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ワルターの録音(1945年−1949年)


○1946年4月22日

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、米CBS・スタジオ録音)

硬質の響きを持つニューヨーク・フィルの個性ということもありますが、早いテンポでキビキビとした直線的な歌い回し・ファルテの鋭い音の立ち上がりなど、トスカニーニの強い影響を感じさせる演奏です。ウィーン・フィル時代の小振りで優美な印象とはガラリと変わって・男性的で剛直な印象です。しかし、ワルターらしいと思うのは低音の効いた重心の低い響きと、やはりどこかに暖かい感触がほのかに感じられることでしょう。そういう意味で成功しているのは第2楽章で、早いテンポでキビキビしたなかにも硬さがなく・暖かく柔軟性のある表現に仕上がっていることです。逆に第3〜4楽章はワルターがトスカニーニ張りにかなり強引に置けを引っ張っている印象があります。スケールは大きい表現ですが、金管のフォルテがやや刺激的で、表現がこなれていない感じがします。


○1947年2月10日

マーラー:交響曲第5番

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、米CBS・スタジオ録音)
 

全体の設計が行き届いていて・説得力のあるマーラーです。色彩感やオケのダイナミックな動きよりも、曲の骨太い構造が強く印象に残ります。マーラーのごった煮的な印象が整理されて、実に聴き易い・古典的な佇まいさえ感じさせるのです。マーラー伝道師ワルターらしい演奏と言うべきしょう。テンポは早めですが・リズムがしっかりと押さえられて、旋律は力強く歌われて・線が太い演奏になっています。第4楽章アダージェットは音色やしなりで聞かせるという感じではなく・素朴ささえ感じさせますが、深い味わいがあります。ニューヨーク・フィルも重量感がある力演で、第3楽章や第5楽章の複雑なスコアを乱れなく音化していると思います。


○1949年4月16日、5月4日(第4楽章のみ1953年3月7日)

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」

フランシス・イーンド(ソプラノ)、マーサ・リプトン(アルト)
デイヴィッド・ロイド(テノール)、マック・ハレル(バリトン)
ウェストミンスター合唱団ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、米CBS・スタジオ録音)
 

全体的にテンポを速めに取って、旋律線をくっきりと明確につけた印象で、どちらかと云えばトスカニーニ的な表現です。リズムの刻みは明確で、表情が引き締まり、音楽に推進力があります。ニューヨーク・フィルは高弦が力強く、響きに重量感があって力演だと思います。意志的な力を前面に押し出し、いわゆるベートーヴェンのイメージに沿った演奏で、聴き終ってインパクトがある演奏です。その意味で力強い前半2楽章は素晴らしいと思います。第3楽章は速めのスッキリした流れの抒情的な美しさが漂う好演ですが、ワルターならばさらに柔和な表現が可能かな?とは思います。まあしかし、これはこれで全体の流れのなかではしっくり収まった表現ではあると思います。第4楽章は録音時期が異なりますが、これは49年に録音したものがワルターが不満でそこだけ録り直ししたものだそうです。これも表情がキリリと引き締まった表現で、全曲を締めるのにふさわしい好演に仕上がっています。


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