(戻る)

カール・シューリヒトの録音 


○1954年5月20日ライヴ

R.シュトラウス:交響詩「死と変容」

シュトゥットガルト放送交響楽団
(シュトゥットガルト)

テンポを早めに・旋律線をのびやかによく歌いこんだ演奏です。曖昧さがなくて、全体の設計が見通せるような明晰な解釈に現代的感覚が感じられて、後味がスッキリしています。オケの出来は優秀で、独特の軽味のある音色で・木管がよく抜けて・透明度が高い響きです。特に前半のクライマックスの盛り上げは見事です。フィナーレの沈滞していく情感の表現も素晴らしく、余韻が残ります。


○1958年5月

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ウィルマ・リップ(ソプラノ)、マルガ・へフゲン(アルト)、マレイ・ディッキー(テノール)、ゴットロープ・フリック(バス)
エリザベート・ブラッスール合唱団
パリ音楽院管弦楽団
(パリ、仏EMI・スタジオ録音)

フランスのオケを振った演奏だが・独特の軽味と透明感を持つパリ音楽院管の個性が、シューリヒトの個性とぴったり合って見事な演奏に仕上がりました。特に弦は線はちょっと細いですが・芯の強い響きで、木管がかき消されることなく・よく聴こえて、透明感のある響きです。ドイツ風の重いベートーヴェンとはイメージが異なりますが、スタイルがビシッと決まっていて・確信のある演奏なのです。全体にテンポは早めで、近代的なスタイリッシュな感じがします。特に第1楽章は格段に素晴らしいと思います。リズムが斬れて・音楽に強い推進力があり、その線の明確な音楽作りが強烈な印象を与えます。冒頭の弦のトレモロからして曖昧なところがなく、すべてに明るい光が当てられたように明晰なのです。第2・3楽章はちょっとオケの響きの軽さが邪魔したようなところもありますが、爽やかで軽味のある演奏は独特の魅力があります。しっかし、第4楽章はシューリヒトのアプローチであるとちょっと醒めた感じがしてしまいます。第4楽章にはもう少し熱い情感のうねりが必要なようです。第4楽章は第3楽章までの音楽とは次元が違うということを改めて感じさせます。


○1961年11月20〜22日

ブルックナー:交響曲第9番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、EMIスタジオ録音)

原典版を使用しています。ウィーン・フィルの透明な響きと、シューリヒトの持ち味の明晰さがよくマッチして、素晴らしい演奏に仕上がりました。特に第1楽章が良い出来です。重厚なブルックナーではなく、響きが透明で・淡い色彩感覚のブルックナーです。ウィーン・フィルの柔らかな弦を生かして、叙情的な・揺れ動くはかない美しさが現出します。木管のニュアンス豊かな美しさも心を打ちます。第2楽章スケルツォはリズム処理が見事で、金管の咆哮は荒々しいほど。第3楽章アダージョも叙情的な美しさが素晴らしいと思います。


○1963年12月9〜12日

ブルックナー:交響曲第8番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、EMIスタジオ録音)

全体にハース版を基本にしていますが、数箇所ノヴァーク版を参考にしているところがあるそうです。テンポはかなり早めで・響きも透明で、ドイツ風の重厚なブルックナーとはちょっと異なる感じがします。音楽にリズムの推進力があって、全体が見渡せるような明晰さに溢れています。ウィーン・フィルから明るく透明な響きを引き出して、朝日に輝くアルプスの水彩画を見る思いがします。特に高弦の輝きと力強さが素晴らしく、旋律線はちょっと細いですが・輪郭がスッキリと浮き上がってくる感じがします。第1楽章や第2楽章でのウィーン・フィルの金管は荒々しい感じがするほどよくなっています。気力が充実しており、早いテンポでたたみ掛けるような第2楽章スケルツォや第4楽章に緊張感が漂っています。


○1965年12月2〜6日

ブルックナー:交響曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、EMIスタジオ録音)

改訂版を使用しています。シューリヒトの持ち味である響きの明晰さ・明晰さがよく出ています。テンポは早めで、全体に色彩が淡い感じで・水彩画を見るような・さわやかで清々しい印象を受けます。しかし、前半の第1・2楽章はテンポが早いせいか・リズムの打ち込みがやや浅い感じで、音楽がサラサラ流れるようで・どうも音楽が心に引っ掛かってこない感じがします。EMIの三曲のブルックナー交響曲の録音のなかでは、この録音はシューリヒトの最晩年のせいか若干オーケストラの掌握が弱い感じがします。ここでは第3楽章スケルツォが良い出来です。リズムも斬れておいり、木管の微妙なニュアンスが耳をそば立たせます。


 

(戻る)