。そう考えると第1楽章はもうちょっと軽みが欲しい気がしますし、そうすれ ば次々と展開して行く曲想の変化の面白さが出て来るのではないでしょうか。第3楽章も憂いある表現で、弦の艶 やかさが魅力的ですが、やや味わいが濃厚に過ぎるかも知れません。それはともかく充実した演奏であることには違いありません。