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サヴァリシュの録音 (1990年〜   )


○1995年10月9日

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

フィラデルフィア管弦楽団
(ニュージャージー、コリングスウッド・ジャンドメニコ・スタジオ、EMI・スタジオ録音)

サヴァリッシュが音楽監督に就任してフィラデルフィア管の響きは、色彩感ある艶のある響きはそのままにして・ドイツ風の低重心の響きに少しづつ変化していきているようです。それがこの曲ではいい味を出しています。テンポを遅めに旋律をゆったりと大きく歌って、ちょっと粘り気のある巨匠的表現になっています。ルバートをかけて思い入れをしたりして表現の振幅が思いの外大きいのです。「英雄の伴侶」では甘くウェットな表現、「英雄の戦い」ではオケの合奏力が生かされています。ヴァイオリン・ソロは艶やかで旋律をたっぷりと歌わせて聴き応えがあります。


〇1996年5月16日ライヴー1

ベートーヴェン:エグモント序曲

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

1996年来日公演のベートーヴェン・サイクルの最初のプログラムです。冒頭はまだオケのエンジンが温まっていない感じがありますが、演奏が進むにつれて良くなっていきます。フィラデルフィア管は響きが重すぎず軽すぎず、明るい響きに、サヴァリッシュの実直な個性がプラスされて、締りの良い、フレッシュな印象の演奏に仕上がっています。


〇1996年5月16日ライヴー2

ベートーヴェン:エグモント序曲

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

フィラデルフィア管の響きは明るく引き締まっていて、いわゆるドイツ的なベートーヴェン・サウンドとはひと味違うところを見せています。サヴァリッシュの指揮は落ち着いたテンポで、虚仮脅しなところがまったくなく、中庸を保った正攻法の表現です。オケの色彩感を上手くコントロールして、フレッシュな感覚でそつなく纏めていて、好感が持てる演奏に仕上がっています。


〇1996年5月16日ライヴー3

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

イェヒム・ブロンフマン(ピアノ独奏)
フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

ブロンフマンのピアノはテクニック十分で、重量感のある低音と、骨太い音楽の造りで、特に第1楽章がスケール大きい演奏になりました。しかし、第2楽章はやや表現が大柄な面が出て、この楽章の繊細な面が生かされていない感じがします。サヴァリッシュのサポートは落ち着いたテンポで、中庸を保った表現だと思いますが、やや生真面目でおとなしい感じに聴こえなくもありません。


〇1996年5月16日ライヴー4

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番〜第2楽章

イェヒム・ブロンフマン(ピアノ独奏)
フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

当日のアンコール曲目。ブロンフマンがリズム感のあるソロを聞かせて、面白く感じられます。


○1996年5月17日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第2番

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

第2番は演奏者の個性と曲との相性がマッチして・なかなかの好演です。フィラデルフィア管の優美で滑らかな旋律の歌いまわしが、この曲にしっとりとした味わいを与えています。それに・このちょっと小振りの交響曲を大編成でやっても・大きな身体を持て余すことなく演奏できるという良いお手本にも思えます。曲に適度なスケール感と・程よいロマン性が与えられています。特に第1楽章はオケの躍動感が溢れて・良い出来になりました。


○1996年5月17日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

同日の第2番と同じ行き方なのですが・この第3番は温和な表現が物足りなく感じられます。リズムの斬り込みを前面に出さないせいか・表情がのっぺりとしてお上品な感じがします。全体としてテンポは中庸だと思いますが、第2楽章はちっと遅めのように感じられます。それだけこの楽章を重く見たと思いますが、全体の平面的な流れのなかで持ちきれていないような印象を受けます。第4楽章もおとなしい表現で・もう少し表情をキリッと締めてもらいたい気がします。


○1996年5月21日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第4番

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

フィラデルフィア管の響きは色彩豊かで、特に弦が滑らかで・心地良く感じられます。そのなかでザヴァリッシュは温厚で典雅なベートーヴェンを展開しています。オーソドックスで安定した味わいがあり、描いている内容に不足はありません。しかし、安全運転的で・仕出かすところがないので・面白味(スリル)に乏しい感じです。リズムの斬り込みを前面に出さないので・劇的感興に乏しく力感に乏しいので、のっぺりと平面的で・お上品な印象を受けます。これは今回のベートーヴェン・チクルス全体に共通した印象ですが、その点ではこの第4番はこの交響曲の優雅な一面にマッチしていると言えます。テンポは中庸で・流れるように美しく感じられます。


