アバドの録音 (2000年)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ独奏)
マーラー・チェンバー・オーケストラ
(フェラーラ、コムナーレ劇場、独グラモフォン・ライヴ録音)ひと味違うベートーヴェンというところです。アルゲリッチのピアノは生気のあるリズム、粒のそろったクリスタルな響が何とも魅力的です。音色がリズムのちょっとした揺れに、媚態というか色気というか、そういうものが感じられる箇所があって、これにはハッとさせられます。それがベートーヴェンにふさわしいかということはちょっと置きますが、実にアルゲリッチらしいところです。第2楽章の弱音の使い方など、耽美的な美しさというべきでしょうが、ちょっとベートーヴェンとは異なるスタイルだと思われます。アバドもアルゲリッチとの共演ということもあると思いますが、ベルリン・フィルを振る時とはだいぶ趣が異なるようです。細身でリズムの跳ねが強めで、音楽に活気が感じられます。悪いというのでもないが、オーソドックスな印象とは違う感じがします。
ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜前奏曲と愛の死
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)旋律線よりも響きの色の移ろいに重きを置いた演奏であり、音楽の光の帯が絶えず揺らめく感じで静かに流れて行き、響きは決して混濁しません。ここにはドラマはなく、思念の流れだけがあるようです。好みによってはこの演奏は情感に浸りすぎで耽美的に過ぎるという批判がありそうです。その批判は間違いでないと思いますが、この演奏は「トリスタン」の音楽のある側面を突いているかも知れません。ベルリン・フィルの響き、特に弦は、これ以上はないと思うほど、豊穣で柔らかな、見事な響きです。
ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」〜ワルキューレの騎行
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)演奏の傾向としては同時期録音の「トリスタン」と同じことが言えますが、やはり「ワルキューレ」には、「トリスタン」以前のワーグナーの、線が太い、旧オペラの感覚が強いようで、響きの色合いに頼ったアバドの行き方では、感覚的にぴったり行かないような感じがします。この曲の場合には、やはりダイナミックなオケの動感が必要であると思います。