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トスカニーニの録音(1945年)


○1945年5月18日ライヴ

ガ―シュイン:パリのアメリカ人

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

トスカニー二はスコアに真正面から取り組んでいるようで、実に音楽的な演奏に仕上がっています。早めのテンポで、ソロの表情も生き生きしており、曲のスタイルをしっかりつかんでおり、ジャズのフィーリングなんてことを云わなければ、なかなか楽しめる演奏です。トスカニーニにとっては珍しいレパートリーですが、老巨匠頑張っているなあと感心させられます。


○1945年5月25日ライヴ−1

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

早めのテンポで密度の高い演奏です。造型が明確なので・いわゆるドイツ的なロマンティックな演奏とは趣が異なりますが、各場面をしっかり描き分けています。暗い森の雰囲気を感じさせる前半から・後半の爆発的なクライマックスまで一気に聴かせます。 その力強い音楽が明るい太陽の下にすべてを照らし出しているようにも感じらて、聴き終わって、ある種の清々しささえ覚えます。


○1945年5月25日ライヴー2

ハイドン:交響曲第98番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

トスカニーニとハイドンの相性の良さをつくづく感じさせます。テンポはあまり速く取っていませんが、リズムがしっかりと打たれているので・音楽に余裕が感じられます。大編成のオケですが・音楽が軽やかで・重々しさをまったく感じさせません。それでいて響きに暖かみがあって旋律がしっかりと歌われて、古典的な構成感のなかにもロマンティックな味わいが漂います。第2楽章アダージョや第3楽章メヌエットはその好例です。ゆったりとした音楽の楽しみが味わえる演奏です。


○1945年6月1日ライヴ

ベートーヴェン:コリオラン序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ドラマティックな名演です。ドイツ人指揮者が振る倍くらいの速いテンポで一気に推し進める演奏は緊張感があって、この曲の持つ悲劇性を凝縮したようで恐ろしいほどの説得力があります。普通はゆっくりと慰めるように演奏される第2主題も速いのですが、そのメロディーの底でうごめくような低弦の動きが逆に悲劇性をさらに高めるかのように聴き手に迫ってきます。


○1945年6月8日ライヴ

ロッシーニ:歌劇「シンデレラ」序曲、歌劇「泥棒かささぎ」序曲、歌劇「ウィリアム・テル〜6人の踊り、歌劇「ブルスキーノ氏」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

序曲3曲は、トスカニー二お得意のレパートリーだけに、早めのテンポで、リズムが斬れて、表情は生き生きしており、音符が飛び跳ねるようで、まったく感嘆するしかない見事な出来です。オペラティックな感興も十分です。「ウィリアムテル」からの六人の踊りは、ゆったりしたテンポで伸びやかに旋律を歌います。


○1945年6月14日ライヴ

ロッシーニ:歌劇「コリントの包囲」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ロッシーニの悲劇に題材を採ったオペラ・セリアの序曲ですが、ドラマチックでスケールの大きい演奏です。まるでベートーヴェンの序曲を聴いているかのようです。特に低弦を強調して・リズムを鋭く斬ったオケの激しい動きは、聴き手を興奮させるに十分です。


○1945年6月22日ライヴ

モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニーニらしく、この曲の持つ古典的構成をしっかりと守って崩すころなく・淡々と演奏しているという感じです。こじんまりとしたという印象があるくらいに純音楽的な密度の高い表現に徹しているのです。両端楽章などはさすがにもう少しスケールが大きくてもいいのじゃないかという感じがなくもないですが、第2楽章は速いテンポのなかにスッキリとした味わいがあって優れた表現です。


○1945年6月28日ライヴ

ロッシーニ:歌劇「セビリアの理髪師」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニーニのロッシーニ演奏が悪いかろうはずはなく、活き活きとした表現が楽しめる演奏ではありますが、オーケストラ編成が大きめなのか・予想したよりも柄が大きくてちょっと腰の重い感じがするのが気になるところです。特に序奏部分が重い感じです。ただし、曲が進むにつれてリズムは乗ってきて活気が増してきます。トスカニーニのキビキビとしたリズムが、ロッシーニでは特に生きてきます。


○1945年6月28日ライヴ−2

ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

冒頭の輝かしい金管の咆哮から・展開部に入って快速テンポで飛ばしていきます。聴き手をぐっと引きつける緊張感と、鮮血が飛び散るような斬れの良いリズムが素晴らしいと思います。 NBC響の弦が力強く、直線的な造型のなかにも強靭なカンタービレ・歌心がヴェルディの音楽の本質を教えてくれます。ドラマチックで、オペラ的感興に溢れた名演だと思います。


○1945年6月28日ライヴー3

ワルトトイフェル:ワルツ「スケートをする人々」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

NBC響の弦の動きが軽やかで、みずみずしく、さわやかな印象を残す佳品です。ワルツのリズムの軽やかさん、その純音楽的な表現、老巨匠がこのような小品に対しても、大上段に振りかぶることもなく、曲もあるべき姿を虚心に描き出していることに改めて感心させられます。


○1945年8月9日ライヴ

べートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番

アニア・ドルフマン(ピアノ独奏)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

冒頭から、いかにもトスカニーニらしい線の太い演奏になっています。トスカニーニの早いテンポで、リズムを明確にとって、意志的に音楽を進めていきます。トスカニーニ主導の感じはしますが 、ドルフマンのピアノもトスカニーニの方向に沿って、打鍵が力強く、リズム明確な音楽作りです。第1楽章はトスカニーニの伴奏とよくかみあった演奏で・なかなか聴き応えがします。第3楽章はトスカニーニも少々勢いが付き過ぎた感じで、世話しないといほどでもないが 、やや急ぎ足に聞こえます。


○1945年9月11日ライヴ

グローフェ:組曲「グランド・キャニオン」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

録音のせいか、NBC響の響きが渋めに聴こえますが、演奏は素晴らしいと思います。第1曲「日の出」が徳に素晴らしく、朝日が立ち上るグランド・キャニオンの刻々と変化する光景を見事に描き出しています。第3曲「山道を行く」は木管のとぼけた味わいが面白く、第4曲「日没」も夕日に映える大峡谷が目に浮かぶようで、どこか懐かしささえ感じさせます。老巨匠には珍しいレパートリーですが、どんな曲でも真正面に取り組んで、曲のスタイルを的確にとらえて来ることには敬服します。


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