(戻る)

アバドの録音 (2007年)


○2007年8月10日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

メラニー・ディーナー(ソプラノ)、アンナ・ラーセン(アルト)
ジョナス・カウフマン(テノール)、ラインハルト・ハーゲン(バス)
バイエルン放送合唱団
ルツェルン祝祭管弦楽団
(ルツェルン、ルツェルン・コンサート・ホール)

第1楽章冒頭から音楽の流れがスッキリして・重ったるくない表現であり、表情の細部まで生き生きしています。ルツェルン祝祭管は特に高弦の斬れが素晴らしく、造形がシャープです。全体がキリリと引き締まった出来で、特に第4楽章が傑出しています。このところ第4楽章は思想化し位置付けが肥大し勝ちで 、響きが分厚い演奏が多いですが、アバドは響きを軽くして・リズムを重くせず、スッキリと見通し良く仕上げています。その結果、四つの楽章のバランスが良くなって、各楽章の個性がくっきり浮かび上がりました。声楽陣も優れています。子音をとても大事にしており 、言葉が聴き取りやすい歌唱であると思います。もうひとつは第2楽章スケルツオのリズムがよく斬れて、ベートーヴェンの音楽の斬新性が感じられるのも印象的です。第3楽章は音楽の静かな流れが淡い光を放つような実に美しい表現です。近来稀に聞く傑出した「合唱」の演奏であると思います。


○2007年8月19日ライヴ

マーラー:交響曲第3番

アンナ・ラーセン(アルト)
アーノルト・シェーンベルク合唱団
テルツ少年合唱団
ルツェルン祝祭管弦楽団
(ルツェルン、ルツェルン・コンサート・ホール)

描線がシェープされて・力強く、70年代の若々しいアバドが戻ってきたような印象がありますが、テンポは若干遅くなっており・冷静にコントロールされており、落ち着いた成熟した音楽になっています。マーラーの静と騒の対照においてそのギャップを際立たせると言うより も、配置を冷静に見極めるという感じです。響きが軽めで・ちょっと乾いた感触であるのも、マーラーに相応しいと思います。スケールは小振りな感じもしますが、古典的な印象が強いところに近年のアバドの変化があるようです。両端楽章に比重が掛かった感じですが、中間2〜3楽章は淡くあっさりと抑えた軽めの表現 なのも、第1楽章との対比で納得できるところです。声楽の入る第4〜5楽章は全体のなかで転換点になるように設計されていると思いますが、この演奏ではとてもバランスが良いと思います。最終楽章は淡々とした流れのなかに深い感情を凝縮した緊張感があって、とても感動的な表現です。


(戻る)