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ロイヤル・オペラハウス・ライヴ


○2015年1月29日ライヴ

ジョルダーノ:歌劇「アンドレア・シェ二エ」

ヨナス・カウフマン(アンドレア・シェニエ)、ジェリコ・ルチッチ(カルロ・ジェラール)
エヴァ・マリア・ウェストブロック(マッダレーナ)、デニス・レイウヴス(ベルシ)
アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、デイヴィッド・マクヴィカー演出)

カウフマンのタイトル・ロールは、その容姿もさることながら、声の輝き・力強さに詩人のナイーヴさも兼ね備えて、なかなかの好演だと思います が、その端正さのせいかいくぶん冷静な感じがしなくもありません。ルチッチのジェラールが感情の揺れをよく表現してドラマに厚みを加えて、良い出来だと思います。ウェストブレークも手堅い出来で、第四幕のカウフマンとの二重唱は 熱いところを聴かせました。パッパーノの指揮は要所を締めて出際良い出来です。 全体的にインテンポで引き締まっていますが、時にテンポを揺らしてもいいかなという箇所もあり。マクヴィカー演出は奇をてらったところのないオーソドックスな舞台で楽しめました。


〇2017年6月28日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「オテロ」

ヨナス・カウフマン(オテロ)、マリア・アグレスタ(デズデモナ)、マルコ・ヴラトーニャ(イヤーゴ)、フレデリック・アントウン(カッシオ)、カイ・リューテル(エミーリア)
アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、キース・ウォーナー演出)

カウフマン初役のオテロが話題の公演です。ウォーナーの演出は、ヒロイックなオテロではなく、繊細かつ傷付きやすいオテロと云う印象に仕立てているところが、カウフマンのイメージに合わせた演出だと思います。肌も黒く塗ることはしないし、従来のオテロ像からすると優男のオテロがなかなかユニークです。演技的には嫉妬に翻弄されて自分を見失うオテロの弱さをよく描いていますが、カウフマンの歌唱はそれがぴったり来るところと・そうではないところがあります。抒情的な旋律ではカウフマンの柔らかい声質があって、そこは当然素晴らしい。しかし、全体的には柔い・と云うかひ弱い印象が先に立ちます。そのような印象のオテロ像を作る意図ならば、演出的にも歌唱的にもまだ練り上げ不足の感じがある気がします。これは繰り返し演じることで変わって行くだろうと思います。対するヴラトーニャのイヤーゴは、どちらかと云えば従来型の・如何にも腹に一物ある悪役風で、演技は悪くないですが、カウフマンのような優男のオテロをいたぶる悪役ならば、イヤーゴももう少し複雑な性格が合って良いのではないか。第2幕のオテロとイヤーゴの二重唱などは、音楽的にもいまひとつ迫って来ない感じがします。アグレスタのデズデモナも大味な感じがあって、声質的に声量はなくてももう少し澄んた声のソプラノの方がカウフマンには合ったのではないか。この点で第1幕でのオテロとの二重唱も噛み合わせがいまひとつ。と云うことで音楽・演出も含めて全体的に、いまひとつ練り上げ不足と云うのが正直なところです。パッパーノの指揮は、テンポをあまり大きく揺らすことはせず簡潔で、要所を締めて出際の良い出来だと思います。


○2018年1月16日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「リゴレット」

マイケル・ファビアーノ(マントヴァ公爵)、ディミトリ・プラタニアス(リゴレット)
ルーシー・クロウ(ジルダ)、アンドレア・マストローニ(スパラフチーレ)
アレクサンダー・ジョエル指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、デイヴィッド・マクヴィカー演出)

マクヴィカーの演出は、上流階級の退廃、狂態を舞台上に視覚化した過激なところが興味深く、ロイヤル・オペラらしいところです。道化として彼らに奉仕するリゴレット(プラタニアス)の異形性は、義手を着けた昆虫のような奇怪な姿で表現しています。これに対するジルダ(クロウ)は、白い衣装で清浄なイメージを表現しています。プラタニアスも クロウも、気合いの入った歌唱で聴かせます。ジルダの死への情動は、十分に描かれています。マントヴァ公爵(ファビアーノ)は上手いのですが、声質が暗めでリリック系なのでイメージ的に若干損なところがあるようです。ジョエルの伴奏は手堅く聴かせます。


○2018年4月4日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「マクベス」

ジェリコ・ルチッチ(マクベス)、アンナ・ネトレプコ(マクベス夫人)
イルデブランド・ダルカンジェロ(バンクォー)、ユシフ・エイヴァゾフ(マクダフ)
アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、フィリダ・ロイド演出)

歌手陣が充実しており、特にネトレプコのマクベス夫人が力強い歌唱で聞かせます。ルチッチは骨太い歌唱も良いです。それとダルカンジェロのバンクォーが演技でも良いところを見せます。パッパーノの指揮は押さえるべきツボを要領よく押さえて、手堅いところを見せます。ロイドの演出はオーソドックスなものですが、魔女の合唱の扱いに冴えを見せます。