○1996年5月21日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

同日の第4番と比べて・この第5番は不満が残ります。この交響曲は建築物のようにがっしりした構成感が要求されるからです。それでも第1楽章はテンポを速めに取ってリズムを前面に出して・第4番との対照を試みているようですが、やはりのっぺりした平面的な印象は否めません。このコンビはロマン派の作品の方が相性として良さそうな気がします。


○1996年5月23日ライヴー1

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン独奏)
フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

来日公演のベートーヴェン・チクルスのなかでこの日のプロが最も出来が良いと思います。まずサヴァリッシュの指揮はテンポをやや早めに・明確にとって表情がキリリと引き締まっています。第5番辺りでもこういう感じで指揮して欲しかったと思うほどです。フィラデルフィア管の音色は明るくて・ドイツ風の重厚な印象はないですが、表情に生気があって・音楽に推進力があります。特に第1楽章はスケールが大きい演奏に仕上がりました。ツィンマーマンのヴァイオリンはやや細身で・もう少し低音のふくよかさを求めたい気もしますが、そのかわり旋律をシャープに引き締まった造形で聴かせて、なかなかの好演です。両者の個性がぴっったりと噛み合って・良い演奏になりました。


○1996年5月23日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

同日のヴァイオリン協奏曲も良かったですが、「田園」も素晴らしい出来です。サヴァリッシュの真面目で・誠実な人柄が良く出ていると感じると同時に、この曲では余計な小細工は不要だということもよく分かります。フィラデルフィア管の明るい響きも好ましく、明るい日差しのなかの田園風景を描き出した感じです。しかもどこか安らぎを感じさせるのは、旋律がゆったりと歌心を以って・奏されているからです。特に前半2楽章が素晴らしい出来です。早めのテンポのなかにも・細やかな表情が生かされています。第2楽章の流れるような旋律も美しく魅力的です。第4楽章ではフィラデルフィア管の合奏力が生き、第5楽章の豊かな自然賛歌に流れ込んでいきます。どこかワルター/コロンビア響の名演を想わせる気がします。


○1996年5月24日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第7番

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

今回のサヴァリッシュ/フィラデルフィア管のベートーヴェン・チクルスはリズムを前面に出さず・滑らかで平面的な作りをコンセプトとしているようですが、この第7番ではこれが完全に不利に働いていると感じます。確かに両端楽章はリズムを丁重に刻んでいる感じはありますが、全体に重くて・いただけません。リズムの刻みが重いので・音楽は前に進んでいかない感じです。その反面、第2楽章ではその優美な流れがそれなりに魅力的ではあります。


○1996年5月24日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第8番

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

この第8番はなかなか良い出来です。サヴァリッシュは偶数番が良いようです。サヴァリッシュのはったりのない個性がマッチするのかも知れません。第1楽章冒頭から活気のある魅力的な表情を見せます。リズムを前面に出すのでもありませんが、この小交響曲にふさわしい・重すぎず・軽すぎず・バランスの取れた構成感を見せます。フィラデルフィア管の優美な響きがここでは実に魅了的です。第4楽章も節度のある表現が魅力的です。


○1996年5月24日ライヴー3

ベートーヴェン:序曲「レオノーレ」第3番

フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

テンポは遅めで・ドラマティックな緩急の設計もなく・あっさりしておとなしい表現です。オペラ指揮者としてのキャリア豊富なサヴァリッシュなのに、オペラティックな感興を呼び起こさないのは物足りないと思います。


○1996年5月25日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ルーヴァ・オルゴナツォーヴァ(S),メアリー・アン・マコーミック(Ms),
ヘルベルト・リッパート(T),ヤン・ヘントリク・ロータリング(B)
二期会合唱団、東京響コーラス
フィラデルフィア管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

やや早めのテンポで・手堅くまとめた印象で、第1楽章冒頭のトレモロなどはやはりドイツ風の神秘的な霧のようなイメージですが、全体的には精神主義的に過度に重くなることもなく・軽くもならず・理知的に整理された印象です。前半の2楽章はフィラデルフィア管の音に力感があり、なかなか聴かせます。オケの音色が明るめなのも良い方に作用しているようです。サヴァリッシュの誠実な音楽性に似合う第3楽章は特に良い出来です。第4楽章はフィナーレでテンポをグイグイ上げるような芝居っ気はないけれども、淡々と渋く締めるところがサヴァリッシュらしいところと言えると思います。


