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ショルティの録音(1994年)


○1994年3月8日ライヴー1

ショスタコービッチ:交響曲第9番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、フィルハーモニー・ホール)

曲に余計なものを付け加えず・省かず、実に几帳面にリズムをとって機能主義に徹したような演奏です。ショスタコービッチが曲のなかに盛り込んだ様々な要素を等質に表現することで、まるで写し絵のような面白さが感じられます。ベルリン・フィルは素晴らしく、両端楽章にその機能性が十二分に発揮されています。特に弦に独特の強靭さがあって・それが曲の躍動感を高めています。


○1994年3月8日ライヴ−2

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、フィルハーモニー・ホール)

ショルティがベルリン・フィルを指揮して、その機能性を最大に生かしきったという演奏です。特に第1楽章にその印象が強いようですが、かなりテンポの変化が激しく・ダイナミクスの変化が大きい演奏です。旋律線が明確でメリハリがはっきりしていることなど、客演でもショルティの個性がはっきり出ています。甘い第2主題を遅めのテンポでたっぷりと歌わせていますが甘さは抑えた感じです。逆に激しい部分においてはトスカニーニを思わせる厳しさがあります。しかし、フォルティッシモの迫力はやや威圧的で無機質的に聴こえなくもありません。オケの機能性の見せ場でもある台楽章は斬れのよいリズムで圧倒的な迫力です。第4楽章は暗さや絶望に沈滞していくのではなく、冷静に曲を進めており・そこに醒めた目を感じさせます。全体を通してみると極彩色のオーケストラ絵巻を聴いたという充実感は確かになりますが、ちょっと余韻には乏しいと言えるかも知れません。


○1994年8月7日ライヴー1

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)

ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ロンドン響の音は個性があるとは言いにくいですが、指揮者の個性を正直に反映できる優秀なオケだと思います。ここでもショルティの正確無比で・剛直な音楽作りをそのまま見事に音にしていると思います。シカゴ響を振れば・もう少し重めでスケールが大きい演奏になったかも知れませんが、ここのでやや軽めで淡い色彩で・立ち上がりの鋭い斬れの良い演奏は曲にぴったりしていると思います。いつもながらショルティのスコアを明晰に見渡す力には感嘆させられます。冒頭からテンポを速めに取り・リズムの斬れは抜群で、そのリズムの正確さがまさにストラヴィンスキーです。しかも硬い印象はまったくなくて、旋律は無限の自由さで歌われています。この曲の演奏のなかでも強烈に記憶に残るものだと思います。


○1994年8月7日ライヴー2

チャイコフスキー:交響曲第5番

ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ショルテイはチャイコフスキーにロマンティシズムとかメランコリーとか言ったものを見ていないようで、乾いた感触の・力強いチャイコフスキーです。その点ではトスカニーニと似たようなことが言えます。チャイコフスキーのある一面をバッサリ切り落とし、別の断面をえぐり出したとも言える・ショルテイの徹底した態度は、まあ一般受けはしにくいと思いますが、実に個性的で独特だと思います。リズムの刻みが明確で・歯切れ良く、旋律を思い入れを込めることなく・直線的に切り込んでいくので、やたらテンポが早めに聴こえますが、演奏時間を見れば45分くらいで・普通なのです。聴きものはやはり両端楽章ということになるでしょう。余韻とか余情といものに不満はありますが、それはショルティがもともと関心を持っていないものなので言っても仕方ないことで、逆に聴き手に対して意志を突きつけるような感じです。ロンドン響は熱演ですが、ストラヴィンスキーではぴったり来る響きがここでは若干裏目のようで・ショルティの硬い印象がより強く出ているようです。全曲通してテンポ早めのストレートな音楽作りですが、中間楽章がバランス的に若干軽めに感じられます。


○1994年12月14日ライヴー1

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルへボウ楽堂)

録音のせいか、管が引っ込んで聴こえます。コンセルトへボウは音の立ち上がりが遅い感じで、ショルティと相性は必ずしも良くない印象を受けます。だからショルティの持ち味の切れ味鋭い印象よりは、音が塊になってぶつかってくる感じで、いつものショルティよりドイツ的な印象が強くなります。その分、オーソドックスな演奏に仕上がっていると思います。


○1994年12月14日ライヴー2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

エフゲニ―・キーシン(ピアノ独奏)
ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルへボウ楽堂)

キーシンはこの時25歳。成長して打鍵の強さとテクニックはなかなかのものですが、音はもう少し粒立ちを良くしてもらいたい気がします。表現がやや勢いに任せたような粗いところがあるようで、まだ成長過程だなと思わせます。第1楽章などは音量的にはショルティとがっぶり四つに組んだ感じでなかなか聞かせますが、微妙なところでショルティの作る音楽とのずれを感じます。もう少し小振りであっても、こまやかで引き締まった表現の方が、ショルティには合うような気がします。第2楽章はもう少し繊細さが欲しい。ショルティの指揮はテンポを速めに取って、これはもう模範的と思えるものです。ここではコンセルトへボウの音が塊になって聴き手にぶつかってくるような響きの力がプラスに出ています。音の立ち上がりの鋭さにショルティらしさが乏しいのは仕方がないところですが、ベートーヴェンらしい重さと渋みを感じます。第3楽章もスケール大きい演奏で聴かせます。


○1994年12月14日ライヴー3

バルトーク:弦楽器・打楽器とチェレスタのための音楽

ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルへボウ楽堂)

特に前半の2楽章が聴き物です。コンセルトへボウはショルティの体質に必ずしも合ったオケとはおもえませんが、第1楽章の不協和音のなかに暗く淀んだ不安が濃厚に立ち込めるところは、このオケとの組み合わせの興味深いところかも知れません。第2楽章のリズム処理も面白いと思います。シカゴ響のようなリズムの斬れはないですが、ずんずんと腹に響くような重量感のあるリズムはこのオケならではのものがあると思います。


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