○2018年10月28日

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」

スチュアート・スケルトン(ジークムント、エミリー・マギー(ジークリンデ)、ジョン・ランドグレン(ヴォータン)、ニーナ・シュテンメ(ブリュンヒルデ)、アイン・アンガー(フンディンク)、サラ・コノリー(フリッカ)
アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、キース・ウォーナー演出)

全体として歌手陣の声の威力を聴かせる印象がなく、こじんまりとした感じがします。取り立てて大きな不満があるわけではないですが、まあ普通と云ったところか。スケルトンとマギーの兄妹は喉が第1幕では十分でないようで多少不満がありますが、マギーのジークリンデは第2幕以降は調子を取り戻して、感動的なところを聴かせます。ランドグレンのヴォ―タンもこれはウォーナーの演出のせいもあるでしょうが、神の苦悩や葛藤を前面に出した印象で、これはこれとして興味深い。ただしスケール感はやや小振り。シュテンメのブリュンヒルデもそれに沿った印象です。パッパーノの指揮は第2幕半ば辺りから熱さが増してきて、第3幕はなかなかの出来でした。ウォーナー演出はホームドラマ的な繊細さを意識しているようで、奇抜なところがあまりないので安心して見られますが、第1・2幕のゴテゴテと小道具を並べた舞台面と比べると、第3幕は舞台をスッキリさせ過ぎでコンセプトの一貫性が薄いような気がします。


○2019年1月22日ライヴ

チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」

セルゲイ・ポリャコフ(ゲルマン)、ウラディミール・ストヤノフ(エレツキー公爵)、エヴァ=マリア・ウェストブロック(リーザ)、フェリシティ・パーマー(伯爵夫人)
アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、ステファン・ヘアハイム演出)

ヘアハイムの演出は、主人公ゲルマンの恋敵エレツキーに作曲者自身を重ね合わせた奇抜なコンセプトで、作曲者の脳裏でオペラの登場人物がそれぞれ自由に動き出す、登場人物は時には作曲者の意思に素直に従わず勝手な振る舞いをするなど、これまでの本作と全く違う様相を見せて興味深い。幕切れでゲルマンが自害して、人々が去った後に舞台にあるのは作曲者の死体というのも印象的です。狂言回しであるエレツキー役のストヤコフの演技力には感心させられます。手の込んだ刺激的な演出ですが、舞台上の役者の動きに注意が向けられるせいか観客の意識のなかで音楽がやや客観的に遠くに聴こえる感じがしなくもありません。ただしパッパーノの音楽作りはすこぶる精妙で、演出ともども深い読みに裏打ちされた優れたものです。チャイコフスキーの音楽が目まぐるしく様々な様相を展開して、さながらジェットコースターのような波乱万丈のドラマに仕上がっています。ポリャコフもウェストブロックも演出家・指揮者の要求に十分応えたものを聞かせています。


○2019年1月30日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「椿姫」

エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)、チャールズ・カストロノボ(アルフレート)、プラシード・ドミンゴ(ジェルモン)
アントネッロ・マナコルダ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、リチャード・エア演出)

リチャード・エアの演出は25年続いているロイヤル・オペラの名演出のひとつ。観客の期待を裏切らない豪華な舞台で、分かりやすい舞台です。ヤオのヴィオレッタは声の伸びはもうひとつですが、とにかく演技派で、特に後半でなかなか感動的なところを見せます。ベテラン・ドミンゴの活躍は嬉しいところです。歌唱が上手いのはもちろんですが、何となく情 が深い父親風。ドミンゴの声質が明るく・アルフレート役のカストロノボの声が暗めなので、声の対照が効かないのがやや損か。カストロノボの歌唱は力強いが、もう少しナイーヴなところが欲しい。マナコルダの指揮は無難にまとめています。


○2019年4月2日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「運命の力」

アンナ・ネトレプコ(レオノーラ)、ヨナス・カウフマン(ドン・アルヴァーロ)、ルドヴィック・テジエ(ドン・カルロ)
アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、クリストフ・ロイ演出)

荒唐無稽オペラとも云われますが、主役三人が素晴らしいので、聴き応えのする出来栄えになりました。特にカウフマンのアルヴァーロは伸びのある声で情感込めた歌唱で、悲劇的な色調の人物像をよく描き出して観客の同情を誘うところがあります。ネトレプコのレオノーラは声が力強く、線の太い歌唱で聴かせます。パッパーノ指揮の管弦楽は雄弁でヴェルディの音楽の素晴らしさをよく引き出しています。悲劇的な要素を担う主役陣と対照的な喜劇的な要素を合唱陣もなかなか楽しくて、長いオペラですがダレずに聴かせます。クリストフ・ロイの演出も簡潔で上手いと思います。


