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トスカニーニの録音(1947年)


○1947年2月17日ライヴ

ベルリオーズ:劇的交響曲「ロミオとジュリエット」〜第2部抜粋

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ベルリオーズの幻想的な揺れる雰囲気をよく表出しています。NBC響の暗めの響きが魅力的です。


○1947年2月25日ライヴ

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

全体に早いテンポで進められていますが、完全なインテンポではありません。そのテンポ設定から受ける印象は意外にフルトヴェングラー的で、たたみかけるような迫力を感じさせています。ただしフルトヴェングラーの場合はテンポの緩急を大きくつけて聴衆を内面から揺さぶりを掛けていくようなところがありますが、トスカニーニはテンポをあまり動かさないので・形式感を大切にした正攻法の演奏であると感じます。NBC響との演奏は造形が筋肉質的に引き締まって、旋律を直線的に大胆に弾ききる・まことに「トスカニーニらしい」と言えます。早いリズムでたたみ掛けるような迫力がありますが、リズムは完全に打ち切れているので印象は整然として実に説得力があります。


○1947年3月30日ライヴ

メンデルスゾーン:八重奏曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

室内楽曲を大編成の弦でやれば・スケールが大きくなりますが、楽器の絡み合いを楽しむ要素はどうしても薄くなります。第1・2楽章はリズムの推進力を基調にして・乾いた感触のトスカニーニらしい処理です。斬り込みの鮮やかな造形ですが、リズムの強さが前面に出過ぎで、音の律動を愉しむような感じが若干あります。しかし、第3楽章は曲想のせいもあって・トスカニーニの処理が一転してマッチします。軽やかな弦の動きからメンデルスゾーンらしい爽やかなロマンティシムズを感じさせます。


○1947年11月4日ライヴ

メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」の音楽
(序曲、スケルツオ、間奏曲、夜想曲、結婚行進曲、フィナーレ)

エレナ・フィリップス(ソプラノ)と女声合唱団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

序曲はトスカニーニらしい引き締まった表現で、テンポ早く勢いがあって、最初は低音のリズムがきつ過ぎて少々元気が良すぎる感じもしますが、中間部辺りから透明でメルヒェン的な気分が盛り上がってきて、乗りの良い楽しい演奏に仕上がっています。夜想曲は速めのテンポですが、フルート・ソロも含めて響きのキメがまったく粗くならない絶妙の出来です。結婚行進曲も、実に輝かしい出来です。とにかく旋律が実に息深く歌われているのが、素晴らしい女声を加えたフィナーレも、明るく柔らかい響きが美しいと思います。トスカニーニとメンデルスゾーンの相性の良さが改めて確認できます。


○1947年11月8日ライヴ

モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

早めのテンポで通しているが、早過ぎるというほどではありません。モーツアルトらしいウイットに富んだ・リズミカルで活気のある演奏です。聴き手に幕が上がるワクワクした期待を感じさせるのは、さすがにオペラ指揮者トスカニーニの真骨頂というところでしょうか。


○1947年11月18日ライヴ−1

モーツアルト:ファゴット協奏曲

レナード・シャロウ(ファゴット独奏)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

テンポ速めで・トスカニーニらしいスッキリした造形ですが、旋律は十分に歌われていて・生硬な感じはまったくありません。特に第1楽章はリズムが生き生きとしており・見事です。主旋律の受け渡しが巧く・旋律線を大事にした演奏であると思います。シャロウのファゴットはトスカニーニのバックを得て、朴訥な感じのこの楽器の持ち味をユーモラスに表現していて面白いと思います。


○1947年11月18日ライヴ−2

モーツアルト:ディヴェルティメントK287

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

テンポは速めで・高弦はスッキリとして伸びやかで・トスカニーニらしい直線的な造形ですが、旋律は十分に息長く歌われています。特に前半2楽章はリズムが生き生きとして、音楽に生硬な感じはまったくなく・モーツアルトらしい軽やかさがあります。第4楽章も旋律がよく歌われて、良い出来です。


○1947年11月24日ライヴ

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニー二はファシズムに反対して故国イタリアを飛び出したせいか、連合国側のロシアの作曲家を積極的に取り上げていますが、意外にチャイコフスキーが少ないようです。交響曲では「悲愴」と「マンフレッド」だけがトスカニーニの取り上げた曲でした。しかし、トスカニーニの「悲愴」を聴くと、トスカニーニがどうしてチャイコフスキーを敬遠していたのか何となく分かる気がします。トスカニーニはチャイコフスキーを甘い旋律を書くセンチメンタルな作曲家というイメージで見ていたのかも知れません。トスカニーニは曲全体を早めのテンポで通し、第1楽章の甘い第2主題も実にアッサリと流しています。情感たっぷりに歌いあげるのをわざと避けているように聴こえます。しかし、それは無味乾燥というのではなくて、むしろ旋律自体が十分に甘いので・その甘さがほど良く残るという感じです。その一方で激しい情熱的な部分での凄まじさも比類ありません。オケに一糸の乱れもなく厳しささえ感じられます。第3楽章は最大の聴き物になっています。第4楽章も普通の指揮者が振るような哀しみのなかに沈滞していくような音楽ではなく、むしろ再生か希望が期待されているかのように力強いのです。実にトスカニーニらしいと言えますが、この厳しい造形の「悲愴」は、この曲の別の一面を見るようで強い説得力を感じます。


○1947年11月29日ライヴ

コダーイ:組曲「ハーリ・ヤノシュ」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

民族色豊かな曲ですが、前半のやや前衛的な響きの曲ではトスカニーニご苦労さんと言うところです。後半の「戦争とナポレオンの敗北」ではNBC響の弦の重厚な響きで聴かせます。


○1947年12月6日、13日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「オテロ」

ラモン・ヴィナイ(オテロ)、ハーヴァ・ネルリ(デズデモーナ)、
ジュゼッペ・バルレンゴ(イヤーゴ)、ナン・メリマン(エミーリア)、
ヴィルジニオ・アッサンドリ(カッシオ)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

これはトスカニーニが遺したオペラ録音のなかで特筆すべきものだと思います。「椿姫」や「アイーダ」ではその素晴らしさに感嘆しつつも、ちょっとオケ主導の気配が強いように感じますが、この「オテロ」ではぴったりはまる感じです。それはこのオペラでは、オケの雄弁さが作品の鍵だということを示しているように思われます。とにかく劇的表現力と緊張感の持続が素晴らしく、一音も聞き逃せない気がします。リズムの打ちも硬いところがなく、オケのダイナミックな表現力としなやかさには感嘆させられます。歌手陣もそれに相応しい名演です。ヴィナイのオテロとバルレンゴのイヤーゴは声の対比が決まっていて、その対立構図が音楽的にもぴったり決まっています。第2幕第3場のオテロとイヤーゴの対決は火花が散るようです。メリマンのデズデモーナも清楚で美しい歌唱です。四つの幕がまるで交響曲のように緊密に組み合わさって、それぞれの局面が際立っています。第4幕のオテロの死も厳粛で深い感動が味わえます。


○1947年12月16日ライヴ

ベートーヴェン:「献堂式」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

テンポが早く・キリッと引き締まった造形がベートーヴェンらしくて見事な出来です。前半の荘厳な雰囲気から・後半の勇壮な盛り上げまで、密度が高くて・トスカニーニらしい力強さがあります。NBC響の弦の引き締まった響き・金管の華やかさが印象に残ります。


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