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トスカニーニの録音(1936年)


○1936年2月2日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第4番

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

音が濁って少々聞きづらい録音です。当時のニューヨーク・フィルの音はヨーロッパ風に重厚で、トスカニーニ/NBC響の硬質な響きを聞き慣れた耳にはこの演奏はずいぶんと伝統的かつ温厚な表現に聞こえます。第1楽章序奏のリズムがやや重いのは気になりますが、展開部のノリはトスカニーニらしくて聞かせます。第2楽章はテンポを速めにとった・あっさりした表現ながら歌心ある演奏です。後半の第3・4楽章は中庸のテンポでオーソドックスな印象です。しかし、録音のせいもあ りますが、低音が強いので表現はかなり重めで、後年のNBC響のようにリズムの推進力を全面に押し出す感じにはなっていません。これは後のNBC響との演奏の方がトスカニーニの表現として完成されたものに思えます。


○1936年2月6日

ワーグナー:ジークフリート牧歌

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニーニのテンポを速めに取り・造形をスッキリ取る行き方を、ニューヨーク・フィルの弦がドイツ風の重厚な響きで・余裕を以って受け止めて・旋律を柔らかく歌い上げている。表現に硬い感じ がまったくなく、淡々としたなかにロマンティックな味わいが濃厚に漂います。ワーグナーの暖かい眼差しが感じられるようです。


○1936年2月8日

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」〜夜明けとジークフリートのラインへの旅

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ニューヨーク・フィルの響きは重厚で、旋律線を明確に浮かび上がらせた近代的なスッキリした造形のワーグナーです。「夜明け」でのスッキリとした木管の叙情的な旋律美・弦の伸びやかな響き、「ラインの旅」での金管の荒々しさなど、 ダイナミックで充実した表現です。硬い感じはまったくなく、オーソドックスなワーグナーであると感じられます。


○1936年2月23日ライヴ

バッハ/ウッド編曲:トッカータとフーガ 

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

録音状態があまり良くないので、全奏で音が濁ってダンゴ状態ですが、オルガンの響きをオケ用に編曲したものをニューヨーク・フィルがやると、重低音が塊りになって聴き手にぶつかってくるようで、当然ながらオケ編曲の場合はその軽やかさよりも重量感が際立って来て、圧倒的とも云えるバロック感覚があります。


○1936年4月9日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第7番

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

録音は良くありませんが、聴き終わってまず「完璧」という言葉が思い浮かぶような名演です。テンポの設定・そのフォルムの構成において、理想的な第7交響曲の姿を実現しています。トスカニーニの解釈はまったく古さを感じさせません。ニューヨーク・フィルの水準の高さにも驚嘆させられます。どの楽章も素晴らしいと思いますが、特に第1楽章のリズムの刻みの鋭さと力強さには驚嘆させられます。これに対する第2楽章はあっさりした表現に見えますが、それもこの第1楽章あってのことです。そして第4楽章はかなり早いテンポを取っているのに・まるで激することなく冷静にオケを統率して一糸の乱れさえ見せません。まさにアポロン的表現とも言うべきで、聴き終わって感嘆するしかない演奏 です。


○1936年4月10日−1

ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」序曲

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ニューヨーク・フィルの重厚な音楽がロッシーニをやや重い感じにしており、一般的なロッシー二の軽い感じとは若干異なりますが、オペラ・セリアの正調史劇であるこの曲の性格からすると、むしろこちらの方が正解かも知れません。後半の速いテンポの整然としたオケの動きのなかに・キリッとした表情が印象的で、この演奏はオペラティックというのとは違って、・交響曲を聴いているような気分になります。ロッシーニとしては後年のNBC響との演奏の方が軽みと冴えで勝ると思いますが、後半の音楽のノリは舌を巻くほどで・速いテンポで聴き手をぐいぐいと引っ張って・当時のニューヨーク・フィルの水準の高さを思わせます。


○1936年4月10日ー2

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ニューヨーク・フィルの響きがドイツ的な重厚な響きで・トスカニーニのメリハリつけた鋭角的な棒さばきを柔軟に受け止めているので、後年NBC響との演奏のように直線的でリズムが前面に出る感じはなく、むしろオーソドックスな印象が強いようです。テンポが遅い変奏ではゆったりと旋律を歌い上げ、テンポの速い変奏では一転して畳み掛けるように聴き手を追い込んでいく・その対照の妙。変奏曲の面白さを味合わせてくれる密度の高い演奏です。


○1936年8月ライヴ

ヴェルディ:歌劇「ファルスタッフ」

マリアーノ・スタービレ(ファルスタッフ)、ポエロ・ビアシーニ(フォード)、ディーノ・ボルジオーリ(フェントン)、フランカ・ソミジーリ(フォード夫人)、アウスグタ・オルトラベラ(ナンネッタ)、ミタ・ヴァサーリ(ページ夫人)、アンジェリカ・クラヴセンコ(クイックリー夫人)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭劇場)

録音状態は決して良くはないですが、トスカニーニのオペラの舞台上演ライヴが聴けるのは、非常に貴重です。まず感心するのは、ウィーン・フィルの順応性で、トスカニーニのヴェルディのスタイルを見事に体現しており、後年(1950年)のNBC響との録音と比らべても、リズムの打ちの確かさ、斬れの良さ、カンタービレの強靭さ、互角に思える素晴らしい演奏を聴かせることです。トスカニー二も練習もさぞや厳しかっただろうということが想像できます。歌手陣も、時代の古さをあまり感じさせない、すっきりした歌唱を聴かせてくれます。


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