〇2019年4月30日ライヴ

グノー:歌劇「ファウスト」

マイケル・ファビアーノ(ファウスト)、アーウィン・シュロット(メフィストフェレス)、イリーナ・ルング(マルグリート)、ステファン・デグー(ヴァランティン)

ダン・エッティンガー指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、デイビット・マクヴィカー演出)

シュロットのメフィストフェレスは歌唱は若干軽めな感じもしますが、なかなか芸達者なところを見せます。マクヴィカー演出は時代設定を16世紀ドイツから19世紀半ばのパリに移して豪華絢爛・退廃的な要素も加味して、とても分かりやすく見せてくれました。ファビアーノのファウスト、ルングのマルグリートも好演を聴かせます。エッティンガーの指揮も手堅い出来。


〇2019年10月8日ライヴ

モーツアルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

アーウィン・シュロット(ドン・ジョヴァンニ)、ロベルト・タリアヴィーニ(レポレッロ)、マリン・ビストローム(ドンナ・アンナ)、ミルト・パパタナシュ(ドンナ・エルヴィーラ)、ルイーズ・オールダー(ツェルリーナ)、ダニエル・ベーレ(ドン・オッターヴィオ)、ベトロス・マゴウラス(騎士団長)、レオン・コザヴィッチ(マゼット)

ハルムート・ヘンヒェン指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、カスパー・ホルテン演出)

ホルテン演出は最先端のプロジェクション・マッピングの技術を駆使して視覚的にも面白いですが、特にドン・ジョヴァンニが女性遍歴で女たちを苦しめたことに内心後悔の念を抱いている(らしい)という視点を興味深く見ました。最終場面の地獄落ちはドン・ジョヴァンニの幻想で、天上の合唱を聴きながらドン・ジョヴァンニは茫然と立ち尽くして幕となります。歌手陣はタイトル・ロールのシュロット以下音楽的にも演技的にも達者なところをみせて、満足が行く仕上がりとなりました。


〇2020年1月29日ライヴ

プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム

ソニア・ヨンチェヴァ(ミミ)、チャールズ・カストロボ(ロドルフォ)、シモーナ・ミハイ(ムゼッタ)、アンジー・フィロニチック(マルチェロ)

エマニュエル・ヴィヨーム指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、リチャード・ジョーンズ演出)

全体的に元気が良い歌唱で、演技はなかなか達者なところを見せますが、特に4人のボヘミアンたちの歌唱は直線的でストレートな印象で、気持ち良く能天気に大声を出している感じで・そういうところは確かにイタリアオペラ的ではあるが、もう少し歌唱にデリカシーとポエジーが欲しい。これはテンポが早めであまり緩急を付けないヴィヨームの指揮の責任が大きいように思われました。歌手のなかではメットでの舞台も踏んでいるヨンチェヴァのミミが水準を行く出来ですが、ムゼッタ役のミハイもいまひとつ魅力に乏しい。全体としてはプッチ―二の繊細さがあまり表現出来ていないように思われました。


〇2020年3月13日ライヴ

ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」

リーゼ・ダヴィッドセン(レオノーレ)、ディヴィッド・パット・フリップ(フロレスタン)、シモン・ニール(ピッツァロ)、アマンダ・フォーサイス(マルツェリーネ)、ゲオルク・ツェッペンフェルト(ロッコ)

アントニオ・パッパーノ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、トビアス・クラッツァー演出)

演奏はまずまず良いと思いますが、奇をてらったクラッツァー演出がいただけません。特に舞台奥に合唱団を配置し現代の醒めた観客(目撃者)に見立てたらしい第2幕がまったくダメで作品の主題をぼかして、違う方向へドラマを持っていきます。しかし、パッパーノ指揮の音楽はなかなか引き締まって、ダヴィッドセンのレオノーレ以下歌唱も安心して聴けます。ニールのピッツアロはもう少し憎々しさが欲しいところですが、これは演出のせいもあるでしょう。


〇2021年12月15日ライヴ

プッチーニ:歌劇「トスカ」

エレナ・スティヒナ(トスカ)、フレディ・デ・トンマーゾ(カヴァラドッシ)、アレクセイ・マルコフ(スカルピア)
オクサナ・リーノフ指揮
ロイヤル・オペラハウス管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・オペラハウス、ジョナサン・ケント演出、エイミー・レーン再演演出)

ジョナサン・ケント演出は、写実的な装置で分かりやすい。若手女性指揮者リーノフは、本公演がロイヤル・オペラ・デビューだそうですが、劇的振幅が大きい音楽作りでなかなか聞かせます。劇場での下積み経験が豊富であることがよく分ります。マルコフのスカルピアは声が明るめなのせいか・悪役の印象が弱い感じがしますが、歌唱は上手い。スティヒナのトスカとデ・トンマーノのカヴァラドッシは無難な出来です。


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