○1999年2月3日ライヴ

リスト:交響詩「前奏曲」

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック)

テンポが遅めで、曲の抒情的な要素に比重を掛けた表現で、ここではフィラデルフィア管の弦の深みのある柔らかい響きが生きていると思います。反面、雰囲気が瞑想的・思索的に傾いて、表現が重くなったところがあり、金管をもっと派手に鳴らして欲しいなあと思うところもあり、劇的設計においてはもう少し工夫が必要かと思います。大人しい演奏という印象になってしまうのは、仕方ないところです。


○2001年5月5日ライヴ

R.シュトラウス:四つの最後の歌

パメラ・コバーン(ソプラノ)
フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック)

コバーンは暖かみのある声質で、言葉の抑揚を大事にした歌唱で、聴き応えがします。サヴァリッシュは、フィラデルフィア管の豊穣な響きをよく生かし、コバーンの歌唱を引き立てて、堅実なサポートです。


○2002年1月3日ライヴ

ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、キンメルセンター・フォー・パフォーミングアーツ・ベリソン・ホール)

夜明けはフィラデルフィア管の弦の柔らかく暖かみがあって、かつ伸びやかな響きが魅力的で、これはフランス的な明晰さとはまた違ったロマンティックな香気が感じられて、素敵です。全員の踊りもリズムの斬れよりは重みを感じさせますが、速いパッセージでも決して足取りを乱さない落ち着きがあるところに、このコンビの良さが出ていると思います。


○2002年6月12日ライヴ

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、キンメルセンター・フォー・パフォーミングアーツ・ベリソン・ホール)

サヴァリッシュの抑制の利いた表現が曲いぴったりマッチした感じで、フィラデルフィア管の豊穣な響きと相まって、とても聴き応えがします。派手なところはないでうsが、気品と格調を感じます。細部の表現が尽くされながら、それが古典的な枠組みにぴったりはまっていく印象で、とても説得力があります。キムのヴァイオリンソロも旋律を心地よく歌って魅力的です。


○2002年9月18日ライヴ

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番、エグモント序曲

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア,キンメル・センター、ヴェリゾン・ホール)

オケの響きがドイツ風に暗めで、しっとりとして美しく感じられます。特に高弦が艶やかです。しかし、レオノーレ序曲第3番では勘所でもっと力強いアクセントが欲しいところです。全体に優美さに流れすぎで、いかにも温厚 、お上品な表現です。前半の抑えた表現は納得できますが、後半はもう少し劇的な高揚を引き出してもらいたいものです。エグモント序曲も同様の傾向で、優美な表現が耳に付きますが、曲が短く・構成が緻密なこともあり・オーソドックスな安定感のある演奏に仕上がっています。


○2002年9月19日ライヴ

ラヴェル:ツィガーヌ

ギル・シャハム(ヴァイオリン独奏)
フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック)

ギル・シャハムのヴァイオリンの鋭く斬り込む表現が素晴らしく、オリエンタルなムードもよく表出できています。サヴァリッシュのサポートは控え目で古典的に抑制が効いた表現に思われますが、シャハムのヴァイオリンとの対照が際立つ形になっており、これはなかなか面白い演奏に仕上がっています。


○2003年1月28日ライヴ

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、キンメルセンター・フォー・パフォーミングアーツ・ベリソン・ホール)

フィラデルフィア管の弦が柔らかく暖かく、またテンポを遅めにとっているせいもありますが、落ち着いた重めの印象で、オペラティックな印象よりも、交響詩的な印象に仕上がっています。しかし、最終場面においてテンポを速めるのは、返って印象を軽くしている気がしますが。


○2004年3月19日ライヴ

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

フィラデルフィア管弦楽団
(フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック)

特に序奏部のテンポが遅く、フィラデルフィア管の弦の暖かく柔らかい弦の響きと相まってロマンティックな情感が横溢しますが、全体としてはオペラティックな感興は少なく、むしろコンサートピースとして割り切った演奏で、重めの表現のように思われます。


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