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トスカニーニの録音(1942年)


○1942年1月24日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

冒頭から緊張感あふれた演奏です。展開部に入ると快速テンポで・リズムの斬れで鮮血が迸るが如くです。直線的ななかにも・強靭がなカンタービレが素晴らしく・聴けば聴くほどにヴェルディの音楽の本質に迫った演奏だと感じ入ります。


○1942年1月24日ライヴー2

ヴェルディ:歌劇「十字軍のロンバルディア人」第3幕〜序奏と三重唱「ここに体を休めよ」

ジゼルダ:ヴィヴィアン・デルラ・キエーザ(ソプラノ)
オロンテ:ジャン・ピアース(テノール)
行者:二コラ・モスコーナ(バス)
ミッシャ・ミシャコフ(ヴァイオリン)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

まずミシャコフのヴァイオリンソロを主体にした序奏が聴き物です。直線的な歌い方はトスカニーニのものですが、初期のヴェルディのスタイルには・この簡潔さがよく似合います。三重唱ではピアースの明るい声はちょっと脳天気でデリカシーに欠ける感じもしますが 、トスカニーニに気に入られた理由が何となく分る気がします。


○1942年2月22日ライヴ

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」第1幕第3場

ラウリッツ・メルヒオール(ジークムント)、ヘレン・トロウベル(ジークリンデ)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、演奏会形式)

ヴェルディは文句付けようはないが、トスカニーニのワーグナーは感嘆しつつも、聴き手によって好悪がはっきり分かれるところかなと思います。テンポが早すぎるようです。歌手がよく息切れせず付いていくもんだと感心する方が先に立つ場面がいくつもあります。舞台上演ならば、このテンポはちょっと無理でしょう。メルヒオールもトロウベルも、メットのワーグナーのスター歌手ですから、さすがだと思いますが、、もっとテンポをゆったり取れば、その朗々とした歌唱をたっぷり味わえるのに、あまりにテンポが早くて、ドラマがアッと言う間に終わる亜kん時です。やはり問題はトスカニーニのテンポ設定にあるでしょう。濃厚でうねるような情念のワーグナーはトスカニーニにはもちろん期待はしませんが、旋律線が明確ななかにも透明な抒情性を期待したいところですが、意識的に官能性を拒否したような印象さえ受けます。


○1942年3月19日ライヴ−1

トーマ:歌劇「ミニヨン」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

さすがにオペラ指揮者トスカニーニと言いたくなる素晴らしい演奏です。有名なミニヨンのアリア「君よ知るや南の国」の遠い地への憧れを歌う旋律のふくよかな歌いまわし、フィリーヌのポロネーズの活気のあるリズムなど繰り出される旋律がすべて生きていて、オペラの舞台が開くのが待ち遠しくなるような演奏です。


○1942年3月19日ライヴー2

バーバー:弦楽のためのアダージョ

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニー二が本曲を初演したのは、1938年11月5日のことでした。古典的手法で哀切な情感を静かに表現した作品ですが、トスカニーニは抒情的な旋律に余計な甘さを加えず演奏しています。NBC響の硬質な弦の直線的な歌い回しが、却って厳粛な印象を与えます。古典的格調の高い演奏であると思います。


○1942年7月19日ライヴ

ショスタコービッチ:交響曲第7番「レニングラード」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、スタジオ8H)

ストコフスキーとの初演争いが有名ですが、これが放送によるアメリカ初演になります。老巨匠よく頑張ったという感じがします。複雑なスコアをよく研究して、手堅くまとめており、古典的とも云える構成感を感じさせるところに、トスカニーニの読み込みの深さが良く出ています。今聴いても古さをまったく感じさせないどころか、曲のイメージを正確に提示して余すところがありません。テンポを速めに取って、簡潔な歌い回し、純音楽的に曲に対峙したことが成功の要因です。態度が実に真摯なのです。NBC響の出来は素晴らしく、第1楽章のボレロでも一糸の乱れも見せません。特に第3楽章の出来が素晴らしいと思います。NBC響の弦のシンプルな祈りの表情は、緊張感の持続した凝縮された表現で、心に突き刺さるようです。第4楽章のフィナーレに至る足取りもしっかりして、最後は圧倒的な感銘を与えます。


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