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トスカニーニの録音(1949年)


○1949年2月18日ライヴ

ケルビー二:歌劇「メデア」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

冒頭の早いテンポの旋律は引き締まり・悲劇性を盛り上げます。オペラの序曲というよりは・一遍の管弦楽曲という趣の緊張した演奏に仕上がっているのがトスカニーニらしいところでしょう。


○1949年3月12日ライヴ

ハイドン:交響曲第99番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

第1楽章序奏部はまるでベートーヴェンの初期の交響曲のような重厚な響きで始まりますが、展開部に入ると、リズムは軽やかになってトスカニーニらしい生き生きした表現になっていきます。リズムの斬れを強調するのではなく・旋律の流れを大切にしているので、堅苦しい感じがまったくありません。古楽器全盛の時代から見ると大柄な表現にも感じられますが、音楽の流れがじつに心地よくて・トスカニーニとハイドンとの相性の良さをつくづく感じます。第3楽章メヌエットの落ちついた美しさは特筆すべきものです。


○1949年3月26日・4月2日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「アイーダ」

エヴァ・グスタフソン(アムネリス)/デニス・ハーパー(エジプト王)/ハーヴァ・ネリー(アイーダ)/リチャード・タッカー(ラダメス)./ノーマン・スコット(ランフィス)/ジュゼッペ・ヴァルデンゴ(アモナスロ)他
ロバート・ショウ合唱団
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

テンポはかなり早めで、リズム感の良さが際立ちます。特に管弦楽の素晴らしさは言葉では言い尽くせません。ヴェルデイの美しい旋律を直線的に提示することで、まるで一刀彫りの如くに簡潔で力強い表現を生み出しています。あるいは旋律を流れるように歌わせるとで優美な音楽を生み出すことも可能かもしれませんが、そうした面に意識的に背を向けて・ストイックな表現を目指しているようです。聴き手が歌で酔うことを望むならば・この演奏は不向きかも知れません。フォルムに従うことを歌手に強いているので、声に魅力が乏しい演奏であるのは確かであるかも知れません。しかし、ここでトスカニーニが作り出す音楽が歌心がないというのではなく・むしろその逆なのです。トスカニーニの作り出す音楽にはヴェルディの根源的なものが示されているように思われます。卑俗なものに墜しかねないヴェルディの音楽が、力強く崇高なものに高めることに成功しています。


○1949年11月7日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第2番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、1951年10月5日に第2楽章を録り直し)

NBC響の重厚な響きで・構成力のしっかりした安定したベートーヴェンです。トスカニーニらしいキビキビした動きが魅力的です。第1楽章序奏の抑えた表現から推進力のある展開部への移行は実に見事です。つづく第2楽章は淡々としや簡素な表現が生きています。第4楽章もリズムを急くことなく・しっかりと足を地につけた安定したフィナーレです。


○1949年11月12日ライヴー1

チマローザ:歌劇「秘密の結婚」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

リズムがキビキビとしたトスカニーニらしい演奏ですが、表情が何とも生き生きしているのが魅力的です。NBC響の響きが明るく、お国ものとは云え、トスカニーニとの相性の良さが感じられます。


○1949年11月12日ライヴ-2

シューマン:交響曲第3番「ライン」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

リズムがしっかり取れて、安定感がある演奏です。ロマン的なスケールの大きさというよりは、オケの色彩感を抑えて・音色を暗め渋めに取り・古典的な形式に重きを置いた感じです。第1楽章のテンポは中庸ですが・リズムがしっかりしていて、簡素ですっきりした造形です。第2楽章はテンポを速めに取って・流れるような旋律の歌い方が好ましいと思います。第3楽章もしっとりした情感を出しています。第5楽章はこの交響曲にふさわしい堂々としたフィナーレです。


○1949年11月21日ライヴ

ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

明るく陽光のように透明な響きが素晴らしいと思います。トスカニーニのラヴェルは旋律線が明確で聴きやすく、「夜明け」や「パントマイム」では明晰なラテン的感性と抜けるような青空を感じさせてくれます。「全員の踊り」はリズムの斬れが抜群で、NBC響の合奏力が素晴らしいと思います。


○1949年11月26日ライヴ

モーツアルト:歌劇「魔笛」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

徹底したトスカニーニ調のモーツアルトと言うべきです。テンポが速くて・力強い演奏ですが、全体として音楽が硬く・威圧的で・トスカニーニのファンでさえ聴いていていささか疲れる感じです。荘重でおごそかな雰囲気は消し飛んでいます。早いテンポで音楽を振り回している感じがあって、機能主義的な印象が 前面に出ています。ドイツの指揮者の演奏とは一線を画しますが、音楽をぐいぐい引っ張る力はもの凄く、これだけスタイルが極まると見事と言えるかも。


○1949年12月3日ライヴ

ケルビー二:歌劇「アリババ」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

どこかコミカルな要素のある曲ですが、トスカニーニはリズムをうまく処理して愉しめる演奏にしています。


○1949年12月5日ライヴ

チャイコフスキー:マンフレッド交響曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニー二はこの曲がお好みであったようです。交響詩的な作品ですから、トスカニーニの演奏も密度が高くて、緊張感あるダイナミックなオケの動きが楽しめます。特に第1楽章が印象深い出来です。テンポ早めに、直線的に押しまくる弦の動きが凄まじく、圧倒されます。その弦の音色は、強く暗い情念を感じさせます。第4楽章前半も激しいリズムで、聴き手を煽り立てるようです。対照的に第2楽章は軽みのある仕上がり。この対照も効いています。


○1949年12月12日ライヴ

レスピーギ:交響詩「ローマの祭り」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

これはステレオ録音でないのが本当に惜しいと思うような超名演です。冒頭から早い天日で次々と繰り出される色彩・リズム・旋律の鮮やかさにただ唖然とするばかりです。 透明で鏡面を滑るように滑らかな弦の響きと、天を突き抜けるように輝かしい金管の響きが実に魅力的です。NBC響の奏者たちの力量の見事さは言うまでもありませんが、なかなか構成的には難しい曲だけに・トスカニーニ のリズム処理と設計のうまさが際立つ感じです。曲のすみずみまでラテン的明晰な感性の光を当てているように感じられます。


○1949年12月22日ライヴ-1

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」〜夜明けとジークフリートのラインの旅

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

NBC響の弦の響きは重厚で・金管も輝かしい出来だと思います。テンポを早めに取り・前半の夜明けのすっきりした描写から後半ラインへの旅は一転してダイナミック。その表現が実に雄弁で・聴かせます。


○1949年12月22日ライヴー2

ワーグナー:舞台神聖祭典劇「パルシファル」〜第1幕への前奏曲・聖金曜日の音楽

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ワーグナーの他の曲の場合と違って・トスカニーニはリズムの刻みを前面に出さず・音楽の流れを重視した感じです。テンポは遅めで・旋律線重視というか・音楽の滔々とした流れを大事にしています。旋律をゆったりと息長く柔らかく歌って・荘重な雰囲気がよく出ています。NBC響の金管は渋めの響きで威力あり・聴かせます。


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