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トスカニーニの録音(1940年)


○1940年3月11日ライヴ

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

ヤシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン独奏)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

ハイフェッツのヴァイオリンの音は硬質で・やや金属音なのがちょっと難ですが、鋼のような力強さがあって、低音から高音まで音が均質で音符が粒立っているのが素晴らしいと思います。残響の少ないスタジオ8Hでの録音がその印象を強くしていることもありますが、リズムを明確にとり・直線的に無駄なところを削ぎ落としたような厳しい造形です。とりわけ第1楽章は両者の個性がぶつかり合って・スケールの大きい演奏になりました。人によってはやや潤いのない・即物的な演奏と評する向きもあるかも知れません。確かに重厚な・ドイツ的な演奏ではありませんが、トスカニーニらしく・視点が明確で純な音楽だと思います。ただ第3楽章はやや表情が硬くて、ハイフェッツのソロにもう少し遊びの要素も欲しい感じがします。


○1940年5月9日ライヴ

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ独奏)
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ピアノ付き交響曲の印象が強い曲ですが、ソリストがさすがにホロヴィッツのせいか、ソリストの個性が際立っています。オケの大音量に負けないホロヴィッツの打鍵の強さには、驚かされます。特に前半2楽章はホロヴィッツとトスカニーニの火花が散る駆け引きがスリリングで、手に汗を握らせます。線が太くメランコリックなドイツ風のブラームスとはまったく異な る、シャープで明解なブラームスなのです。旋律の歌い回しの力強さ、リズムの力強さは 意思的なものを感じさせ、聴き手をぐいぐい引っ張って行きます。スケールが大きいと云うよりも、その密度の高さが素晴らしく、抜けるように明晰な印象があります。前半の2楽章があまりに素晴らしいので、第3楽章に若干重い感じがあるのが惜しい気がしますが、第4楽章は一転して軽めのタッチに仕上げた感じです。


○1940年12月7日ライヴ-1

シベリウス:交響詩「ポヒョラの娘」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

前半の・暗く雲が立ち込めるような北欧の空気を感じさせる冒頭から曲が盛り上がっていく過程の表現がじつに素晴らしいと思います。ここから後半のテンポを早めにとった表現はストレートに聴き手に迫ってくる力強さがあります。NBC響の響きも暗めで・時代への不安を秘めたような弦の不気味な動きが見事で、シベリウスの音楽にふさわしい感じです。


○1940年12月7日ライヴー2

シベリウス:交響曲第2番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

テンポ早めに一気に聴かせて、まるで交響詩でも聴くような密度を感じさせます。全体に暗さ、重苦しさ、不安感が漂っています。NBC響の響きがモノクロ的に渋く、特に第一楽章冒頭から重低音が聴き手に覆いかぶさってくる重圧感を感じさせます。とても深刻で、思い詰めた切迫感があります。この重圧感は、第2・第3楽章と進むにつれて高まって行き、第4楽章に至っても消えず、晴れ渡る勝利の凱歌に至らず、最後まで聴き手に重く突き付けられた問題提起にも思えます。


○1940年12月21日ライヴ

グリンカ:幻想曲「カマリンスカヤ」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、ラジオ・シティ・スタジオ8H)

あまり聴く機会のない小曲ですが、ロシア民謡を素材にした曲です。大戦中のトスカニーニは連合国側のロシア音楽を積極的に取り上げましたが、この演奏もそのひとつ。トスカニーニらしくスッキリした純音楽的表現と言えましょう。テンポ早めで旋律をサラリと歌わせて粘ることがありません。中間部の舞踊風リズムの斬れの良さが印象的です。


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